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短編小説 闇マン

2017年12月02日 10時04分32秒 | 小説

闇マン

この世界には漆黒の闇と呼ばれる「闇」が存在する。
文字どうり、黒い漆で描いたような何も見えない闇のことである。
微塵の光も感じさせない黒い空間には、時間すら無い様に感じてしまう。

闇マンは漆黒の闇を作り出す、空模様職人組合の職人であった。
空模様職人組合は、組合長の親方から依頼を受けて空模様を描く職人や芸術家の集まりである。
親方からの依頼を受けて、闇マンは両手に持った大きなエアスプレーで黒い絵の具を噴出し、世界に闇を作り出すのが仕事である。

闇といっても不吉なものではない。
闇に悪鬼は存在しないし、悪魔や幽鬼など居たためしもない。
そんな不吉で恐ろしい迷信を作り出したのは、人間の心の産物である。
見たくないものや忘れたいことを放って置くと、しだいにそのものは大きな恐怖へと成長していく。
何か悪霊が存在するわけではない。
目をそらす所に、闇が出来上がってしまうのだ。
避ければ避けるほど、闇は恐怖や不安の色合いを付け始める。

本来闇というものは、古代から自分自身を見つめるためにある空間なのだ。
何ものにも捕らわれず、自分自身の心を見つめる時間・・・それが本来の暗闇の持つ真意である。

しかし時代は進歩し、明かりが発明され、現代では闇を探す方が困難を極める。
どこへ行っても電気の明かりが射し、どこへ行っても闇など存在しないかのような時代になってしまった。

「大都市の大停電がおきるなんて、情報が早いですね、親方」
闇マンは両手のスプレーガンの調整をしながら、親方に言った。
「蛇の道は蛇という古いことわざがあるだろう」
親方は、古い諺を引用しながら闇マンに言う。
「蛇の目傘が蛇ですか・・・変な傘なんですね」
諺の意味を知らない闇マンが言う。
「・・・同類の者はその方面の情報によく通じているというような意味さ」
少しあきれて親方が言った。

「そろそろ、大停電になるぞっ!準備は言いか?」
親方が強く言った。
「はいっ!準備はOKです!」
闇マンが、大きなスプレーガンを両手にギュッと持って、漆黒の闇を作り出す用意をした。


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