さかいほういちのオオサンショウウオ生活

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短編小説 熱帯夜

2008年05月04日 17時31分29秒 | 小説

熱帯夜

「暑い!暑すぎる!」
男は、壊れてしまったクーラーを恨めしそうに眺めながらつぶやいた。
アパートの窓を開け放ってみても熱風がどんよりと入ってくるだけだった。
男は、あまりの暑さの熱帯夜に、ほとんど眠ることが出来ない。
男は、もう1週間も熟睡していないのだ。

「眠りたい・・・眠りたい・・・」
お経のように、男は言葉を繰り返している。
「暑い・・・暑い・・・」

「熱帯夜を英語で言えばインディアンサマー・・・」
男は、どうでもいいようなことを考えてみることにした。
「インディアンの夏は暑いものなのか・・・なんでだ・・?」
「ああ、インドのことか・・・」
「赤道では、1年中熱帯夜なのか?」
「40度を超えると、スズメが死んでしまうそうだ」
「そういえば、今年はスズメの死骸が多いなぁ・・」
考えるのも疲れてくるような容赦なしの熱帯夜である。

男は感じている。
手が熱い、足が熱い、腹も熱い・・・
そんな暑さを感じながらも、1週間もの不眠のせいか、男はうとうとと眠りについた。

男は夢を見ている。
手から火が発火し焼け付くような夢だ。
足にも火が飛び火している。
ゴウゴウと体中が火炎に包まれているようだ。
髪の毛は焼けたたんぱく質の匂いを残し、ジリジリと燃えてゆく。
「うゎゎ・・・」
男は叫び声を上げたが、もう音にもならない。

朝。
男の布団には、人型の焼け焦げた黒い炭のシミがついていた。

人体発火。
まれに起こる超常現象である。
人体のみが自然発火して、ほかのものは燃えないらしい。