吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

昭和初期の大阪 十六

2006年09月10日 01時36分10秒 | Weblog
 昭和初期の大阪  十六

 金谷点柱(こんたにてんちゅう) 四
 ぼくの家には本箱がない。だいいち本なんか一冊もない。この間ウメちゃんのおかげでやっとキシャのゲンちゃんからもらったふるい幼年倶楽部が五冊、母の鏡台横にある。
 家にあるマンガらしいのはぼくの茶碗だ。
 最初は桃太郎がいぬ、さる、きじ、の家来をつれて桃太郎の旗を持った絵の茶碗だったがいつのまにかタンクが走る絵にかわった。
 …ぼくの桃太郎がのうなった!桃太郎がのうなったんや!…
 …鬼ケ島へ鬼せいばつに行って割れてもうたけんね、タンクはわれんぞね、つよいぞね  と母が言う。
 タンクタンクロウは一番強い子供で、どんな敵がやってきても負けないし、負けそうな時は必ず手足をしまい込んで黒い大きな鉄のビー玉みたいになる。
 母が踏むミシンは蝉みたいにジーンジーンと聞こえる。
 腹ばいになってタンクロウを見ていると必ずお腹がぺこぺこになる。
 それからが大変だ。
 ミシンを踏む母のそばにへばりついて…一銭おくれ!一銭おくれ!とねばるのがぼくの大仕事になる。
 ほとんど母はぼくの言い分を聞かず、だまってミシンを踏んでいる。
 十回くらいねばってやっと…ほんとにこの子はしょうむない!と言うと嬉しくなった。 神棚まで行って一銭をとってくるのだ。
 ゲンちゃんちの裏通りのせんべい屋近くまでくるといっも美味しそうなせんべいの焼く匂いがした。
 ぼくが買うのはくずせんべいが粉みたいにつまった三角形の新聞紙につまった袋だ。
 やいたせんべいのふちについたくずを集めてうっているのた。