ウェザーコック風見鶏(VOICE FROM KOBE)

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WAN HAI 307 vs ALPHA ACTIONの衝突事故 (共同海損事件 VOL.27)

2007-10-07 06:42:57 | 共同海損事件

 前回VOL.26までのところで、海上冒険公開の途中で発生する可能性のある、共同海損という事件処理の仕組みについて、そのアウトラインが、おぼろげながらも理解されたものと考える。
 今回の"WAN HAI 307"号と"ALPHA ACTION"号の衝突の結果、"WAN HAI 307"号の船主あるいは船会社が共同海損を宣言することになった。
 その事件処理の過程でいくつか特異現象が発生しているので、このVOL.27以降でその事例を取り上げていくこととする。

●衝突の結果海没してしまったコンテナ貨物の取り扱いはどうなるのか?

 今回の衝突事件の結果、不幸にして、衝突時の強い衝撃、あるいは、衝突した両船の船体分離の過程で、海中に沈んでしまったコンテナ、及び、そのコンテナに積み込まれた貨物があった。
 もちろん、海底に沈んでしまっているために、そのコンテナ及び貨物を引き揚げるとすると、そのための莫大な費用が発生するため、それを救助することは経済的な側面から困難である。
 また、仮に引き揚げられたとしても、コンテナ内貨物は海水濡れを起こしてしまっているため、経済価値が失われていると見るほうが合理的である。

 この結果、海底に沈んでしまったコンテナについては、「そのまま放置される」ということになる。
 もちろん、コンテナ内貨物が「海洋汚染をもたらす危険が極めて大きい、あるいは、環境汚染の危険度が極めて高い」という場合、「官の撤去命令(=関係当局の撤去命令)」が発令される可能性はある。
 その場合には、当然のことながら莫大な費用を使い引き揚げられることになるが、その費用は共同海損として処理されるわけではなく、船主責任保険等で賄われることになる。
 典型的な事例を挙げると、海上冒険の過程で、本船の燃料油が流出するような場合、「油による海洋汚染の問題が発生するため、その処理命令が下され、油の除去作業が進められる」ことになる。
 このような汚染除去の問題は、仮に部分的に共同海損として認める部分があるとしても、原則的には、船主責任保険の側の問題となる。

 コンテナの海没に話を戻すと、コンテナおよび積荷貨物は、全損、すなわち経済的な価値がゼロの状態になる。
 共同海損処理システムとの関係で、このような貨物について、共同海損を分担することになるのかということが問題になる。

〇貨物が全損の場合共同海損を分担することがあるか?

 これまでの説明の中で、個別貨物については、その仕向地において本船から荷卸しされた時点の価額(=経済的価値)を基準に、共同海損を分担すると説明した。
 海没したコンテナに積み込まれた貨物は、永久に仕向地に届くことはなく、経済的に救済不可能であり、海水濡れ損害が現実的に発生しているため、取り扱いとしては「全損」となる。つまり、経済的価値はゼロということである。

 共同海損処理処理システムにおける、個々の財貨の分担概念を計算式で示すと、次のようになる。
 (前提条件)
 (*)共同海損として認められた全体損害額=A
 (*)個々の財貨の到達地における価額あるいは経済的価値=B
 (*)海上冒険を構成する全財貨の経済的価値=C
 この前提条件下で、個々の財貨の共同海損分担額(救助料分担額を含む)は次のように計算される。
 つまり、「個々の財貨の分担額=A×(B÷C)」で計算されることになる。
 ここで、海没したコンテナに積み込まれた個別貨物は全損であるため、「B=0」となり、全損となった個々の財貨の分担額はゼロとなることがわかる。
 つまり、全損となった貨物については、共同海損分担額はゼロということになる。

 では、部分的に損失を被って貨物が仕向地に到着した場合にどうなるかということが、次に問題となる。
 この場合には、「仕向地で本船から荷卸しされた時点の価額を基準とする」ということから、「当初の商業送り状価額から損害額を控除した額が到達地価額」となることは推定できるところである。
 つまり、「商業送り状価額 ‐ 損害額 = 正味到達地価額」となり、この正味到達地価額に基づき、共同海損を分担していくことになる。 

〇冒険途上での貨物の損害が共同海損犠牲損害となることがあるか?

 VOL.19にて、主要な共同海損として、「投げ荷」、「船火事の消化」、「任意座礁」、「座礁船舶の浮揚作業」等があることを説明した。
 この中の、船足を軽くするために「故意に、投げ荷した」というようなことがあれば、投げ荷による積荷貨物の損害は、「共同海損犠牲損害」になることは理解できるところであると考える。

 また、船火事の消火作業のために、ホールドに海水を注入したり、化学消化剤を注入することがある。
 海水注入により積荷貨物に損害が発生することは予測可能な損害であり、「故意に海水すれ事故を引き起こした」のと同じである。また、価額消化剤の場合も然りである。
 従って、「船火事の消火作業の直接的か結果として積荷貨物に発生する濡れ損等は共同海損犠牲損害」となる。
 
 同じような現象は、「任意座礁」、「座礁船舶の浮揚作業」の場合にも生じることがあり得、このような共同海損の場合も、積荷貨物の「共同海損犠牲損害」が発生することはある。

○共同海損となる事故が発生する以前の事故はどうか?

 共同海損犠牲損害は、共同海損事故の発生がなければあり得ない。
 従って、海上冒険航海開始後共同海損事故が発生するまでの間に、共同海損犠牲損害が発生することはあり得ない。

 この点との関係で、問題になるのは、海上冒険開始後共同海損事故発生までの間に発生した積荷貨物の事故による経済価値の低下の取り扱いはどうなるのか、また、共同海損事故が発生し仕向地までの海上冒険航海が継続している間の事故による経済的価値の低下の取り扱いはどうなるのか、ということになる。

 結論的には、その双方とも、「共同海損犠牲損害」とはならないが、仕向地到達価額に影響を与えることになる。
 つまり、貨物の「分担価額(=共同海損を分担する経済価値)」は、海上冒険公開開始後の全ての事故による貨物の損害に伴う経済価値の下落を控除して計算することになる。

○海上冒険航海中の損害による貨物の価額下落はどのように証明されるか?

 積荷貨物が仕向地において本船から荷卸しされた時点で、貨物に損害が発生している場合、貨物の損害額を確定する専門の損害鑑定人(サーベイヤー)による損害調査を受けて、損害額が確定される。
 その確定損害額は、損害鑑定書(サーベイレポート)に明記され、積荷の海上保険を引き受けている保険会社により保険金の支払が行われて、積荷貨物の所有者の経済的損失はカバーされることになる。

 この損害については、保険会社からサーベイレポートを付帯して、損害額証明資料として共同海損精算人に提出されることになる。
 この証拠書類の提示を受けて、共同海損精算人は、共同海損の精算に反映させることになる。

○無保険貨物の場合どうなるか?

 無保険貨物の場合も原則は一緒で、受荷主自身が専門鑑定人の損害調査を受け、サーベイレポートを入手し、共同海損精算人に提示することにより、損害額の証明を行なうことになる。

 これでVOL.27閉じることとし、VOL.28にてその他の特異な事例について説明を行なっていくこととする。
 Written by Tatsuro Satoh on 7th Oct., 2007


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