はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

『人間の境界(原題:Green Border)』

2024年05月08日 | 最近見た映画
決死の思いで難民キャンプを出て、シリアから空路でベラルーシ入りし、そこから陸路で弟が待つスェーデンへ向かおうとしていた、祖父、両親と幼子3人のシリア人家族。

その家族にアフガニスタンからひとりポーランドへの移住を目指す初老の女性が加わり、一行は弟が手配してくれたワンボックスカーの「タクシー」で、まずはポーランド入りを目指す。

ところが、空港から深い森の道を暫く走り続けてのち、ポーランドとの国境付近で、一行はベラルーシ兵の待ち伏せに遭い、高額な通行料を巻き上げられた上に車も奪われ、有刺鉄線の向こう側へ追いやられてしまう。

そこは彼らが目指していたポーランドだったのだが…皮肉にもそこからシリア人家族とアフガニスタン人女性の本当の苦難が始まるのである。

互いに罵り合うベラルーシ軍とポーランド国境警備隊は、次から次へと押し寄せる中東アフリカ諸国からの難民達を「恩を仇で返すテロリスト予備軍」と嫌悪し、押し付け合う。

つまり彼らの手によって、難民達は有刺鉄線の間を、強制的に何度も何度も何度も行き来させられるのだ。その間(かん)に難民達は理不尽な暴力も受け、中には死ぬ者もいた。

果たして、彼らは無事に目的の地に辿り着けるのか…


本来なら生まれ育った国で暮らし続け、そこで生涯を終える方が幸せですよね。本人が望む限り。

しかし、それを許さない過酷な状況が、難民化する人々の国にはある。

一方で、多くの国と民族がひしめき合うEUも、加盟各国は自国の体制を維持するのに精一杯で、無制限に移民や難民を受け入れるのは難しい。

加えて「西側」と「東側」の政治的対立によるせめぎ合いもあり、それに巻き込まれる形で翻弄され続ける難民達の運命、そして失われる命。

昔、中東駐在時には何人ものパレスチナ人と交流があり、それ以前に仕事でシリア人とも関わったこともあるので、現在の両者の置かれた状況には複雑な思いがあります。

世界は彼らの為に何をすべきなのか?果たして何が出来るのか?

80年前の先勝?国が未だに牛耳る❇︎、硬直した体制の国連に為す術は無く、この難問の解決の糸口は容易には見つからない。

❇︎ 常任理事国が彼らの特権である「拒否権」を独善的に行使するので民主主義の基本である「多数決」が無効化し、国連では何も決められないし、国際社会は一枚岩にもなれない。だから「ならず者国家」はやりたい放題だ。

不謹慎な言い方かもしれませんが、まさに「国ガチャ」ですよね。なんだかんだ言っても、自分は日本に生まれて幸運だったと。そう思わざるをえない。

スクリーンに映し出される映像は、ドキュメンタリーさながらのリアリティで難民の惨状を描き、終始眉間に皺を寄せながらの鑑賞でした。

正直、しんどかった。しかし、同じ人間として無関心ではいられない、人間の尊厳に関わる問題を真摯に描いた作品なので、是非見るべき映画だと思います。

(了)

注:映画の粗筋部分に一部記憶違いがありましたので、改めて確認の上、訂正しました。

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