はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

家族揃って『武士の一分』を見た…

2006年12月17日 | 映画(2005-06年公開)


珍しく息子の方から時代劇映画を見たいと言い出した。
今話題の『武士の一分』である。
これには彼なりのちょっとした理由があった。
2004年に単行本の発行部数が一億冊を超えた人気漫画
『スラムダンク』の作者井上雄彦氏のもうひとつのヒット作
『バガボンド』に影響されて、と言って良いだろうか。

そもそも息子と井上雄彦作品との出会いにも面白いものがある。
当初私の担当美容師であったK君(若干20代半ばながら
プロ意識をしっかり持った腕の良い美容師です)
には、
今や家族全員がお世話になっている。
そのK君が漫画好きの息子に『スラムダンク』は必読だ!と
強く薦めたことが、息子と井上雄彦漫画との出会いだった。
『スラムダンク』にいたく感動した息子は、
井上氏のもうひとつの代表作『バカボンド』へ手を伸ばした。
そしてこれにすっかりハマッてしまったのである。

それだけではない。今度は『バガボンド』の着想の元となった
吉川英治の『宮本武蔵』を読みたいと言いだし、
学校図書館にないと知るや自ら市立図書館に足を運び、
貸し出しカードを発行して貰うと、分厚い単行本を借りて来て
今夢中になって読んでいる。あの読書嫌いの息子が、である。

当初は文庫本を探していたが、結果的には単行本で良かった。
なぜなら単行本には豊富な(味わい深い)挿絵があり、
それがちょうど頃合い良く紙面に登場して、
長文にはまだ不慣れな息子には、”箸休め”のようになっている。

私は息子が漫画好きであることを嫌だとは思っていない。
自分自身、子供時代には沢山の漫画を読んだのだから。
ただ漫画と並行して、活字の詰まった本も読んだ。
息子にもできれば同じように程よいバランスで漫画と活字の
両方に親しんで欲しいとかねがね思っていた。
それが思いがけない展開で実現している。

して、映画『武士の一分』についての息子の感想はと言うと、
「剣を交えるシーンが少なくてちょっと物足りない」らしい。
そりゃそうだ。これは藤沢周平作品で、剣術小説とは違うのだから。
藤沢作品は海外にいた時に取り寄せていた『オール読物』で
当時は藤沢氏も存命中だったから、新作中編をよく読んでいた。
設定は時代ものながら、作品が描いている世界観は
普遍的なものであり、今にも通じるものがあった。
本作でも印象が鮮烈だったのは、夫婦愛であり思いやりである。

山田監督も本作で”平凡な日常の尊さ”を描きたかったと
仰っていたように記憶している。
食事シーンというのは何もホームドラマの独壇場ではなく、
時代劇でも、日常生活を描く上で欠かせないシーンのようだ。
池波正太郎原作の、岸谷五朗の主演で久しぶりにリメイクされた
テレビ時代劇『藤枝梅安』でも、2時間の放映時間の間に
何度となく食事シーンが出て来て印象的だった。殺人のシーンと、
仲間と鍋を囲みながらほくほくと煮えた大根を食べるシーン。
その対照性が際だてば際だつほど、梅安の仕事の非情さと、
何気ない平凡な日々の尊さが心に沁みて来た。

以下はネタバレです。
本作『武士の一分』でも、最後の最後で、
”妻の手料理の味”が大きな意味を持っていて、
タイトルの”一分”で主人公が守りたかったものが、
実は「武士としての立場」より、
「夫婦の絆」であったのだと思い知らされる。

本作が心地よい余韻で映画館の席を立つことができる、
ひと味違った時代劇であることは間違いないと思う。

”永遠のアイドル”キムタク出演の時代劇ということで
話題になった本作であるが、私は本作を見ている間、
本作の世界観にどっぷり浸って、
主人公がキムタクであることはすっかり忘れていた。

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