今だから…昭和さ ある男のぼやき

主に昭和の流行歌のことについてぼやくブログです。時折映画/書籍にも触れます。

LP「松島詩子・歌声は永遠に」(SKD-297・キング)

2006-06-26 19:30:32 | 昭和の名歌手たち

前々からオリジナル音源を聴きたかった歌手の一人に松島詩子がいます。

先に言っておきますが
ミネラル麦茶のCMは「松島トモ子」です。
ライオン&ヒョウに咬まれたのも「松島トモ子」です。
小堺一機の「いただきます」に出ていたのが「松島詩子」です。
お間違えの無いように。

2006年6月現在、長年所属していたキングレコードからは、残念なことにオリジナル音源の全曲集のCDは発売されていません。
ステレオ再録音の音源も、これはこれで決して悪くはありません。
長年唄いこまれ、さらに豪華なオケ&アレンジ、円熟しきった歌唱力…。
でも、オリジナルで聴きたかった。
歌が醸し出してる時代の空気を感じながら、歌を聴きたかったから…。
松島の唄い方の変遷も知りたかったし。

ゆえにこのLPを見たとき、喜んで購入。
ところが、LPのどこを見ても「何年発表」かはわからない…。
こういうときにネットは便利…のはずが、昭和は遠くなりにけり。
さっぱりわからなかった…(汗)。
でも、音を聴けば大体の時代は見当つきます。
ということでここからは私の解説&感想を。


A面
1.マロニエの木陰
作詞:坂口淳 作曲:細川潤一
昭和12年発売。
昭和28年第3回紅白で歌唱。
和製タンゴの傑作であり、昭和歌謡史に燦然と輝くエヴァーグリーン曲。
この一曲で松島詩子は後世に残る歌い手となる。
しかし、ここに収められている音源は当時のものではない。
昭和28年~30年代中頃に新たに吹き込まれた音源だ。
完全に歌唱法を確立した頃で、ステレオの音源と違い、衰えはまったく感じない。
まさしく円熟の歌声、昭和モダンを存分に味わえる。
(オリジナルの音源はキングから出ているオムニバス盤で聞くことは可)

2.私のアルベール
作詞:矢野亮 作曲:中野忠晴
昭和29年発売。
和製シャンソンの傑作であり、この手の分野は松島詩子の独壇場であろう。
このあたりで松島の歌唱法が完全に確立する。
松島詩子の大きな転機の曲じゃないだろうか。

3.スペインの恋唄
作詞:矢野亮 作曲:吉田矢健治
昭和29年発売。
同年の第5回紅白でも歌唱。
「カルメン」を題材にした、フラメンコ調の曲。
口ずさむには難しい歌だがヒット。これも松島しか歌えない歌だろう。
これはステレオ版だとさらに派手なアレンジに。
歌が終わると同時に松島が倒れるのでは、と思うほどハイテンポ。

4.さよならも云わないで
作詞:東條寿三郎 作曲:吉田矢健治
昭和26年発売。
淡谷のり子のビクター移籍第一弾「泣き濡れしシャンソン」を聴き、淡谷の地声とファルセットの対照をあまりに聴かせた唄いっぷりに衝撃を受けた松島が、音程を4度下げてレコーディングしたもの。
試行錯誤中ということもあるのか正直、唄い方がまだ甘いかなと思う。
この歌は松島の大きな転機の曲だろう。

5.セーヌは知っている
作詞:矢野亮 作曲:中野忠晴
昭和29年発売。
松島自身による台詞入り和製シャンソン。
曲に台詞を挿む形は松島の十八番になっていく。
中野忠晴の作曲センスが光る佳作。

6.夜のヴァイオリン
作詞:若杉雄三郎 作曲:渡久地政信
昭和31年発売(自信なし)。
同年の第7回紅白でも歌唱。
実に美しいメロディー。渡久地政信はこの曲を生み出したあたりでビクターへ移籍してしまう。もしキングに残っていたら、松島の名曲も、もっと増えたと思われる。
ただ、最後の♪ヴァイオ~リ~~ンの部分は詩がうまく合っていない気がする。
そしてこの部分が一番難しい。
こういう難曲もしっかりと唄いこなす松島は流石としか言い様がない。

7.上海の踊り子
作詞:時雨音羽 作曲:細川潤一
昭和15年発売。
まさに「歌は世につれ」を体現した曲。
この年、上海と名のつくヒット曲は多い。
どう考えても「上海の花売娘」(岡晴夫)の2匹目のドジョウを狙ってる…。
ドジョウはいたらしく、「岡=花売娘、松島=踊り子」で行こうとキングではなったらしい(?)。姉妹曲に「広東の踊り子」がある。
この曲、おそらくオカッパルが歌ってもヒットした気がする・・・。
「上海の花売娘」を松島が大層気に入っていた(26年の第一回紅白でもその関係で歌唱)らしいから、案外松島が細川に「私もああいう曲歌いたい」と頼んで書いてもらったのかも知れない。

B面
1.喫茶店の片隅で
作詞:矢野亮 作曲:中野忠晴
昭和30年発売。
昭和33・35年の9・11回紅白でも歌唱。
松島詩子、戦後最大のヒット曲。「マロニエの木陰」に続く昭和歌謡史に燦然と輝くエヴァーグリーン曲。
この曲は爆発的にヒットした訳ではないらしく、徐々に徐々に浸透していった曲らしい。
私に、松島詩子を聴いてみようという気にさせた歌でもある。

2.マロニエの並木路
作詞:矢野亮 作曲:中野忠晴
昭和28年発売。
歌唱法がほぼ後年のモノに近づいている。
正直、大したモノではない歌である。
(追記)
ワルツ(?)調の曲であり、「マロニエの木陰」とは姉妹編のようで、まったくの別物。
曲が生まれた時期もまったく違う。ヒットのためか、タイトルだけ借りたのだろう。
「~木陰」よりも親しみやすく、「大したモノではない」と書いたが、あなどってはいけない作品である。


3.ガーデンブリッジの月
作詞:佐藤惣之助 作曲:田村しげる
昭和13年発表。
ガーデンブリッジという題名からわかるが、歌の舞台は上海である。
なかなかの佳曲であり、なぜ現行の全曲集に収録されていなのか分からない。

4.枯葉よ語ろう
作詞:矢野亮 作曲:吉田矢健治
昭和28年~30年代中頃、発売。
松島十八番の和製シャンソンの佳作。
吉田矢健治という作曲はなかなかあなどれない。

5.花の溜息
作詞:服部鋭夫 作曲:林伊佐緒
昭和27~28年頃発売。
和製タンゴの隠れた名曲。
タンゴは松島の得意分野。
ゆえ文句なしの歌唱。
ただ、♪しろ~い くちな~しのは~な~ の部分を聴くと、どうしても渡哲也の「くちなしの花」を思い浮かべてしまう(苦笑)。

6.波止場への道
作詞:矢野亮 作曲:中野忠晴
昭和31年発売。
歌謡界のマドロスブームに松島も挑んだ曲。
サビが「羽田発7時20分」(フランク永井)に似ている。
ちなみに「羽田発7時20分」は32年発売。
吉田正には「潮来笠」での流用話もあり、多分これもそれかと。

7.去りゆきしあの日
作詞:矢野亮 作曲:吉田矢健治
昭和29年発売。
台詞の量が多い。
おそらく「セーヌは知っている」での台詞が好評だったのを受けてだと思われる。
詩は「マロニエの並木」「さよならも云わないで」…等、何となく当時の松島詩子の集大成と思える。


以上、ネットであちこち発売年を検索しながらの解説&感想です。
本当は松島の自伝「わが心の星・歌-マロニエの道六十年-」が手元にあれば、もっと正確な情報がわかるのでしょうけれども…。

松島詩子の歌い方は、クラシック→シャンソンと今は絶滅してしまったモノです。
どちかかといえばハイソな匂いも。正直、今受けいけられるかはわからない。
・・・と思ったんですが、最近はクラシック畑の方が昭和の流行歌を積極的に歌うことが多い。結構需要は多いようで、案外この方も密かに人気があるのかも知れない。