ウェザーコック風見鶏(VOICE FROM KOBE)

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WAN HAI 307 vs ALPHA ACTIONの衝突事故 (共同海損事件 VOL.32)

2007-10-08 06:38:33 | 共同海損事件

 前回VOL.31で、NVOCC事業者が共同海損発生に際して、その手続きの進め方、また、手続きの進捗状況が極めてスローペースにならざるを得ない状況を説明した。
 他方で、責任保険契約を締結している保険会社が共同海損に係わる担保を提供しない事情についても説明を加えた。
 その結果、実際の国際海上運送人である船会社から輸送を委託したコンテナが仕向地である港に到着しても、そのコンテナを引き取れない状況に陥ることがほとんどである点についても言及した。
 その解決手段はあるのか、その点について、このVOL.32で検討を加えていくこととする。

●NVOCC取扱貨物を詰め込んだコンテナを引き取る手段

 コンテナを引き取るために、いくつかの方法がある。
 具体的には、
○NVOCC事業者自体が担保を提供する方法
○船会社によるNVOCC事業者に対する信頼
○責任保険を引き受けている保険会社が保証状を発行する方法
等々の手段があり得るが、それぞれ現実的ではなかったり、実行に移されていないのが、現実である。
 上記各々について、検討を加えていくことにする。

○NVOCC事業者自体が担保を提供する方法

 NVOCCが現金供託を行なうことにより、確実にコンテナの引渡しを受けることができる。
 しかし、今回の"WAN HAI 307"号の事件の場合、それは現実的に取り得る手段ではない。

 コンテナ単位に、中に積み込まれた貨物の合計価額は、40Fコンテナの場合で、平均3000万円から4000万円という事例が多かった。このコンテナを引き取るために、NVOCCが行なわなければならない現金供託は、救助報酬負担分も含め、1050万円から1400万円であった。
 他方で、このコンテナ貨物の輸送による売上収入は、例えばホンコン向けである場合、最高の状態で考慮しても、せいぜい50-60万円、それから仕入れ支出を控除すると、利益収入は限られている。

 そのような売上収入、利益獲得構造になっている輸送業者が、コンテナ単位1050万円から1400万円現金供託するということ自体が、通常のビジネスとしてはあり得ないことになる。
 従って、この手段は取り得る手段としては現実的ではないことになる。
 仮にこれが強制されることになる場合、NVOCC事業自体が、ビジネスの存立基盤を失いことになり兼ねない、ということになる。

○船会社によるNVOCC事業者に対する信頼

 日本でNVOCC事業を営む業者は、独立系、商社系、船会社系等々、日本フレート・フォーワーダーズ協会加盟事業者数が300社を上回る。
 そのような事業者が、それぞれ自前でコンテナを仕立て、NVOCC事業を目指している中で、それぞれ信用状況が異なることになる。
 しかも、共同海損の精算に長期間要すること、また、共同海損処理に関する熟練度、倒産リスク等々を抱えることになり兼ねない。

 しかも、1本のコンテナを貸し出すことによる収入はNVOCC同様限られており、可能な利益獲得額にも限度がある。
 このような状況の中で、実際の国際海上運送人に「NVOCCを信用して仕向地到着時点でコンテナを引き渡すべきである」と強制しても、同じように無理が発生することになる。
 従って、この手段も現実性に欠けることになる。

○責任保険を引き受けている保険会社が保証状を発行する方法

 この手段がもっとも合理的で、国際物流のスピードを確保する面で効果的である。
 しかし、VOL.31で既に触れたように、保険会社はこの道を開いていない。責任保険であるのに、「何故保険会社が責任保険引き受けに関連して保証状発行か?」という点がネックになる。

 しかしながら、他方で、国際物流の抱える課題を解決し、速やかな物流システムを構築するために、保険会社が考え方を改めてもおかしくないのではないかと考える。
 少なくとも、責任保険が機能する、すなわち、保険会社として保険金支払が発生するための基本条件をICC(Institute Cargo Clauses)としているところから、「共同海損事件に伴い、NVOCCが何らかの損害賠償責任を負う」ことがあると、保険責任が発生することになる。
 仮に保険会社が、「NVOCCが、共同海損事件に関連して、積荷貨物の所有者に損害を賠償する責任を負うことがある」という前提条件があり、さらにその損害を防止軽減するために、「共同海損および救助報酬に関わる保証状」を発行する意義は高まる。
 何故なら、保険会社にとっても、「保険金支払に伴う損失を軽減し、その保険会社自身の利益確保に有効」との判断ができる場合に、より積極的に「保証状の発行を認める根拠」が成立するからである。
 その具体例としては、下記のような事例があり得るので、例示しておくことにする。

①貨物遅延に伴いNVOCCの代替品輸送航空運賃負担の問題

 最近の製造業者のJust in Time物流(「必要なときに、必要な量の貨物を、時間期限内に搬入する」形式の物流)への要請は、今後、強まっていくことはあっても、弱まることはない。
 この点については、単に国内物流にとどまるものではなく、国際物流の分野においても同様である。

 これまで、船会社も、NVOCCも、船荷証券(B/L)裏面の「引き渡し期限の約束はしていない、従って、遅延に伴う損失について賠償責任はない」として拒絶し、そのように取り扱ってきている。
 また、それを覆す判例はないと考えられる(要調査)。
 しかし、期限の約束をしていないからといって、裁判上の争いになる場合、「合理的な期限」の検討は加えられることになる。
 その場合に、船会社や、NVOCCに不利な判断が下される可能性はあり、Just in Time物流への要請が高まれば高まるほど、裁判上の争いで船会社や、NVOCCが敗訴する可能性は高まることになる。
 これまで、特に裁判上の争いが行なわれていないため、「従来通りの主張」を繰り返しているが、それが否定され得るという点を見ておく必要がある。

 今回の"WAN HAI 307"号の事件において、数週間船会社のコンテナヤードに留め置かれ、やっとコンテナの引渡しが行なわれるというのが実態的に多く見られた。
 その場合に、「然るべく早めに手続きを完了させた荷主」は、当然のことながら、「早く貨物を引き渡すように要求する」ことになる。

 「他の荷主が協力しないため、コンテナが引き取れない」という理由は、裁判上の争いに発展する場合、理由として認められない可能性が高い。ここに、「妥当な期限が短縮されるような合理的な期限の設定」がなされると、敗訴の可能性はますます高まることになる。

②貨物遅延に伴いNVOCCの代替品輸送海上運賃負担の問題

 上記航空運賃の場合と同じ理由で、NVOCCの責任負担が裁判上の判断として、求められることがあり得る。
 細かく検討を加えていく場合、その他の要素でも同じことが指摘できる可能性はあるが、以上2点を指摘しておくに留める。

 以上で、VOL.32の説明を閉じることとする。
 このブログの読者に、保険業界の方がおられるか否か、それは分からないが、上記のような時代ニーズの変化があることを踏まえ、ニーズ変化の間尺に適合する責任保険のあり方を検討してもらいたいものだとも感じている。

 次回、VOL.33では、NVOCCが抱える他の課題について検討を加えていくこととする。特に揚げ地パートナーの協力度合い、共同海損に関する知識レベル、等々により作業の進捗に大きな違いが出てくることが多い。
 そのような点について、検討を加え、説明を試みていくこととする。 
 Written by Tatsuro Satoh on 8th Oct., 2007


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