ウェザーコック風見鶏(VOICE FROM KOBE)

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WAN HAI 307 vs ALPHA ACTIONの衝突事故 (共同海損事件 VOL.33)

2007-10-08 06:38:53 | 共同海損事件

 前回VOL.32で海上保険の一分野としての責任保険の機能、および、国際物流に対するニーズの変化、そのニーズの変化に適合する形での責任保険の形態変化のより、NVOCCがリスクヘッジを図りつつ、特に、共同海損等特異事例への対応が可能ではないか、との観点から検討を加えた。
 今回VOL.33では、共同海損事件における手続き面での対応について、NVOCCの側の課題について、検討を加え、どのように方向付けるべきか等について、検討していくこととする。

●共同海損担保提供手続きは早い段階から進める

 仮にリスクヘッジが可能であるにせよ、揚げ地側で速やかに貨物の引渡しを行なっていくためには、手続きを前倒しに進めていく体制を整えることが必要である。
 そのために必要な手続が、最初に取り上げた、情報開示から始まるということになる。
 つまり、次のような段取りとなる。

 ①情報開示(国内出荷主および揚げ地側受荷主対象)
 ↓
 ②必要な手続の案内(国内出荷主および揚げ地側受荷主対象)
 ↓
 ③手続きの完了
 ↓
 ④Delivery Order(D/O 貨物引渡指図書)の発行
 ↓
 ⑤貨物の引き渡し作業

●共同海損担保提供手続きに必要な書類の収集

 共同海損処理の過程で、共同海損盟約書(Average Bond)、共同海損保証状(Average Guarabtte and/or Letter of Guarantee)、救助が関係する場合に救助報酬に関する保証状(Salvage Guarantee)、また、無保険貨物について共同海損および救助報酬に関する現金供託金の提供が必要になる。
 その場合に、特に、荷主の提供する現金供託金試算等の場合に、商業送り状(Commercial Invoice)、梱包明細書(Packing List)が必要になる。
 また、輸送形態、輸送の受委託関係が「船会社←NVOCC←NVOCC←実出荷主」となるような場合、Co-Loader(他のNVOCC)の発行する船荷証券(B/L)等が必要になる場合がある。
 従って、下記のような書類を、共同海損事件発生段階で収集しておくことが必要である。

 ①船会社発行の船会社船荷証券(MB/L)コピー
 ②自社発行の全ての船荷証券(HB/L)コピー
 ③商業送り状(Commercial Invoice)コピー
 ④梱包明細書(Packing List)
 ⑤他のNVOCCが発行している船荷証券(HB/L)コピー

●共同海損事件の発生は2-3年に1回程度の割合

 これまで、共同海損事件の発生は、頻繁に発生する種類の事故ではなく、2-3年に1回発生する程度の頻度である。
 従って、日常業務に仕事が負荷される形になるが、それであるがゆえに余計に手際よく解決をしていく必要があり、基本手続等を社内でマニュアル化等しておき、事件発生の際に迅速に対応できる体制を整えておく必要がある。

●共同海損事件に際し揚げ地エージェント指導が必要

 これまで触れてきたところから明らかなように、共同海損制度は、頻繁に発生する事件ではないため、その制度が周知されているとはいえない。
 しかも、既に明らかにしたように、「揚げ地主義」の原則から、揚げ地側エージェントが機敏に作業を進める必要がある。
 しかしながら、必ずしも、エージェントの質的レベルは一様ではなく、それを均質に、しかも、高い質的レベルを維持できるようにコントロールしていく必要がある。
 そのために、教育が必要になることは自明の理である。
 しかし、逆に積み地、揚げ地両サイドの質的レベルが高まることにより、迅速な対応が可能となり、それも「企業の提供するサービス品質」のひとつの重要な要素となるため、おろそかに扱うことはできない。

●トップマネージメントもリスク管理の観点から関与が必要

 今回の"WAN HAI 307"号事件の処理過程で、場合により、現金供託等で立替払い等の手続を行なっているNVOCCもあるやも知れない。

 共同海損事件の基本原理から、「実際に海上運送人と実際の積荷貨物の所有者」との関係で、保証状の提出、現金供託金の支払、受け入れの関係が成立することになる。
 ここにNVOCCによる一時的立て替えは、原理的には、なくてもいいことになる。

 しかし、Just in Time物流への要請が強かったり、それにしっかりと対応する必要性を認識して、一時的立て替え払いも検討せざるを得ない局面に立つことがあり得る。
 その意味では、貨物所有者に対する損害賠償等責任保険サービスを提供する保険会社も、「時代が要請するところ」を読み取り、NVOCCにとり必要な保険ニーズを充足するように心がける必要があるのではないかと考える。

 以上で、今回の"WAN HAI 307"号と"ALPHA ACTION"号の衝突に起因する"WAN HAI 307"号の共同海損に関する解説および抱える課題の整理および検討、問題点等々の検討および提起等々の記事本文を終わることとする。
 次回VOL.34、共同海損事件のカテゴリーの最終投稿で、後書きとして、整理すべき事項について言及していくこととする。
 Written by Tatsuro Satoh on 8th Oct., 2007


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