ウェザーコック風見鶏(VOICE FROM KOBE)

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WAN HAI 307 vs ALPHA ACTIONの衝突事故 (共同海損事件 VOL.30)

2007-10-07 06:46:57 | 共同海損事件
 私の所属する業界組織、NVOCC(NON VESSEL OPERATING COMMON CARRIER=ハードウェアーとしての船舶を所有もしくはオペレートしない国際海運利用運送事業者) 業界が、今般の"WAN HAI 307"号と"ALPHA ACTION"号の衝突に伴う共同海損事件の処理の過程で、遭遇し、抱え込む課題およびそれを解決する手段があるかというポイントにスポットを当て、今回VOL.30以降で整理を試みる事とする。

 VOL.9で、輸送契約についていくつかの種類があることは既に記述した。
 再度記載しておくが、具体的には、
1.船会社と出荷主もしくは受荷主との直接契約(コンテナ単位)
2.出荷主もしくは受荷主とNVOCCの契約を基礎にNVOCCの船会社との契約(コンテナ単位)
3.出荷主もしくは受荷主とNVOCCの契約を基礎にNVOCCの船会社との契約(コンテナ単位に満たない小口貨物の輸送契約)
といった種類の契約がある。

 もちろん、上記以外にも、NVOCCがたのNVOCCから輸送を受託するケース、さらに、あるNVOCCが他のNVOCCから輸送受託したケースを別のNVOCCに輸送委託するケースもある。
 つまり、「船会社 ‐ NVOCC ‐ NVOCC ‐ NVOCC ‐ 出荷主」といった事例もありうる。しかしながら、ここでの検討に当たり、「船会社 ‐ NVOCC ‐ NVOCC ‐ 出荷主」という契約があるということを認識しておけば十分である。

 各企業が、企業の抱えるリスクを回避する手段として、保険契約を行なうことがあるように、NVOCCの本業部分で抱える企業リスクについても、リスク回避手段として保険会社と保険契約を行ない、リスクヘッジを行なっている。

●企業リスク回避手段としての責任保険

 通常Cargo Indemnity Insurance(貨物の所有者に対する損害賠償責任保険)が危険回避手段として、保険会社が提供する保険商品のひとつとしてある。
 その内容は、「貨物の所有者に対して、NVOCC等が法律上の賠償責任を負う場合に、それによりNVOCCが被る損失を保険で補償する」というものである。

 しかし、今回のような共同海損事故が発生した場合に、この責任保険で間尺に合わない事態に直面する。
 それは、輸送を委託したコンテナが仕向地に到着しても、NVOCCがそのコンテナを引き取れないという事態が発生し、積荷貨物の引き渡しのために相当の労力をかけなければならない状況に直面する。

 その背景要因として、コンテナ単位の輸送を依頼した船会社は、当然のことながら、共同海損の手続がすべて完了していない場合に、その権利を確保する手段として、コンテナを引き渡さないということになる。
 この「積荷コンテナ貨物の留置権」は、各船会社とも、船荷証券(B/L)裏面に約款として規定しており、いわゆる"LIEN(留置権)"と呼ばれる約束事である。
 船会社は、この規定を援用して、共同海損等の事件処理の際に、積荷貨物としてのコンテナを差し押さえるということになる。 

 他方で、NVOCCの責任保険を引き受けている保険会社も、そのコンテナの速やかな物流を確保する手立てを講じる保険契約上の義務を負っていないとして、例えば、保険会社保証状の発行は行なわない。
 既に必要な共同海損手続きのところで触れたように、保険会社の発行する共同海損保証状(Letter of Guarantee)の発行が、NVOCCの責任保険についても発行可能である場合、このような問題は発生しない。
 しかし、共同海損事件が発生するたびに、保険会社とその点の協議を行なうが、「保証状を発行する条件付けではない」として、対応してもらえない実情にある。

 この点については、日本のNVOCCは同じ状況にあり、同じように困難な状況に直面することになる。
 
●NVOCCは船会社から見ると出荷主とみなされる

 しかしながら、国際海上輸送の契約構造について、既に述べたところからわかるように、「NVOCCは船会社から見る場合に、出荷主の一人」となる。
 つまり、小口貨物をコンテナ単位に仕立て、船会社に輸送を委託する場合に、船会社は契約の証として船荷証券(B/L)をNVOCCに発行する。
 この船荷証券は通常Master B/L(実海上運送人が発行する船荷証券)と呼ばれ、その船荷証券(B/L)の出荷主、受荷主欄の記載は次のようになる。

 出荷主:輸送の受託先NVOCC
 受荷主:輸送受託先NVOCCの仕向地側エージェント(代理店)

 つまり、既に説明した通り、「一荷主」の立場に立っていることになる。
 従って、実輸送を受託した船会社としては、共同海損が発生し、仕向地到着後コンテナの引き渡し要求を受ける場合、しっかりと共同海損精算のための担保が確保されていることが前提になる。

●NVOCCにとりすべての担保を確保するために時間を要する

 前項で説明した船会社から要求される担保を即座に整え、船会社に提示するには困難を伴う。

 NVOCCは小口混載貨物を集め、コンテナ単位に仕立て、船会社に輸送を委託することになる。そのために、小口貨物の個別荷主に対し、コンテナ単位で見ると15-25件といった件数の小口輸送契約があることになる。
 その小口契約単位に、すべての小口契約につき必要な担保をとり、それを全体として船会社に提示することにより、船会社からコンテナを引き取ることができるようになる。
 しかし、すべての小口契約につき、荷主からすべての担保を確保するのに、件数が多いこともあり、時間を要することになる。

 以上のような背景があり、コンテナ引き取りに関し混乱が生じることになる。
 荷主ごとに温度差があり、共同海損についてなんら認識のない荷主もいる。他方で、NVOCCの要請に即座に応えてくる荷主もいる。
 その際に、協力した荷主からは、「いつ貨物を引き渡してくれるのか」という要求が、当然のことながら出てくることになる。

 しかしながら、既に、「企業リスク回避手段としての責任保険」の項目で説明したように、現状、「国際物流の速やかな流れ」を確保する、という面で課題を抱えていることになる。

 以上で、NVOCC業界の抱える課題が浮き彫りになったのではないかと考える。この種の共同海損事件との関係で、NVOCCの課題が明らかになったところで、この、VOL.30を終わり、次回VOL.31以降で国際物流の抱える課題を解決するための方策があるか、という観点から検討を試みたい。
 Written by Tatsuro Satoh on 7th Oct., 2007

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