昨年12月24日、画家で絵本作家の安野光雅さんが亡くなった。
私は、「旅の絵本Ⅱ」を持っている。Ⅱは、イタリア編。
古き良きヨーロッパの風景、最初から最後まで絵だけ。
でも、少し上から見た世界は、俯瞰しながら、細部までよくわかる。
馬に乗った旅人とともに、田園風景の田舎から町へ、大きな町から海辺の町へ、移りゆく景色と建物や人の暮らしの営みの変化、を感じながら、旅をしていく。
人生、生きることそのものが旅なんだと、今は感じてしまう。
開いたページのそこここに、アダムとイブから始まって、受胎告知、東方の三賢人、キリストの誕生、ページが終わる頃には、「最後の晩餐」や十字架のキリストまで、さりげなく描かれている。
他にも、3匹の子豚やピノッキオ、etc.etc.…童話や映画の一場面が、小さいけれど存在感のある一場面があちこちに描かれており、興味は尽きない。
あまりにさりげなく描かれているので、見落としてしまうこともあるが、新たに見つける楽しみもある。
たまに何の気なしに開いて眺めているだけでも楽しく、豊かな気持ちになれる。
主人公の旅人だけでなく、そこに住んで暮らしている人々の一人一人、誰もが、自分の人生という旅の途中だ。
言葉の一つもない絵本の唯一の言葉は、安野さんの「あとがき」です。
最初に読んだ頃より、時を隔てて今読んだほうが、よりわかる気がする。魂の部分で。
(抜粋)
●ヨーロッパと日本では、言葉や、文字や、生活習慣など違うことばかりのようですが、別れるとき涙する人間の心には少しもちがいはなかったのです。心が同じということに比べれば、その他の形式的なちがいの、なんと小さなことでしょう。
●私はヨーロッパに沈む太陽を見て、それが世界中の、どこで見ても同じ一つの太陽だという、ごく当たり前のことをあらためて思いました。私には、ヨーロッパの言葉はわかりませんが、人の心はわかるのです。
●この本には言葉や文字がありません。でも、この本の中の人々が、何を思い何をしているのか、きっとわかってもらえるものと信じています。
●ヨーロッパと日本では、言葉や、文字や、生活習慣など違うことばかりのようですが、別れるとき涙する人間の心には少しもちがいはなかったのです。心が同じということに比べれば、その他の形式的なちがいの、なんと小さなことでしょう。
●私はヨーロッパに沈む太陽を見て、それが世界中の、どこで見ても同じ一つの太陽だという、ごく当たり前のことをあらためて思いました。私には、ヨーロッパの言葉はわかりませんが、人の心はわかるのです。
●この本には言葉や文字がありません。でも、この本の中の人々が、何を思い何をしているのか、きっとわかってもらえるものと信じています。
手元にある絵本は1979年の第三版。あちこちシミが出ているし、破けて補正したテープも黄ばんでいる。
でも、ずっと手元に置いておきたい絵本です。
感謝と共に安野光雅さんのご冥福を祈ります。