「最後のごぜ小林ハル」。今そのCDを聞きながらこのブログを書いている。小林ハル96歳の時の録音。96歳とは思えない、若々しく活き活きした声での絶唱。
この人の生涯は、NHKのドキュメンタリーで見た。本も読んだ。冬の雪の日毎日、河原での稽古。先輩について村々を回っても「小さい娘はおねしょをするからダメ」だと、家に入れてもらえず、戸外で一晩明かしたことも何度か。先輩ごぜにいじめられ、子供を産めないからだに。養子として迎えた娘夫婦にも裏切られ、その生涯は凄絶だ。
そんな不幸な生涯、苦労の数々を、愚痴ることもなく、誰を恨むでなく、心は澄み切って、100歳を越え、目は見えなくとも、実に美しい容貌をしていた。だがその唄声は“地の叫び”だ。聞く者の魂を激しく
揺さぶる。
「よい人と歩けば祭り 悪い人と歩けば修行」
一休は77歳で、森女(しんにょ)という盲目の女性を愛した。森女は、鼓を打って仏教説話を語る、いわばごぜの元祖だ。
その森女を一休は「そなたは、その不自由なからだを少しも厭わず、この世をのろうこともなく、神仏を恨まず、清らかな心で仏の功徳を歌っている。そなたこそ真にわが仏じゃ」と、88歳までの10年、森女を慈しみ、仲睦まじく暮らす。
森女と小林ハル、私の中で重ね合わさるのだ。