昭和初期の大阪 二十二
金谷点柱(こんたにてんちゅう) 十
…今日は公会堂でええ集まりがあるけんいっしょに来いいや…
ある日母は鏡台に向かっていつも外へ洋服をおさめにゆくときのようにしきりに頬を朱くするために赤折り紙に唾をつけてこすりながら言った。
…一銭くれるんやろ!…
ぼくはその日、ウメちゃんと阿倍野ケ原へバッタとりに行くやくそくやったのでぼくの気持ちを変えるので一銭をもらういい理由になった。
…ああ!あげるけん!…
母はいい返事をして…ウメちゃんもいっしょにつれて行くけん…と行った。
ぼくは嬉しくてウメちゃんちへ知らせに行った。
ウメちゃんのお父も悦んでくれた。…
会場は大勢の人々でわんわんしていた。
するとなかが真っ暗になって活動写真がはじまった。
偉い少年が一生懸命勉強したり働いたりしながらとても偉い大人になり、なにかが起きて小さな島へ流されて、やがて一人ぽっちになって海に取り残されて水が段々あがってきて胸までくると突然太鼓がなりだしてその音が大きくなると水がふしぎにもひいてきてまもなく頭が坊主の大人が無事陸にもどる活動写真やった。
大きな拍手が起きてやがてあかるくなるとぼくたちは二階から飴をなめながらしたにぎっしり詰まった人々を眺めていた。
母が連れて行った所はそんな活動写真をうつす場所だった。
うまれて初めてウメちゃんとぼくは乗合自動車に乗った。自動車が凄い速さでみたこともない街を走った。はきだす煙の匂いがとても美味しそうな匂いがした。
…ウメちゃんええ匂いやな!…
ぼくがつぶやいたら、ウメちゃんは恥ずかしそうにちいさな声でそ、そ、そーやと言った。
金谷点柱(こんたにてんちゅう) 十
…今日は公会堂でええ集まりがあるけんいっしょに来いいや…
ある日母は鏡台に向かっていつも外へ洋服をおさめにゆくときのようにしきりに頬を朱くするために赤折り紙に唾をつけてこすりながら言った。
…一銭くれるんやろ!…
ぼくはその日、ウメちゃんと阿倍野ケ原へバッタとりに行くやくそくやったのでぼくの気持ちを変えるので一銭をもらういい理由になった。
…ああ!あげるけん!…
母はいい返事をして…ウメちゃんもいっしょにつれて行くけん…と行った。
ぼくは嬉しくてウメちゃんちへ知らせに行った。
ウメちゃんのお父も悦んでくれた。…
会場は大勢の人々でわんわんしていた。
するとなかが真っ暗になって活動写真がはじまった。
偉い少年が一生懸命勉強したり働いたりしながらとても偉い大人になり、なにかが起きて小さな島へ流されて、やがて一人ぽっちになって海に取り残されて水が段々あがってきて胸までくると突然太鼓がなりだしてその音が大きくなると水がふしぎにもひいてきてまもなく頭が坊主の大人が無事陸にもどる活動写真やった。
大きな拍手が起きてやがてあかるくなるとぼくたちは二階から飴をなめながらしたにぎっしり詰まった人々を眺めていた。
母が連れて行った所はそんな活動写真をうつす場所だった。
うまれて初めてウメちゃんとぼくは乗合自動車に乗った。自動車が凄い速さでみたこともない街を走った。はきだす煙の匂いがとても美味しそうな匂いがした。
…ウメちゃんええ匂いやな!…
ぼくがつぶやいたら、ウメちゃんは恥ずかしそうにちいさな声でそ、そ、そーやと言った。