吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

昭和初期の大阪 十七

2006年09月11日 02時15分20秒 | Weblog
 昭和初期の大阪  十七

 金谷点柱(こんたにてんちゅう) 五
 …ウメチャンちのお父はウメちゃんと同じ秀才や!…とつぶやきながらある雨の日、ぼくはウメちゃんちの小さな部屋でまわり将棋をしてあそんだ。
 ぼくんちでは母の化粧間と同じ玄関よこの部屋だった。壁にびったりへばりついた本箱に難しい字の書いた本がぎっしりつまっている。
 …こ、こ、こ、れ、よ、よめるでエ…
 ウメちゃんが本箱のしたのほうから糸で閉じた表紙がすり切れた本を開いて言った。
 ぼくは小学校にあがるのは来年だから読める字はタンクタンクロウが言う言葉をやっと覚えていた。
 ウメちゃんは住吉に遊びに行く途中の、うどん、蕎麦と書いた看板を読んだり、山田煙草、高井染め物屋、八百正、戸田食堂などの看板を全部読めた。
 …てんちゃんはヤンバンの天才やからウメちゃんはおそわったんやろ?…
 ぼくはうらやましそうに聞いた。
 ウメちゃんがだした本はせんじもんと言う。
 難しい字はかんじとウメちゃんが教えてくれ、朝鮮では一番始めに学ぶ本と言った。 …お父は秀才やからええわ、ぼくのお父は北海道と言う熊がおるとこではたらいとるんや…
 ぼくは母から聞いた父のことをウメちゃんに言った。
 ウメちゃんは帳面を開いて、金谷梅吉と大きな字で自分の名前をかき、ぼくの名前も博とまるで学校の先生がかいたように立派な字だ。
 ウメちゃんは絵も上手だ。
 タンクタンクロウが刀を抜いてふりあげた顔は口をへの字にして刀も大きくそっていてよくきれそうだ。