木村 和美 Architect

建築家木村和美の日常活動とプロジェクトについてのブログ

●水戸芸術館の建築について

2010-07-11 22:16:36 | Weblog

 

週末の金曜日に又水戸に行ったが、仕事が早く終わったのでせっかくだからと思い水戸芸術館へ行ってみた。

駅前の地図によると水戸芸術館はすぐ近くのように思えて歩いてみると思いのほか遠く、途中で小雨も降ってきて散々な目にあった。

 

水戸芸術館は、1990年に建築家磯崎新氏の設計で建設された、音楽ホールや劇場、現代美術ギャラリー、会議室等を備えた芸術コンプレックスである。

当時の佐川市長が文化による町興しを意図し、市の年間予算の1%(約9億円)を活動資金にする制度を日本で初めて導入したことで有名になった。

当時私も模型写真などで、その計画案を見ることはあったが、実際の建築を見る機会がなかったので、楽しみにして訪れてみた。

 

遠方から、くねくねタワーと呼ばれるあの特徴的な正四面体を組み合わせ、らせん状に天に伸びていく銀色の塔を見つけ歩いて近づいていく。

場所は、中心市街地活性化のため小学校跡地に建設されたと聞くが何となく性格のはっきりしない地域に忽然と現れるこの螺旋状の塔も又異様な感じがする。

やっと水戸芸術館の正面入り口にたどり着き、芝生の植えられた中庭に面して建つこの芸術館の複合建築の前で、色々なことを感じた。

 

まずそのスケール感。それほど広いとは思えない土地に、大きなタワー、それと外壁の仕上げ材に使われている割肌の石材と、これまた表面が乱石風のモザイクタイル。

この建築の少し前に竣工し、ポストモダンの代表作と言われたつくばセンタービルに良く似た材料の構成である。

磯崎氏のミューズであるマリリン・モンローに似て、この建築は物質感が噴出しているようで、より大きく感じ、圧迫感がある。

いつか見た模型写真の素晴らしさに比較して、出来た物はどうもしっくりこない感じがした。材料の使い方やデザインにも、、、。

 

それともうひとつ、文化による町興しを標榜するなら、この素晴らしい中庭の周りに人がもっといてよい筈なのに誰もいない。

そして中庭の正面にはオブジェを宙吊りにし、それに噴水を組み合わせたアート・スペースがあるが、常時水が噴出してもったいない話だと思う。

イタリアはローマのトレビの泉やスペイン階段の前の噴水のように夜遅くまで人が佇んでいるようなら、こんなスペースも価値があるだろうが、、、、。

 

この建築は総工費が103億と聞いた。これらの施設を維持し運営していくためのコストも馬鹿にならない額だろう。

佐倉市の商業活性化のプロジェクトに取り組んだとき、ある人が100億円をこの地域に投入して町興しをすれば、昔日の栄光を取り戻せるだろうと言ったことを思い出したが、、、。 

 

 いかに優れた建築だと言われようとも、公共建築は日常的に人が近づいてくれなくては、やはりハコモノと言われても仕方がないと思う。何も建築家だけの責任とは思わないけれど、、、、。

企業や事業の目的はいかに多くの顧客を作って行くかだと聞かされたことがある。

 

小雨の中でひとり佇んでいるかのようなこの芸術館を見て、建築も社会の中でいかに人に好かれるかをもっと考えることが必要ではないかと思う。