© サンケイスポーツ 提供 使用中止の方針を受け、東京都庁の第一庁舎の受付に貼られていた東京五輪2020のエンブレムのポスターをはがす職員=1日、東京都新宿区 (撮影・鴨川一也)
またも撤回! 2020年東京五輪の公式エンブレムの使用中止が1日、正式に決定した。盗作疑惑が指摘された制作者の佐野研二郎氏(43)が撤回を申し入れ、大会組織委員会が了承した。新国立競技場の建設計画見直しに続く、前代未聞の大失態。五輪スポンサー企業がHPからエンブレムを削除するなど早くも“損害”が出ており、海外メディアが厳しい論調で報じるなど国際的信用への悪影響は避けられない。
2013年9月8日(日本時間)に東京での五輪開催が決まって約2年。7月24日に公式エンブレムが発表になって、40日目。エンブレムの見直しという五輪史上極めて異例の事態となった。
エンブレムがベルギーの劇場ロゴに似ていると指摘され、佐野氏の他の作品でも“盗作疑惑”が渦巻く中、大会組織委員会が1日午後の臨時調整会議でエンブレムの撤回を決めた。7月17日にメーンスタジアムとなる新国立競技場の建設計画の見直しが決まったが、これに続く白紙撤回だ。
組織委の武藤敏郎事務総長が午後6時から会見。同日午前に佐野氏らと協議した際、佐野氏から「自分や家族への誹謗中傷がなされている」などと説明があり、取り下げを希望したという。
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武藤氏は「国民に申し訳ない」と謝罪。「直ちに新しいエンブレムの選考に入りたい。公募を大前提にしたい」との考えを示した。佐野氏に対する賞金100万円については「支払わないことにしたい」と明言した。
東京都の舛添要一知事は調整会議前、「裏切られたという感じ。エンブレム自体のイメージは非常に低下した」と厳しく批判した。
影響は早くも各方面に及んだ。五輪スポンサーの日本企業21社のうち、1日朝の時点で15社がCMやHPなどにエンブレムを使用。三井不動産と日本航空(JAL)、NECなどはHPから削除した。JX日鉱日石エネルギーや日本生命保険なども、エンブレムを使用しているテレビCMを修正する方針を示した。
HPへの掲載に比べCMは制作費などの負担も大きいが、JXは影響額について「今の時点ではいくらになるか分からない」。各企業は白紙撤回に伴う損失への対応を明かしていないが、ゴールドパートナーの各企業は6年間で150億円を拠出。ある企業の関係者は「ブランドイメージを上げるためのスポンサーなのに、騒動で逆にイメージダウンになるのではと不安だ」とこぼした。
協賛社には「なぜああいうエンブレムを使う五輪を応援するのか」との苦情も寄せられているといい、今後は関係当局への損害賠償を検討する動きが出る可能性もある。
東京都は、7月24日にエンブレムを発表したイベントの費用に最大7000万円を支出。さらにのぼり旗やポスターなど約4600万円分を発注しており、これら経費の負担についても今後議論される見通しだ。
海外もさっそく反応をみせ、英BBC放送(電子版)はこの騒動について「ぶざま(awkward)」と報じた。経済問題の専門家はサンケイスポーツの取材に「国際的信用も考えれば、損害は計り知れない。大きなマイナスになる」と指摘。迷走は、いつまで続くのか…。
★会見せずHPで謝罪
佐野氏は1日夜、事務所のHPで「(エンブレムについては)模倣や盗作は断じてしていないが、それ以外の私の仕事において不手際があった」とコメント。
取り下げた理由については、プライバシー侵害など異常な状態が今も続き「もうこれ以上は、人間として耐えられない限界状況だと思うに至りました」としたうえで「批判やバッシングから家族やスタッフを守るためにも、もうこれ以上今の状況を続けることは難しいと判断した」と説明。「ご迷惑をおかけしてしまった多くの方々に、深くおわび申し上げる」と謝罪した。
選考過程
8人の審査委員が行った。審査委員代表を務めた永井一正氏によると、選考はデザイナー名が分からないように進められ、104点の応募作品から投票で4点に。佐野氏の応募時の原案は、その後の商標調査で類似性があるものが見つかり佐野氏が修正したが、躍動感がなくなったとしてさらに手直し。2度の修正を経て現在の形に。審査委員の1人は「選んだ原案と違う」と反発したが、他の7人は了承して公式エンブレムに。