吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

昭和初期の大阪 八

2006年09月02日 11時17分18秒 | Weblog
昭和初期の大阪  八

 リレー独楽
 秋もふかまって碁会所まえのこんもりしたプラタナスの大きい葉が黄色になっていつも止まって露をすっていた黄金虫も姿をけす頃、ウメちゃんは独楽をもちだしてその腕前をぼくに見せた。
 幼心に活動写真のウタエモンやガマ忍術の刀や化けかたの名人になんとなくあこがれていた。
 ビー玉もそうやったが独楽芸ではだれも適わない。
 どうして口は吃りなのになんでも器用なのがふしぎでならない。
 母はウメちゃんの頭は何百人に一人いるかおらんかの秀才じゃきものにも器用なんじゃ…と褒める。
 ウメちゃんは独楽に紐をまいて空中に投げた瞬間に紐をまよこにひくと独楽は地に墜ちずにそのまま空中からウメちゃんの手の平にぴょんとのっかってくるくる回っている。
 ウメちゃんの独楽の赤い模様は磨り減って心棒だけがぴかぴかにひかっている。
 ぼくが回すと独楽は地べたに体をぶつけてそのままころころあっちの溝までころがっていった。
 なんどやっても地面に立たない。
 …こ、こ、こ、こうす、す、るーんや!…
 ウメちゃんは独楽に紐をわずか二回まいただけのを空中に投げて戻すとぴったり手のひらに乗って勢いよくまわった。
 …忍術や!忍術や!…
 ぼくはうらやましそうにウメちゃんを眩しく見た。
 ぼくはウメちゃんと毎日練習した。
 十日ほどしてやっと地上でしばらくまわるようになった。
 とまる直前になんどもなんども首をふってやっと我慢が出来ずに独楽はひっくりかえりながら…はよう覚えな!…とつぶやいた。