吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

昭和初期の大阪 十三

2006年09月07日 05時37分25秒 | Weblog
 昭和初期の大阪  十三

 金谷天柱(こんたにてんちゅう)
 ウメちゃんのお父の名前はてんちゅうと言う。                   …今度はどこの森や?梅林とちやうろう!…    
 てんちゅうおんちゃんはウメちゃんの見せた目白に眼を細くして言うた。
 …け、け、け、や…
 …欅の森やったらヤマガラもいるがなかなかかからんで!…そうや、あれ買うてきたね  食べるかぁ!…
 てんちゅうおんちゃんはリヤカーの隅の紙包みをとりだして開いた。…
 キビダンゴの串刺しやった。
 ぼくの大好物やった。ウメちゃんもお、お、!と叫んだ。
 勿論おおきにのお、お、である。
 てんちゅうおんちゃんは阿倍野駅近くの風呂屋さんへ直した桶をとどけにいった帰りだった。
 …おんちゃんの家は朝鮮の金持ちなんやろ?…
 ぼくは団子を頬張りながら訊いた。
 …ヒロ君!誰に聞いた?…
 …ぼくの家も昔番所の殿様やった!母ちゃんに聞いた!…
 …おんちゃんの家も昔は金持ちやったがいまは文なしになって家族はぱらぱらや、日本  の景気ええ言うて弟二人は九州と北海道の炭鉱へ働きに行った。わしはもの造りが好  きやさかい堺の桶屋に奉公してここにきたヨ!母ちゃんは梅吉を生んでまもなく風邪 をこじらせて天国へ行ってもうた!…
 てんちゅうおんちゃんは筋がもりあがった太い腕をひっかきながらそう言った。
 おんちゃんが裸になると胸に小さな丸い痣があるのでてんちゅうの父がつけた朝鮮名でほんとうは天ではなく点と母が言った。
 桶屋の仲間逹や朝鮮の友達は皆、テンチャン、テンチャンと呼び、朝鮮名は金海の金点柱で日本ではお公家さんみたいに偉い名前だそうである。