木枯らしマン VS 日光マン
木枯らしマンが日光マンに言った。
「太陽の日差しが寒い北風に勝ったっていう昔話を知ってるよね?」
「ああ、あの旅人のコートを脱がせる賭けをして、太陽がウィナーになったっていう寓話だね」
「そうだ、あの話だよ」
木枯らしマンはコートの襟を立てながら言う。
「なんだねぇ・・・あの話は出来すぎてるよねぇ・・・」
日光マンが答える。
「まぁ、たしかに道徳的すぎるし、子供向けの話ではあるね」
「押してもだめなら引いてみな!みたいな話だよね」
「水前寺清子かって、つっこみを入れたくなるよ」
「1歩進んで、2歩下がる・・みたいな!」
ははははっ・・・と2人は笑う。
「だいたい太陽熱と北風じゃ、エネルギー量が違いすぎる!」
「桁違いだ・・」
と木枯らしマンが言う。
木枯らしマンといっても、渡世人でもなく長い楊枝も口にくわえてはいない。
空模様職人組合から木枯らしを空に描く仕事を請け負っている、水墨画専門の職人だ。
木枯らし吹く風景は水墨画のように描かれ、見るもの感動させ、一瞬の間でも寒さを忘れさせてくれる。
それから言うまでも無く、日光マンはあの東照宮とはまったく無関係である。
日光マンは、青空マンの描いた青空に、太陽の光を描いたり雨上がりの雲間から差し込む一陣の光のスジを描いたりしている。
空模様というのは分業で成り立っているので、一人の空模様職人で出来上がっているわけではない。
空は広いのである。
「北風が絶対零度くらいの寒さだったら、旅人のコートも一瞬にして凍りつきバラバラに砕け散って、北風の勝ちだろうな」
木枯らしマンがそう言うと、
「旅人も粉々になって死んじまってるけどね」
と日光マンが答える。
「ホラー映画だね、そりゃ!」
木枯らしマンが言う。
「あの話は、クーラーも自動車もないころのお話だからね、今だったら、急に太陽が暑くなったら大変だよ。紫外線に当たったら大変!ていうことで、みんな家に隠れちまうよ!」
「そりゃそうだ!」
「喫茶店とか、大繁盛じゃないか?」
「いや、金のかからないデパートとかスーパーが混雑するんじゃないかい」
「それより科学者なんか取り乱しちゃうね。太陽が急に変になっちまった!なんて、そりゃ、もう、大慌て!」
ははははっ・・・と2人は馬鹿笑い。
「だいたい旅人のコートを脱がせて勝負しようって、いったい何の勝負なんだい、わけがわからん」
「大自然の主たちが、旅人のコートくらいで人生賭けるなよなぁ・・・」
「まったくだ!」
「ところで・・・」と言いながら、木枯らしマンが日光マンに向かって神妙に言う。
「ほら、あそこに人が大勢いるだろう、ほら、あそこだよ」
木枯らしマンが遠くを指差して言った。
「おお、なんか大勢の人がたむろしてるね」
指さされた方向を眺めながら、日光マンがうなずいている。
「僕たちも勝負してみないか?あの人たちの服やコートをどちらが脱がせるかって勝負をさっ!」
「おお、それは一興だよね。でも、人生賭けたりしないけどね!」
ははははっ・・・と2人は、顔見合って笑う。
「じゃあ、僕が最初にトライだっ!」
そう言いながら、日光マンは空に一筋の光を描き出した。
その暖かい光の帯は、あの人々を直撃した。
人々は言う。
「冬だっつーにの、急に暑くなってきたねっ!!」
「なんだか、真夏のようだ!」
「あ、暑いいぃぃ・・・・・!!!」
そう言いながらも、なぜか人々はコートや服を脱ぐ気配すらない。
「こんなに熱くしたのに、誰も服を脱がないよ・・・へんだねぇ・・・??」
日光マンが木枯らしマンの方を見、首を傾げて言った。
「じゃあ、今度は僕がやるよ!」
そう言うと木枯らしマンは、空に淡い墨のような雲をいくつかサッサッサァッと描き、ビュービューと寒い寒い木枯らしを吹かせた。
下にいた人々に向かって、寒い木枯らしがビュービュー吹き始めた。
するととたんに、コートを脱ぎ服を脱ぎ、やがてはパンツ1枚になってしまった。
中にはパンツ1枚で、カキ氷を食う奴までいる始末であった。
「えぇぇ~~???どういうことだい!こりゃ??」
日光マンは仰天して、木枯らしマンに叫んだ。
「この人たちは、我慢大会をやってるんだよ!」
木枯らしマンは言う。
「えぇ?そりゃないぜっ!あきれたね!いまどき我慢大会って・・・君は、我慢大会って知ってたのかい?」
外国映画のように手を広げながら日光マンが大げさに言った。
「村おこしのイベントなんだよね!この我慢大会!」
木枯らしマンがニヤけて日光マンに言った。
「じゃ何かい、最初から日光マンの負けはきまっちゃっていたわけだね」日光マンが言う。
「そういうことになるね」木枯らしマンが言う。
「くやしいね、どうも」日光マンが言う。
「もう一度勝負するかい?」木枯らしマンが言う。
「今度の勝負は、真夏の我慢大会にやろうぜ!」日光マンが言う。
「こりゃ、一本とられたね!」木枯らしマンが言う。
2人は、また馬鹿笑いをした。
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