ウェザーコック風見鶏(VOICE FROM KOBE)

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WAN HAI 307 vs ALPHA ACTIONの衝突事故 (共同海損事件 VOL.26)

2007-09-30 07:26:54 | 共同海損事件
 今回のVOL.26で、"WAN HAI 307"号と"ALPHA ACTION"号の両船間の救助報酬がどのように分担されるかについて検討を加えてみることとする。
 今回の衝突事件で、双方の衝突に関する過失責任の問題が別途発生し、それに伴い両船負担に影響が生じることになるが、今回の共同海損事件からは切り離し、その点の言及は行なわないこととする。

●利害関係者間の救助報酬負担についての検討

 既に、VOL.10で触れたように、(株)日本サルベージサービスによる救助作業により、次のように展開したことが理解されている前提に立ち、話を進める。

 ①7月27日午前1時50分頃両船の衝突事件の発生
 ②日本サルベージサービスが両船の契約救助に出動
 ③7月29日午後5時頃両船の船体分離に成功
 ④8月7日"WAN HAI 307"のすべての荷卸し完了

 上記の事件の大まかな流れから、③の「船体分離成功」までの間は、
"WAN HAI 307"号およびその積荷貨物、また、"ALPHA ACTION"号およびその積荷貨物(ただし、今回は空船航海)は、漂流し両船とも沈没するかもしれないという、「同一次元の危険」を共有していることが理解できると考える。
 また、7月29日両船の「船体分離成功」以後については、それぞれの船体および積荷が個別的に遭遇している「危険状態」で、従って、それぞれ「単独の冒険航海」が、「単独の危険状態」の下にあるということになる。

 他方で、"WAN HAI 307"号に焦点を当てると、8月7日に横浜港で全てのコンテナ貨物の荷卸しが完了している。
 従って、"WAN HAI 307"号に積み込まれた積荷貨物の側からこの事件をとらえると、船体および積荷貨物の救助の完了時点は、8月7日ということになる。

●「船体分離成功」までに発生する救助報酬の公平分担

 以上の点から、「両船の船体分離成功」までに発生する救助報酬と、それ以後継続して発生する救助報酬は、質的に異なることになる。
 つまり、両船の船体分離成功までの救助報酬は、公平の原則に立ち、次の利害関係者が応分の負担を行なうということになる。
 従って、両船の「船体分離成功」の時点における、両船の利害関係者に関わる財貨の経済価値を基礎にして、次のような分担関係になることが想定される。

 ①"ALPHA ACTION"号の船体被損状態での経済価値
 ②"ALPHA ACTION"号の積荷被損状態での経済価値(ただし、衝突当時、空船航海であった。)
 ③"WAN HAI 307"号の船体被損状態での経済価値
 ④"WAN HAI 307"号の積荷被損状態での経済価値

 両船の衝突した状態での経済価値の合計は、被損しているという点を考慮して、「経済価値の合計=①+②+③+④=A」と試算される。
 他方で、船体分離時点までの救助報酬額合計を「B」とすると、それぞれの利害者団体が公平分担すべき救助報酬額は、次のように試算されることになる。

○船体被損状態での"ALPHA ACTION"号の分担する救助報酬
  救助報酬分担額=B×(①÷A)

○被損状態での"ALPHA ACTION"号の積荷の分担する救助報酬
  救助報酬分担額=B×(②÷A)
  ただし、"ALPHA ACTION"号は空船でチリに向かう航海の過程にあり、一般的には、この経済価値はもともとゼロであったと考えることになるのかもしれない。

○船体被損状態での"WAN HAI 307"号の分担する救助報酬
  救助報酬分担額=B×(③÷A)

○被損状態での"WAN HAI 307"号の積荷の分担する救助報酬
  救助報酬分担額=B×(④÷A)

●「船体分離成功」後の"WAN HAI 307"号の利害関係者の救助報酬の公平分担

 両船の"船体分離成功"の後、同様にVOL.10の「どのように情報公開を行なっているか」について展開したところで触れた。
 具体的には、千葉県館山までの曳航、館山でコンテナの一部をバージに積み取り、横浜港までのピストン輸送を行なったこと、本船を横浜港まで曳航し、8月7日時点で全てのコンテナの荷卸しが完了したこと等から、それ相当額の救助報酬が積み上げられることになることを理解することができる。
 これに関係する利害関係者およびその経済価値は次のようになり、利害関係者間で公平分担されることになる。

 ①"WAN HAI 307"号の船体被損状態での経済価値
 ②"WAN HAI 307"号の積荷被損状態での経済価値

 前項と同じ考え方にたつ場合、経済価値合計(A)は、「(A)=①+②」と試算され、救助報酬合計を(B)とすると、それぞれの利害者が公平分担する救助報酬は次のように試算される。

○船体被損状態での"WAN HAI 307"号の分担する救助報酬
  救助報酬分担額=B×(①÷A)

○被損状態での"WAN HAI 307"号の積荷の分担する救助報酬
  救助報酬分担額=B×(②÷A)

 これまでのところで、「船体分離成功」までの救助報酬と、「船体分離成功」の救助報酬は仕分けられ、分担計算がなされることについて言及し、その分担に関する基本的な試算方式について言及した。
 次に、VOL.27以降の記事では、今回の"ALPHA ACTION"号と"WAN HAI 307"号の衝突事件における、"WAN HAI 307"号の積荷貨物に発生した特異事象と共同海損の関係について言及していくこととする。
 Written by Tatsuro Satoh on 30th Sept., 2007

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