さかいほういちのオオサンショウウオ生活

Copyright (C) Sakai Houichi. All Rights Reserved.

短編小説 イカの幽霊

2008年04月26日 22時19分51秒 | 小説

イカの幽霊

パソコンのモニターを眺めていたら、唐突にイカの幽霊が現れた。
イカというば、あの海の生き物の烏賊のことである。

イカの幽霊が私に言った。
「あなた、知ってますか。モニターの液晶ってイカからできてるんですよぉ・・・」
私は若干ビックリはしたが、なにせイカの幽霊である、たして恐くはない。
「液晶はイカの皮の表面の部分でできてるって聞いたことあるけどね」
イカが言う。
「そうですか、知っておられましたか」

しばらく沈黙が続いたが、イカが重い口を開いて言った。
「かわいそうだと思ったならば、供養してくださいよぉ・・・」
「慰霊塔とか建てるとか、烏賊地蔵さんとか建立するとか、なんとかお願いしますよ」
イカが哀れな表情で懇願している。

私は言った。
「イカがなもんかねぇ。
イカんともしがたいねぇ
イカン、イカン」

「駄洒落ですか・・・」
イカの幽霊はムスッと笑いもしないで言った。
「なんとか供養をお願いします・・・」
イカがまた言う。

「供養しなけりゃ、イカんがね!・・って言う訳?
イカんせん、烏賊の言うことですから。
そうねぇ・・まぁイーカ・・・。
タコが、タコさん居る・・これは蛸駄洒落!
烏賊が邪魔な国は、ジャマイカ!・・・なんつって」
私は言う。

「あなた、私の言うこと聞いてないでしょう?」
イカが怒りをあらわに言った。

「烏賊が、イカった!」
私が続けて言う。

「もう、いいです!他の人んところにいきます!」
烏賊の幽霊が怒りながら消えた。


短編小説 宇宙銭湯・松の湯

2008年04月25日 21時48分50秒 | 小説

宇宙銭湯 松の湯

宇宙銭湯・松の湯は、浴場つきの旧式宇宙戦艦である。
和ープエンジンも昭和時代のものならば、転送装置もポンコツであった。
しかし、煙突のそびえる情緒あふれる宇宙船のデザインには、心引かれるものがあった。

西暦2300年、銀河の片隅の昭和星系に第三次惑星間銭湯戦争が勃発したのだ。
勢力は、昭和の旧式エンジンを搭載した昭和軍と、独裁者スパ王に支配された大型スパセンター系の最新式・平成宇宙銭湯戦艦軍団である。
この宇宙銭湯戦争は、もう50年以上続いているのであるが、最近は新たな勢力が台頭してきていた。
それは、秘湯系の原始力ワープエンジンを搭載した、秘湯温泉軍の台頭である。
秘湯温泉軍は、昭和銭湯軍に敵対していたが、最近和平条約の締結も噂になっている。
だが、昭和の銭湯軍と大型スパセンター軍との熾烈な戦いはまだ続いている。

宇宙銭湯・松の湯の艦長・松野為五郎は、メインデッキの番台に鎮座しながら言った。
「ここは昭和軍の領域である、ただちに撤退せよ!」
メインビューワーに映し出された大型スパセンター軍の敵船の艦長・スパ王が、せせら笑いながら言った。
「それがどうしたと言うんだね、娯楽施設も無い弱小戦艦が!しゃらくさい!」
大型スパセンター軍の宇宙戦艦には娯楽施設が搭載してあり、乗務員のご機嫌をとっている。

松の湯の艦長は言い返した。
「大型娯楽施設はないが、我々には卓球台とフルーツ牛乳があるぞ!」
その言葉に大型スパセンター軍の艦長・スパ王は、たじろいた。
「うむ・・・そのような旧式の秘密兵器を搭載していようとは・・・・うかつだった」
最新式の兵器には、大型スパセンター軍のフォースフィールドは強いのではあるが、旧式で原始的な兵器はフォースフィールドを突き破ってしまうのである。
「古きを訪ねて新しきを知るだ!」松野艦長は言った。
「わけのわからんことを・・・おぼえてろ!」
スパ王が悔し紛れに言い返し、そののまま大型スパセンター軍の宇宙戦艦は、松の湯に後ろを見せ、退却した。

技術主任の坂本三助は、艦長に言った。
「危ないところでしたね」
うなずきながら艦長が言う。
「卓球台といっても、もう使い物にならないくらい古びているし、フルーツ牛乳も実はコーヒー牛乳なんだからな」
「ハッタリが利きましたね」技術主任が言う。
「人生、みんなハッタリだって!」艦長が高らかに笑いながら言った。
「今回は、何事も無く無事に切り抜けたが、まだ危険が去ったわけではない、十分に警戒してくれ!」
艦長の松野為五郎は、乗組員全員に力強く訓示したのだった。

突然、銭湯全域に警戒警報が、けたたましく鳴り始めた。
「艦長!さっきの大型スパセンター軍が援軍をひきつれて、また攻撃してきます!」
「やはりな、あれで終わるとは思わんかったよ!」
艦長は番台から立ち上がり、若干あせっている。

メインビューワーに、敵艦の艦長・スパ王が映し出された。
「為五郎艦長、降伏しろ!これだけの多くの最新式宇宙銭湯にはかなうわけがないぞっ!」
不敵に笑う敵艦艦長・スパ王を尻目に、松野為五郎は言った。
「我々は、戦わずして降伏などしない!おぼえておけ!」
「これでもかな?」スパ王が新たな人物の映像を映し出した。
「どうだ、秘湯温泉軍のリーダーも我々の味方になったぞ!」
メインビューワーに移された秘湯温泉軍のリーダーの醒ヶ井門左衛門が言った。
「松野為五郎君、もう抵抗は無駄だ、ただちに降伏せよ!」
「あっ、門左衛門さん!裏切ったのですね・・・」
松野艦長が愕然として言った。

「裏切ったのではないよ、秘湯温泉も金しだいという訳なんでね」
秘湯温泉軍のリーダーが、親指と人差し指を丸くして言う。
「門左衛門さん・・秘湯は守らなければいけないと言っていたじゃないですか」
松野艦長が切り返して言う。
「所詮、秘湯などといっても客がこなけりゃ、ただの生暖かい水溜りにしかならないご時勢なんでなぁ!」
秘湯温泉の艦長が言った。

「秘湯温泉軍も我々と手を握ったぞ!観念したらどうだ、松野艦長!」スパ王がせきたてて言う。
「うむぅ・・・もはやこれまでか・・・」
松野艦長があきらめかけた、その時・・・!
敵味方にらみ合っている宇宙の彼方から、重要文化財級の超大型宇宙銭湯・富士の湯が現れた。
重要文化財級の超大型宇宙銭湯・富士の湯の側面には、富士山がペンキで気高く描かれてあり、敵味方を威圧した。

「この富士山金四郎が来たからには、この宇宙域での悪行は許さねぇぞっ!」
富士の湯・艦長・富士山金四郎は、敵艦の全員に啖呵を切ってみせた。
「金さん!グッドタイミングだぜっ!」松野艦長が言った。
「おうっ!いいってことよ!こちとら昭和っ子でい!不正なことは大嫌れいよっ!」
金四郎艦長がそう言うが早いか、敵船のエンジンにむかって富士山級の光子魚雷を数発浴びせかけた。

敵艦に光子魚雷が命中!
スパ王の軍団も秘湯温泉軍団も、蜘蛛の子を散らすように宇宙の彼方へ逃げ去っていった。

「金さん・・ありがとう、あぶないとこだったよぉ・・」
涙を浮かべながら言う松野艦長に向かって、富士山金四郎艦長が言う。
「お互い様よ!いつものとーり昭和の銭湯どうし助け合うのが情けっていうもんじゃないのかいっ!」
「そーだね・・あじがどぼ・・・」
松野艦長の言葉が、涙で濡れて言葉にならなかった。

宇宙銭湯・松の湯と富士の湯は、そのまま昭和星系にむかって進路をとったのだった。


短編小説 駅マニア

2008年04月24日 20時10分23秒 | 小説

駅マニア

鉄道マニアといっても多種多様、色色な鉄オタが居る。
車両オタクが一般的ではあるが、駅マニア、駅弁マニア、線路マニア、車内販売の売り子さんの制服マニアというものまである。
私の場合は駅マニアといってもよいだろう。
駅は、どこか他の世界へと誘ってくれる出発点である。
駅を見ていると、別の世界別の暮らしが想像でき、それだけで旅行にいったような気分に浸れる。

線路も好きである。
幾何学的な線路の曲線はセクシーですらある。
いくつもの曲線が織り成す「鉄の芸術」といったならば、納得してもらえるだろうか。
車両に関しては子供の図鑑程度の知識しかないのであるが、嫌いというわけでもない。
金属の固まりでありながら、どこか生物的なその姿は、やはり魅力的ではある。

今日も今日とて、私はローカル線の駅を撮影に来ていた。
駅全体や運賃表まで撮影しながら、駅の風景を堪能していた。
ひなびたローカル線なので、駅には誰も居なかった。
駅構内に入って線路など撮影していると、どこから現れたのか白ずくめの男が私に近づいて来た。
たいそうに時代がかった白いシルクハットなど被っている。
男が私に向かって言った。
「あなたは次の列車に乗らなければなりません!」
唐突に意味不明なことを言う男に危険を感じて、私は少し後ずさりして言った。
「いや、僕は写真を撮っているだけなので、列車には乗りませんよ」
白い男が首を振って言う。
「いや、あなたは次の列車に乗る運命なのですよ」
感じの悪いその男に向かって、私は強く言った。
「車で帰るので、列車には乗らないよ!」
男はしつこく言う。
「次の列車は普通の列車ではありません、天国行きの列車なのです。あなたの寿命は本日終了します」

「あんた、頭が変なんじゃないのか?」
私は気味悪くなって言う。
白い男が、私に微笑んで言う。
「いいえ、私は天使なのです。
場所によっては死神とも呼ばれてますが・・・。
まぁ、名前なんぞどうでもいいことにして、今日はあなたを天国にお迎えに来たのです。
だれでも行けるという天国ではありませんよ、あなたは選ばれたのですよ。
ラッキーですね!」
私は不機嫌になって言い返した。
「ラッキーなもんかっ!天国だろうと地獄だろいうと死んでしまえば同じことよっ!」

そんな押し問答をしているさなか、突然見たことも無い種類の列車が、くだりの方角から線路の上に音もなく現れた。
骸骨のような男の手が、私の左腕をギュッと掴んで離そうとしない。
「さあっ!行きましょう!きらめく天国へっ!」
「いやだぁぁっ!!」
私は叫びながら、男を足で蹴飛ばし、ホームの下へ突き落とした。
その瞬間に、男の腕の肘から手までの半分が引き抜かれた様にちぎれて、私の腕に執念深く食い込んだまま気味悪く残った。
そして、一瞬に列車が男を吹っ飛ばし、列車はホームに停車した。
私は、残っている骸骨のような男の手を引き離し、思いっきり捨てようとしている。

「私の手、返してくださいよ・・・」
列車に吹き飛ばされたと思った白い男が、唐突に私の背後から言う。
「うわっ!・・・生きてたのか・・」
私は後ろを見ながら言う。
「もともと生きているわけではないので・・・」
男が薄ら笑いを浮かべながら言う。

私は捨てようとしていた男の手を返しながら言った。
「天国なんかに行くもんか!」
「そうですか、残念ですね。いい所なのに・・・」
白い男が、さも残念そうに言った。
そして続けて言う。
「この世で、散々苦労するより、天国で楽したほうがいいのに・・・
わかりませんねぇ・・・
せっかくのチャンスなのに・・・
もう50年間は、こんなチャンス巡ってきませんよぉ」
男が言うことなどを聞かない振りをして、私は列車のドアが音も無く開くのを眺めていた。

無言のままでいる私を凝視しながら、白い男は一礼をしながら開いたドアから列車に乗った。
そして、上りの方角へゆっくりと動き出すと、列車はじんわりと消えてしまった。


短編小説 時橋

2008年04月23日 21時56分43秒 | 小説

時橋

その橋は古くから”時橋”と呼ばれ、わたった人は二度と帰えってこないとされていた。
言い伝えによれば、橋の向こう側の世界は桃源郷のような村であるとも言われていた。
古くからの伝説の時橋は、村の北側にある神社の奥深くの山の麓にあった。

私は、その伝説が知りたくて、この村に来ている。
村人に聞いたところ、時橋はその村の北に向かう一本道の奥の古い神社を目指していけば分かるそうだ。
が、今はもう鬱蒼とした樹木に覆われて、どこにあるか定かでないと言う。
しかし、遠路はるばるここまで来た以上、何の情報も得られないで帰るのも心外である。
とにかく私は、その神社奥まで行ってみることにした。

村から離れた一本道は、懐かしいような風景が続く道で、桃源郷伝説もリアルな話にも思えてくる。
春も真っ盛りで、山の所々に咲き誇る山桜のピンク色は、華やかというより色っぽくもあった。
一本道には、六地蔵様や道祖伸が祭ってある場所もあり、時橋を渡らなくても桃源郷のような風情であった。
小1時間も歩いていくと、鬱蒼とした森の中に神社らしき建造物を発見した。
もう朽ち果ててほったらかしで、鳥居の形さえ良く見ないと分からない。

「ここらあたりに橋があるはずなんだが・・」
私は、独り言を小声で言いながら、神社らしき建物の奥を探して廻っている。
拝殿らしき朽ち果てた木造建築の後ろに、こんもりと茂った樹木の塊があった。
私は、時橋はここら辺りではないかと推測し、多い茂った葛のツタや雑草を引きちぎっていく。
雑草は硬く纏わり付き、その中の物件を見出すには、なかなかの苦労が必要な状況であった。
しかし、私は根負けしないで長い時間かかって、その樹木や雑草を取り除いた。

「やはり!」
草木の中には、石作の5メートルほどの長さの緩やかなアーチ状の橋を発見した。
私の心は高揚していく。
「伝説の時橋だ・・・」
側面には笹竜胆のような模様が彫られており、欄干は黒い御影石のような極め細やかな石で作られている。
伝説の時橋は、今出来たばかりのように滑々しており、何十年も放置されたものとは思えない状態だった。
私は、欄干を触ったり、側面に彫られた模様を撫でてみたり、感動を味わっている。
デジカメに全体の形状や、周りの景色などを撮影し、記録は充分に撮っておいた。
「桃源郷にでも行って見るか」
私は冗談半分にその時橋を渡ってみた。

渡っては見たが、当然何事も起こるはずもなく、春の暖かな風が頬を撫でていくのみであった。


短編小説 梅鼻商店街

2008年04月22日 22時12分54秒 | 小説
梅鼻商店街

思いのほか仕事が片付くのが早かったので、私は昔通っていた梅鼻高校方面に、ちょっと足を伸ばしてみることにした。
梅鼻は”梅の花”が転化したものではなく”産め鼻”が変化した地名なのだ。
神様だか巨人だかの鼻から生まれた土地が梅鼻という伝説があるらしい。
私の通っていた高校から7・8分歩いた所に、梅鼻商店街という繁華街がある。
繁華街といっても名前ほど大そうなものではない。
100メートルほどの広い路地のような商店街である。
とは言うものの、私の高校時代は大変賑わっていた。
生活必需品は言うに及ばず、映画館やスーパーマーケットもある当時としては洒落た商店街だった。

「そういえば虎屋の”揚げおだまき”なんてまだあるのかな?」
突然、懐かしい和菓子のことを、私は思い出した。
揚げおだまきとは、薄いカステラのような生地に小倉餡を巻き込んだ、10Cmくらいの枕状のドラ焼きみたいな菓子を、天麩羅にして揚げたものである。
脂っこいうえに高カロリーで、育ち盛りの高校生にはたまらない高級な駄菓子であった。
高校の頃は、放課後のクラブ活動の合間に毎日のように食べた記憶がある。
当時は、20円か30円かだったと思うが、もうはるか昔のことなので定かではない。
頭に唐突に浮かんできた懐かしい駄菓子を急に食べたくなり、私は車を梅鼻商店街に向けた。

商店街に近づくにつれ、昭和の雰囲気が濃厚に漂ってくる。
30数年前と変わらないような家々が、車のフロントガラスに映し出される様子は、まるで映画を見ているようだ。
格子戸の整った民家や看板建築の自転車屋、店先に野菜を並べる八百屋に鄙びた手書きの看板が立ち並ぶ駐車場。
どこを切り取っても昭和の風景だった。
「たしか、この通りが梅鼻商店街だったと思うんだが・・」
私は30数年前に記憶をたどり、細い路地を右折した。

とたんに賑やかで活気に満ちた商店街が目に焼きついた。
豆腐屋のラッパが聞こえ、八百屋のオヤジが今日のお値打ち品を叫んでいる。
道行く人々は笑顔で会話を交わし、笑顔に満ちていた。
「不思議だなぁ・・」私は懐かしさを覚えながらも奇妙な気持ちが抑えられなかった。
「まるで、当時のままじゃないか・・?」
ありえない光景を目の当たりにして、私の心が動揺している。
車の窓から見える商店街の光景は、紛れも無く昭和の風景だ。
そこうしているうち、見たことがあるような高校生の男女が、私の車の横を通り過ぎていく。
「あっ・・・!」私は、思わず声をだしてしまった。
なぜなら、その高校生は私と私の初恋の人だったのだ。
私はブレーキを思いっきり踏んで、車を止め、ドアを開けた・・

・・・だが、
そこには寂れて人気のほとんど無い商店街が死んだようにあるだけだった。
賑やかで活気のある商店街は消え去り、現実の商店街がそこには横たわっていた。
寂れて生き絶え絶えの商店が連なる、瀕死の昭和が泣いていた。

「やはりな・・・」
私は、先ほど見た幻覚を思い出しながらも、現実を見せ付けられた心持である。
もう、この商店街は寂れ果てて長い時間が経っているのであろう、営業している店も数点あるのみで、その店さえ活気など皆無である。
老人や老女が店番をしながら、死を待っているような光景に、胸が痛んだ。

あの懐かしい虎屋の”揚げおだまき”などあるはずもないであろうが、万が一ということもある。
近くの閑散した店の老女に聞いてみることにした。

「あの、すみません虎屋の”揚げおだまき”って、まだありますかね?」
私は、店の老女に丁寧に聞いてみた。
「ええ・・虎屋の”揚げおだまき”なんて、ここにありゃせんよ」
無愛想に答える老女の目に生気が無い。
「ドラ焼きの天麩羅みたいなお菓子なんですけど・・」
私は聞きなをしてみる。
「そんなもん、聞いたこともない!」
老女は不機嫌そうに言う。

私はいやな気分になっていくのを感じていた。
老女の言葉も嫌な雰囲気だが、老女自体も不快で悪意に満ちた空気を放っていた。
これ以上聞いたところで不愉快になるだけだ。
私は、気分の悪さを出さないように、会釈をして車に乗った。
そして、エンジンをかけ、ゆっくりと車を発進させた。

商店街を通り過ぎるころバックミラーに写った家々を覗いた。
商店街の家々が廃墟のような形相で、一瞬ゆらゆらと揺らいで見た。
そのとき、私は思ったのだった。
「商店街の幽霊というものが存在するのかもしれない。
悪意に満ちて、生気を吸い取ってしまうような・・・
あの町全部が幽霊だったのだ・・・・」と。
私は、背筋に悪寒を感じながら、、急いで町を後にしたのだった。