最近の出来事

ニュースや新しいテクノロジー、サイエンスについて感じること。

Carol Greider とノーベル賞

2009-10-06 05:12:43 | 日記
キャロル・グライダーがノーベル賞を受賞したというニュースを聞いた。おめでとう。
http://nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2009/

数年前にジョンスホプキンスの大学院に志願している学生のことを電話で聞いてきたのが、話をした最後だったかな。学生の選抜委員会の座長をしていながら、出来るだけ多くの情報を集めようと精力的に活動していた姿が印象的だった。

初めて彼女と話をしたのは1994年。彼女はコールドスプリングハーバー研究所のPIとして活躍していた。彼女の研究室と自分が属した研究室は廊下の両端の関係なので、普段からお互いが丸見えだった。(ちなみに、研究室にドアはない)彼女の専門分野に関する実験手順も聞けば気さくに教えてくれたし、試薬等も融通し合うのが常だった。2年くらい彼女の仕事ぶりとか考え方に触れる機会があったが、その後 Johns Hopkins に移っていった。その当時の Demerec ビルの仲間で今残っているのは一人だけ。移り変わりは激しい。

ノーベル賞受賞者とは何人かと話をしたことがあるけれど、みんな受賞後に初めて会ったので、受賞自体は他人事と言って良かった。長年にわたって仕事を見てきた人が受賞するのははじめてなので、今年のノーベル賞は格別です。

それにしても、日本人のノーベル賞受賞者は田中耕一さんを除いて近寄りがたいまでの威厳がある。決して田中さんを誹謗しているわけではない。田中さんは人間としてすごく魅力のある人だ。話し方が穏やかで、人の話を真剣に聞く態度をはじめ学ぶところがたくさんある。良い意味で、自分の周りに垣根を作らないと言いたかった。キャロルや物理学者の Horst Stormer もその意味では親しみやすい人格者といえる。

ここまで書くとやはり James Watson を避けては通れない。良い思い出もある。週末に仕事していると散歩がてらやって来て背後霊のように後ろに立っている。人の気配がして振り返ると、初めて話しかけてくる。実験の概略を説明すると、彼の専門分野ではないにもかかわらず即座に鋭い質問が飛んでくる。頭の回転の速い人である。科学の話になると目が輝いてどんどん盛り上がっていくのが印象的だった。
一方、彼には人種差別的考えが残っていて(Eugenics)いつか問題になると広く信じられていた。イタリア人(シシリア人)の友人はワトソン博士が講演でイタリア人を無能だと馬鹿にする度に憤慨していた。くだんの件も遂にしっぽを捕まれたかという感じ。
http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/article2630748.ece

コールドスプリングハーバー研究所も彼が研究資金集めに活躍するので、彼の言動に目をつぶっていたがついに見限った。 彼の頭の中はサイエンスのみ、周囲に対する思慮は無い。
http://www.cshl.edu/public/releases/07_statement2.html
http://www.cshl.edu/public/releases/07_watson_retires.html


ここで余り一般に知られていない話を一つ。Elizabeth Watson (リズ、ワトソン夫人)は専門が ビクトリア様式の建築で、電子顕微鏡を使って塗料を解析して当時の色彩を復元した。その異様な色彩の建物がコールドスプリングハーバー研究所の入り口に立っている。黄色というか何というか。リズは当然ながらその建物をいたって気に入っている。電顕を使えば元々の色が判るというのが新鮮だった。