はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

日本では20年ぶりの回顧展「マティス展」

2023年06月02日 | 文化・芸術(展覧会&講演会)
先日、東京都美術館で開催中の「マティス展」を夫婦で見て来ました。

いやはや、期待した以上の面白さで、最近は買い控えているカタログも、展覧会の余韻に浸りたいあまり購入してしまいました😅。

アンリ・マティス(Henri Matisse、1869-1954)の作家としての道のりを、その初期から最晩年まで振り返る大回顧展が日本で開催されるのは、実に20年ぶりのこと。

本展覧会はフランス🇫🇷はパリのポンピドゥセンターの全面的な協力を得て開催されるもので、取り扱うジャンルは絵画に留まらず、彫刻、素描、版画、切り紙絵、そして最晩年の南仏プロヴァンスの教会堂の映像資料、と多岐に渡ります。



その作品群は地下1階から地上2階までの展示スペースに、テーマ毎に8つのセクションに分かれて展示されています。

特筆すべきは1階部分の展示作品が全て撮影可能なこと!

近年、SNS等での個人による情報発信での宣伝効果を企図してか、企画展において貸し出し元の美術館の許可の下、展示作品の一部が撮影可能なケースが増えてはいますが、1フロア丸ごと撮影可なんて、私は初体験です😵。

しかも代表作とも言うべき作品さえも、惜しげもなく撮影可にしている太っ腹さ😵。

《赤の大きな室内》(1948)


《黄色と青の室内》(1946)


《夢》(1935)


《座るバラ色の裸婦》(1935-36)


《緑色の食器戸棚と静物》(1928)


《石膏のある静物》(1927)


マティス作品の真骨頂と言えば、やはりその色彩の美しさですが、それはごく初期から隠しようのない特質で、天賦のものだと認めざるを得ません。

その作品のフォルムは、年を経るごとに伝統的な形態の捉え方からより意匠的になりその作家としての姿勢は一貫して自らの審美眼で選び抜いた画家達(具体的にはゴーギャンシニャックセザンヌブラックピカソ等)の技法を積極的に試み、柔軟に取り込んで行く実験精神に溢れたものです(作品を見れば、制作当時、彼がどの画家に夢中になっていたかが一目瞭然☺️)

また、写真こそ撮れませんでしたが、初めて見るマティスの彫刻作品(《ジャネット》《アンリエット》《背中》と言ったシリーズ作品)は、作品の完成ではなく、試行錯誤するその制作過程に価値を見出した彼の着眼点が興味深く、本展の中でも刮目すべき作品群かなと思いました。

斯くして、"常に進化し続けた"と言う意味では、あのピカソ(1881-1973)に並ぶ存在でしょう(尤もマティスの方が作家としては先輩で、交流を持ち、相互に影響しあった関係でした)

実際、1918年にはパリのポール・ギョーム画廊でマティスとピカソの作品を対峙させる展覧会が開催されています。

《アンドレ・ルヴェールの肖像》(1912)


《半裸で立つ女性》(1923-24)


マティスは晩年、体調を崩してもなおその創作意欲は衰えを知らず、作家業の集大成として教会堂の総合プロデュースをやってのけます。

本展は、その生涯で世界恐慌、戦争、自身の病を経験する中でも、常に持てる力を十二分に発揮して創作を続けたひとりの作家の幸福な人生を、その多彩な作品の数々を通して見る者が追体験出来るような、大変印象深い展覧会でした。

彼の多彩な人脈を見ると、”人たらし”な一面もあったのかもしれませんね。彼の創作活動を支える人が常に身近にいたようです。

実はかつての私はマティスの良さが今ひとつ理解出来なかったのですが、30代半ばにして美大に入学し、自分で実際にさまざまな作品の制作に取り組んだり、古代から現代に至るまでの美術史を体系的に学んだことで、彼が近現代美術史において、どれだけ大きな役割を果たしたかを理解出来たように思います。

美術に限らず、何かについて興味・関心を持って1度でも深く学んだ経験は、自分が思う以上に「理解力」「読解力」(或いは「咀嚼力」?)を高める効果があり、「新たな価値観を受容する柔軟性」を脳に与えるのだなと実感しています。

人生を味わい尽くすには、常に好奇心と探究心を持ち、学び続けることが大切なのかもしれないですね。マティスのように。

《パイプをくわえた自画像》(1919)

《自画像》(1937)


開催は東京・上野の東京都美術館で、8月20日(日)まで。日時指定予約制です。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
(了)

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2 コメント

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Unknown (ごみつ)
2023-06-09 17:09:52
こんにちは。

マティス展、行かれたんですね!
何と20年ぶりの回顧展とは。

マティスの作品はグラフィックアート的な表現が大好きなのですが、特筆すべきはおっしゃられてる様に、やっぱり色彩の美しさですよね。

はなこさんも大満足の内容みたいだし、私も行きたいな~。8月までなので、時間がとれたら足を運びたいです。o(^o^)o
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「機会あれば是非!」 (はなこ)
2023-06-10 01:17:16
ごみつさん、こんばんは。お久しぶりです。

コロナ禍になってから日時指定で入場者数を絞ったり、作品の輸送コストが大幅に上がったことで、展覧会の入場料金が高騰して、私も展覧会に以前のようには行けなくなってしまいました。

今回も会期前に早期ペアチケットを購入したのですが、それでも一人当たり1,600円もしました。昔はふたりで2,000円の時もあったのに隔世の感ありですわ。その代わり、高校生以下は無料になりましたが…

コロナ禍になってから東京に行くこと自体億劫になり、多摩川を渡ることが心理的にどれだけ難しくなったことか…

そんな私が意を決して見た「マティス展」、マティスの作家としての歩みと成長(進化とその喜び)を目の当たりにして、とても楽しい展覧会でした。

撮影可のフロアでマティスの作品をスマホのファインダー?越しに見ると、驚くほど色彩が綺麗で感動の連続でしたよ。ごみつさんにも”マティス尽くし”を楽しんでいただけたらなと思います。

記事にも書きましたが、マティスならではの色彩美こそありませんが、彫刻のシリーズ作品は面白いですよ。ひとりのモデルの形態をここまで多様に表現できるのかと驚かされます。

機会があれば是非!現時点で、平日の午後でも結構な入場者数だったので、会期終わり近くには混雑しそうですね。出来ればお早目に。
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