昭和初期の大阪 二十五
金谷点柱 十三
ひょうたん飴
なんでも天才のウメちゃんにどうしても出来ない飴しゃぶりがある。
三日に一度、屋台をひいて飴売り爺さんがやってくる。
路地のわきに屋台をとめると女学校で鳴らす小使さんのふる鈴よりすこし小さな鈴をふってまわりを一回りすると子供たちが一銭銅貨を手に集まってくる。
横の小鍋で透き通った茶色の飴を暖めて屋台のまんなかの鉄板に飴を流し、ボール紙くらいの厚さに延ばし、銅金で作ったひょうたん型を飴がかたまらないうちに押してゆく。全部で五十ケくらいおしてから、細長い四角の金型でひょうたん飴を切り離しそれを一ケ一銭でうるのである。
ぼくたちはひょうたん飴が途中で割れないようにそっと口に入れて飴の裏をなめるのである。
下手くその男の子が口に入れてすぐ割ってしまうともう終わりで高い飴代になってしまい半ベソをかいてほかの子の口元をうらやましそうにみつめるのだ。
ウメちゃんはドモリやから舌がぼくとちがってるのか、舐め方が下手なのでやはりまもなく割ってしまう。
ウメちゃんもうらやましそうにぼくの口許をみつめている。
すこし時間がすぎてぼくのひょうたんの縁がうすくなり割れてくるがきまりがあって飴に手でさわってはアウトになるのだ。手でひょうたん飴をつかんでなんども裏をなめてはいけないのである。
いったん口に入れたひょうたん飴はちやんとひょうたん形がそのまま薄いふちの線から割れて出てこないといけない規則だった。
ぼくは見事に舌からわくをとったひょうたん飴をだして爺さんにあーんと見せた。
じいさんはよっしゃよっしゃと!とさけんであたりの鈴をならす。
ぼくは景品の手のひら一杯ほども大きい人形飴を爺さんから貰った。それだけ買うと三銭もするのだった。
二枚目のひょうたんも見事に形どうりにしてべろを爺さんにみせた。
…かなわんがなもう!…爺さんは二枚目の相撲さんの形の大きな飴をぼくにくれて…ほなら今日はおしまいや!…と言った。
ぼくはウメちゃんにお相撲さんの形の飴をあげた。
ほかの子供は皆失敗してうらやましそうにぼくの口をみつめている。
金谷点柱 十三
ひょうたん飴
なんでも天才のウメちゃんにどうしても出来ない飴しゃぶりがある。
三日に一度、屋台をひいて飴売り爺さんがやってくる。
路地のわきに屋台をとめると女学校で鳴らす小使さんのふる鈴よりすこし小さな鈴をふってまわりを一回りすると子供たちが一銭銅貨を手に集まってくる。
横の小鍋で透き通った茶色の飴を暖めて屋台のまんなかの鉄板に飴を流し、ボール紙くらいの厚さに延ばし、銅金で作ったひょうたん型を飴がかたまらないうちに押してゆく。全部で五十ケくらいおしてから、細長い四角の金型でひょうたん飴を切り離しそれを一ケ一銭でうるのである。
ぼくたちはひょうたん飴が途中で割れないようにそっと口に入れて飴の裏をなめるのである。
下手くその男の子が口に入れてすぐ割ってしまうともう終わりで高い飴代になってしまい半ベソをかいてほかの子の口元をうらやましそうにみつめるのだ。
ウメちゃんはドモリやから舌がぼくとちがってるのか、舐め方が下手なのでやはりまもなく割ってしまう。
ウメちゃんもうらやましそうにぼくの口許をみつめている。
すこし時間がすぎてぼくのひょうたんの縁がうすくなり割れてくるがきまりがあって飴に手でさわってはアウトになるのだ。手でひょうたん飴をつかんでなんども裏をなめてはいけないのである。
いったん口に入れたひょうたん飴はちやんとひょうたん形がそのまま薄いふちの線から割れて出てこないといけない規則だった。
ぼくは見事に舌からわくをとったひょうたん飴をだして爺さんにあーんと見せた。
じいさんはよっしゃよっしゃと!とさけんであたりの鈴をならす。
ぼくは景品の手のひら一杯ほども大きい人形飴を爺さんから貰った。それだけ買うと三銭もするのだった。
二枚目のひょうたんも見事に形どうりにしてべろを爺さんにみせた。
…かなわんがなもう!…爺さんは二枚目の相撲さんの形の大きな飴をぼくにくれて…ほなら今日はおしまいや!…と言った。
ぼくはウメちゃんにお相撲さんの形の飴をあげた。
ほかの子供は皆失敗してうらやましそうにぼくの口をみつめている。