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昨日は雨が降ったり止んだりの天気の中、上野の東京藝術大学美術館で開催中の『大吉原展』を見て来ました。
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タイトルに「大」が付いているだけあって、かつてあった一大遊郭街『吉原』の「芸術文化の発信地」としての一面を世に知らしめるべく、世界各地から吉原に纏わるありとあらゆる文物を集めた展覧会でした。
光に対して脆弱な展示物が多く、その保全の観点から館内の照度が抑えられており、かつ展示品解説が充実している為、ついつい夢中で展示物や解説に見入った私は、途中で焦点がぼやけてよく見えない眼の不調に陥ってしまいました😅。
しばし館内に設置されたベンチに腰掛け休憩後、鑑賞を再開。
今回改めて思ったのは、美人画で知られる喜多川歌麿の絵の巧さ。
数多いる絵師の中でも、その人物線描の確かさと優美さ、着物の描写における(衣紋や紋様の)観察眼と色彩感覚、そして群像を生き生きと描き分ける才が群を抜いて素晴らしく、見惚れました。
それはタイトル写真のポスターに採用された作品でも如実に見て取れます(実際の作品はもっと色鮮やかです)。
喜多川歌麿《吉原の花》(一部分)
寛政5年(1793)頃
米ワズワース・アテネウム美術館蔵
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どうして、この美しい作品が日本ではなく、異国にあるのだろう…
他にスラリとした痩躯の美人画で知られた鳥文斎栄之や、鳥居清長、歌川広重、歌川国貞の絵が印象的でした。
ひところよりは衰退したものの、明治期にもあった遊郭の遊女の貴重な白黒写真も展示されており、現代の美の基準に照らしても充分に美しい女性達でした。
結局、出自が貧しいと言うだけで、詩歌の創作や楽器演奏、絵画の才に優れた遊女は少なからずいたわけで、吉原と言う檻(彼女達は親の前借金に縛られ、身請けされるまで吉原から離れることは許されなかった)の中で、そうした遊女は自身の才能を磨き、大夫等の地位にまで上り詰めて、有力士族や豪商の相手をしたのでしょう。
また、吉原は流行の発信地でもありました。元々華美な装いは禁じられていた吉原ですが、遊女達は着物や髷で精一杯おしゃれを楽しみ、それが江戸市中にも広がったようです。
さらに現代ならではの展示として、さまざまな作品に描かれた建築構造物を基礎データに、当時の吉原の街並みをCG映像で再現していたのがとても面白かったです。吉原の中を自分が実際に歩いているような感覚を楽しめました。
加えて、海外でも「不夜城」と紹介された吉原の24時間を、それこそ世界中から集めた錦絵を時系列に並べて詳らかにする展示もあり、一種独特な吉原での遊女達の日常を追体験する趣向がユニークで良かったです。
一箇所だけ写真撮影が可能な展示コーナーがあったので、ここぞとばかりに写真に収めました。
人形師の辻村寿三郎氏が、浮世絵や版本に描かれた文化・文政(1804-30)頃の吉原の大見世(妓楼)の情景を、檜細工師の三浦宏氏と江戸小物細工師の服部一郎氏と共に5年をかけて立体的に創作した『江戸風俗人形』。
建物は間口268センチの総檜造り2階建て。全てが精巧なミニチュアです❗️「技術の粋」をこうした形で残してくれたことに感謝‼️
「芸者だった母が身を寄せていた料亭の養子となり、花街の女性達に囲まれて育った辻村氏が、吉原の遊女への深い敬意と鎮魂の願いを込めて作った作品」だそうです。
当時の妓楼の華やかな四季折々の設えや美しい花魁の日常を覗き見る楽しさがありました。
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花魁道中
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ただ本展は吉原の華やかな一面にのみ光を当てるのではなく、「Me too運動」に代表される「女性の性の搾取問題」についての言及も各所でなされており、現代の倫理観に立った「吉原」の再考も行われています。
やはり今で言うところのパワハラ、セクハラも多く、それに嫌気した遊女らによる放火が、吉原では21回も発生したと記録に残っています。
今回の展覧会は単なるノスタルジーに終わらせないところが、(藝大美主催なので当然と言えば当然ですが)さすがアカデミックと言うか、何事も厳格に評価し直すポリティカル・コレクトネスな時代の風潮に適っているのかなと思いました。
実際「吉原」自体はなくなってしまったけれど、「吉原的なもの」は形を変えて、システムとしては存続しているんですよね。
それを思い起こさせる機会にもなっていると思います。人類がずっと向き合わなければならない問題。
(了)
余談ですが、コロナ禍で世界的に大ヒットした漫画(アニメ)の「鬼滅の刃」では明らかに吉原をモチーフにしたパートがあります。しっかりと華やかな色街の裏の汚さも描かれていましたね。
この展覧会、吉原の歴史や知られざる内側をこと細かに解説されていて、とても見応えがあり、勉強になりました。
「性の搾取」云々は、インバウンド効果で海外からの観光客も館内にはいたので(しかし、比較的少ない)、そう言う目も意識して防衛線を張ったのだと思います。
当初は日本橋に作られた吉原(元吉原)が、江戸城の近くの市中にあるのは拙いと言うことで、江戸の大火を機に浅草寺裏手に移転したこと(新吉原)、吉原ならではのさまざまなルールが存在し、合理的なシステムで運営されていたことを、今回初めて知りました。
こういう遊郭にも階層があって、吉原の周縁には劣悪な環境で性病管理もされない遊郭街があり、その格差を皮肉る歌も残されていたりして、そういうのもひっくるめて紹介されていたのが興味深かったです。
途中からは幕府からの締め付けもあって士族の吉原通いは禁じられ、商人や一般町人だけが通えるようになったとか。
「吉原の24時間」と言うテーマで、時間割に沿った絵が世界中から集められ、時系列に展示され、それによって不夜城吉原の1日を追体験出来たりと、趣向を凝らした企画が素晴らしかったです。
身体はひとつなので、くれぐれもご自愛ください。