さかいほういちのオオサンショウウオ生活

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滝壺の巨大な大山椒魚

2017年12月06日 11時11分14秒 | 動画

長良川の上流に「夫婦滝(みょうとだき)」という滝がある。
ひるがの高原に入る直前、分水嶺の2・3km手前の道路を少し入った所にある。
大小2本の滝が流れているので「夫婦滝」なのだろう。
私がその大きな悠々たる生き物を見たのは、雪解け水が滝に流れ込み、夫婦の大小の2本の滝が生き生きと流れ落ちるころだ。
水量は、溢れんばかりにゴウゴウと流れ落ち、滝壺には水が満々と満ち溢れていた。
滝の回りの木々の何色もの緑が、目と体と心に染みこんで心地良いことこの上ない。
滝壺は直径20メートルほどの円形状になっていて、深さは5メートル以上あるようにも見えた。
しかし、その深さも感じさせないくらいに水は澄み、手を水面に突っ込めば、直ぐにでも底に触れるような錯覚を覚えるほどの清流だ。
といっても、まったくの無色透明ではなく、若干の緑色を伴なった美しい滝壺であった。
滝から流れ落ちる清流が周りの岩岩に当たり、生物に生気を与えるマイナスイオンを惜しげもなく発散している。
私は大きく息を吸い込んで、大自然の気を味わっていた。
まさに「大気」であると堂々と宣言しても偽りの無い、生命力に溢れた「気」であった。

滝壺には、イワナであろうかヤマメであろうか、産まれて間もない大きさの魚が楽しそうに泳いでいる。
小石をポンッとその水面に投げると、それらの小魚が餌と勘違いして群がってくるのが面白い。
水面の振動に反応しているのであろうか、その魚たちの素早さといったらない!
1個2個と小石を投げる・・・すると、魚の群れがササッと水面の波紋の中心に寄ってくる。
その様はまるで、磁石に吸い付けられる砂鉄の様でもあった。

何個も飽きずに小石を投げていると、滝壺の底で、何か茶色いものが動く気配を感じた。
それはのそりのそりと水中をユックリと這う様に現れた。
大山椒魚である。
水の深みが邪魔をして、その大きさは定かではないが、2メートルほどもあるように見えた。
その大山椒魚は大自然の賢者のごとく悠々と水の底を歩き、その滝全体を眺めながら周りの環境を制御しているかのようだ。
水の賢者のごときその大山椒魚は、私の存在を気にすることもなく、滝壺の端から端へユックリと歩いていった。
その堂々たる仕草は、大自然の精霊であるかのように思える。

大山椒魚は、1年に1cm成長するとも言われている。
2メートルほどの大山椒魚ならば、200年もの長きを生き抜いてきた生命だ。
畏敬の念を感じざるを得ない。
わたしは、その悠々たる大山椒魚の動作を、強い感動を覚えながら眺めていたのであった。


見晴らし塔の男

2017年12月06日 11時09分16秒 | 動画

見晴らし塔の男

男は、この工場に勤めて、もう40年以上になる。
工場は、小高い山の中腹にある。
セメントの材料となる石灰岩の採掘・加工工場である。
その現場の安全確保のための見張り番が、男の役目であった。
男は、10数メートルもある見張らし塔の上から、岩石を積載したトラックの行き交う光景を40年あまりも見続けてきた。
石灰岩を集める場所は数箇所あり、岩石の山の量を確認し、その結果を報告するのが日課であった。

高度成長期やバブル景気のころは、8時間の3交代制であったが、不景気が押し寄せてきた十年ほど前からは、男1人だけが工場の見張り番をしている。
見晴らし塔の中は4畳くらいの広さで、仮眠用のベッドや小型の冷蔵庫、また携帯ガスコンロまで設置してあり、内部だけでも生活はできた。
電話が設置されているので、業務連絡は、ここからしていた。
1日に1度は、食料や煙草や新聞を、事務員の女の子が運んできてくれるので、ここから出る必要もなかった。

 

「もう何年も地上には下りていないな・・」
男はしみじみ感じていた。

見張り番が男1人になってからというもの、この見晴らし塔の部屋から、随分長い時間下りていなかった。
下りようと思えばいつでも下りられた。
しかし、6,7年も前だろうか、たまに地上に下りてみたのだが、その時、足がすくみ動けなくなった経験が、男にはある。
建築物の屋根や塀が、自分より高いところにあり、自分が押しつぶされそうな恐怖を感じたからだ。
それ以来、男は地上に下りてはいないのだった。

今日も男は、眼下の岩石の山を見下ろしたり、遠くの風景を眺めたりしている。
塔の東側では、ブルドーザーやシャベルカーが、せわしなく作動し続ける、採掘現場の小高い山が見える。
西側は、遠くまで続く家々が建つ、町並みが見える。
それは、男が生まれ育った町でもある。
男がこの仕事を始めた頃は、高いビルなどなかったにの、今では、チクチクと空に突き刺さる針金のように高層ビルが建って、郷愁を忙殺させてしまっている。

そんな風景だったが、男はいつも思うのだった。
「手を伸ばせば、触れるようだなぁ・・・」
遠くの家々やビルや道は、天気の良い日など、遠近感を麻痺させ、手を伸ばせば触れるような錯覚を覚えさせる。
ここから空中を歩いて、すぐにでも遠くにたどり着けるような危険な感触を、心に生じさせてしまうのだ。
空気がとてつもなく澄んでいて、遠くと近くの区別がつかないのだ。

男は、この塔から、あの自分の生まれた町まで歩けるような気がした。
「町まで歩いていってみよう・・・」
その時の男の心の中には、空中を歩くという行為に、微塵の懐疑心も無かったからである。
男は唐突に、その高い塔の窓から出てみた。

塔から出した右足は、スポンジの上のように少し不安定だったが、フワッと男の体重を支えている。
左足も出してみた・・・
一瞬だけ沈んだ気配がしたが、空気がシッカリと男の体を抱きかかえているようだった。
二歩めも、フワッと少し沈み、空気のスポンジは男の体重を気にもしていないかのようだ。
三歩目、四歩目・・・・
まるで、果てしなく続く薄いスポンジの膜の上を歩いているようだ。
フワリフワリと、男は空中を散歩している。

強く足を下ろすと、下の方へ下がっていく。
軽く足を下ろすと、上に登っていった。
男は、空中を歩くコツを直ぐにつかんだようだ。
空気が足にまとわり付くので早くは歩けないが、こうやって空中を散歩できること自体が、すべてから開放された良い気分だった。

町の上空まで、歩いて来てしまった。
工場の有る小高い山から、一直線に歩いてきてしまったので、今居る高度は5・60メートルもあるかもしれない。
足の下には、道路や人が小さく動いているのが見える。
高いビルの屋上ならば、降りてみようかと思ったりもした。

学校帰りの小学生が数人、こちらを見て、男を指さしている。
そんな光景が、これが現実であることを認識させていた。
男は、手を振ってみたが、反応はなかった・・・
遠くで、何をしているのか判別がつかないのであろう。

男は、ふわふわと、また歩き続ける・・・

自分の生まれた家が見えた。
両親も他界し結婚もしていない男の家は、半分崩れかけ死にかけた動物のようにも見えた。
伸び放題の雑草の群れは、屍骸に手向けられた献花のようだった。
男の心が、急に悲しさを感じた。
子供のころの、幸福だった光景が目に浮かんだ。
あまりにも切なくて、その光景を消そうとしたが、心から離れなかった。

男は、耐えられない孤独感と後悔の念に襲われた。
人生を、無駄に過ごしてしまった・・・・
そんな、虚しく暗い幽霊が男を包み込んでしまうようだ・・・・・
心に感じていた開放感が、しだいに薄れ、重苦しい気分になっていくのを感じていた。
「ああ・・、もう、いい・・・はやく見晴らし塔に戻ろう・・・」

男は少し足早に、空間を歩いていく。
遠くから、カラスの鳴く声が、カアカアと悲しげに響いてくる。
回りの空気が、急に冷たくなったような感じがして、思わずポケットに手を突っ込んだ。
スポンジのような空気の膜が、妙にブヨブヨ粘りが出てきたような感触だ。

しばらく戻っていくと、見晴らし塔が見えてきた。
男は、少し安堵感を覚え、ほっとしてきたようだった。

カアカアとカラスの声が、大きく叫んでいる。
黒い影が、サァッっと、男の目の前を横切った。
また、もう一つの影が、男の顔を横切る・・・・
また、黒く素早い影・・・・!

何度も、男の目の前を横切る黒い影は、カラスの群れであった。
何匹も、何匹も、男の回りを取り巻くように、カラスが飛んでいる。
カラスの群れは、メリーゴーランドのように、男の体を中心に旋回を続けている。

男はポケットから手を出し、カラスを追い払おうとしたが、カラスの飛行の素早さには無抵抗だった。
カラスは亡霊のように、執拗に男をつけ狙っているようだ。

とっさに、1匹のカラス口ばしが、男の眼球めがけて突進してくるのが、男の網膜に映った。
彼の目玉の体液がブシュッと外部に漏れる音が、耳に聞こえた。
激痛と共に、男の心の中に疑いの念が、針のように刺さった!
「人間が、空を飛べるわけがない・・・・」

瞬間に、男の体は地面に叩きつけられ、骨や内臓が粉々になり潰れるのを感じた。

 

うわぁぁ~~!!
声にならない声が、見晴らし塔の狭い部屋の中に響いたようだった。
男は、仮眠用の簡易ベッドから、汗びっしょりになりながら、飛び起きたのだった。
「ああ・・・嫌な夢だった・・・」
男は、まだ現実感を取り戻せないまま、汗で濡れた額を拭いている。

「・・夢だったのか・・・・」
男は、ほんの少しだけ安心感を抱いている。
男は、ベッドから重い体を起こし、窓の外の風景を見回した・・・
「やはり、夢だったんだな・・・」
男は、そう思いながら、久しぶりに地上に下りてみる決心をしていた。

「地上に下りるのは、何年ぶりだろうなぁ。」
妙に感慨深げになっている自分の気持ちが、妙に可笑しいような心持だった。

もう、随分と開いたことの無いドアの取っ手を回し、外に出た。
男は、見晴らし塔の周りの壁面の螺旋階段を、下りていく。
クルクルと回りながら下りていく階段に、目が回ってしまうようだ。

地面に下りた男は、揺ぎ無い土の地盤に少々戸惑いなっがらも、土の匂いを嗅ぎ取っていた。
「土の匂いか・・・・久しぶりだな。」
なま暖かいようなやさしい風が、男の体を吹き抜けていく。
工場の中は静まりかえって、物音一つしていない。
「何か変だ・・」と、男は思った。
あの、機械の唸る音やトラックの音、人の話し声すら聞こえない。
時々、カンカンと、遠くから金属同士がぶつかる音が、かすかに聞こえるだけだった。

この工場内に、生きている気配がまったく無いのに、男は気がついていた。
見渡せば、ベルトコンベアーは微動だにせず、息絶えて硬直した蛇のようだった。
トラックの轍は、風雨にさらされ、形もさだかでない。
もう何年も使われていない、死んだ工場の成れの果ての姿のようだった。
トラックの行きかう工場の門は封鎖され、鉄の門柱は錆だらけで朽ち果てる寸前だった。
時折吹く風が、事務所と工場の機械の間で、小さな旋風を作っている・・・・
安全を謳う黄色い看板の人物は、錆に侵食され、怪物の絵ように見える。

風に飛ばされてきた新聞紙が、男の足にまとわりついた。
男は、その新聞を拾い上げ、読もうとした。
紙は黄ばんで、触るとボロボロと消滅しそうだった。
それでも男は、手に持ち広げ、新聞の日付に目をやった。
そして、仰天したのだった。

「昨日から、10年も経っている・・・」
脳の中の冷静な部分と混乱した部分とが、渦のようになり精神を攪乱させている。
混乱しながら、男は記事を読む・・・・
男は再び、仰天したのだった。
誰も気にしないような三面記事の片隅に、男の死亡記事が載っていた。

『 セメント工場の見張り塔から男性が転落死 』
そう、少し太いゴチック文字で見出しが載っている。
記事は、三行に満たない記事だったが、たしかに男の死亡を伝えている。

「・・俺は死んでしまったのか・・・」
男は、絶望し混乱し困惑した。

何十分か、何日か、数年、数十年か・・・・
あるいは、数秒にも満たない刹那の時間だったかもしれない。
しかし、死者に時間は無意味だ!

悩み続けているうちに、男はなんだか心のモヤモヤが吹っ切れて、心が晴れ晴れしていくように感じられたのだった。
そだ、あの空を飛んだときのような、開放された感覚と同じ感覚だった。
「同じだ・・生きてても、死んでも。」

男は、納得して安堵した。
「どうせ、見晴らし塔に居るだけの毎日だった・・」
「俺の世界は、あの塔の中だけにある!」
そう、思いが決まると、なんだか楽しい気持ちで心が満たされていくのを感じていた。


そうして、男は、朽ち果てていく廃工場の見晴らし塔のなかで、今日も下界を眺めている。
たぶん、宇宙が終るその日も、今日と同じように塔から世界を眺めているに違いない


待つ男

2017年12月06日 11時08分18秒 | 小説

待つ男

廃線になった駅の写真を撮影するため、私は、この朽ち果てた駅の構内に入り込んだ。
休日には1人で、このようなひなびた建築物や風景を写真に撮るのを趣味としている。
こんな寂れた町に来たのには、母が昔住んでいたという理由以外に何もない。
病気で亡くなった父と母と私は、私が3歳の頃まで住んでいたという。
私には、その記憶がまったく無いのだが、どこか懐かしさも感じさせる町であり、駅である。
病気で亡くなった父の後、数年して母は再婚したが、私を実の自分子供のように可愛がり育ててくれた父も、7年前に他界した。
母親も間も無く亡くし、今は天涯孤独で気楽だが淋しい身分であった。

廃線の駅は、朽ち果てるのを待つばかりの遺跡のようだった。
ここの駅も、もう数年前に廃線になったのにも関らず、何百年も経過したような雰囲気を醸し出している。
ペンキの剥げてしまったベンチは、もう人が座ることもないであろうに、人の温かを欲しているかのようにも見える。
駅の内壁に貼ってあるディスカバー・ジャパンの高峰峰子のポスターは、日光で焼け、脱色されて2色刷りの白々したポスターと化している。
外を見れば、剥げ落ちたペンキの間の外壁に、水原弘や由美かおるのホーロー看板が懐かしいような微笑を浮かべていた。

駅前の雑貨店は、もうとっくに店を止め、空虚になってしまったガラスのウィンドーには、紫外線で脱色されて痛々しい土産物の人形などが飾ってあった。
寂れて久しいのであろう、あるいは鉄道が走っていた時から、もう寂れていた駅前だったのかもしれない。
人道りはまったく無く、私の押すデジカメのシャッター音だけが、ガシャッガシャッと廃駅に響いている。

 

使われなくなった駅の錆びた改札口を通り抜け、線路を撮影しようと、私は外に出た。
線路の枕木の回りには雑草が伸び放題に生い茂り、長い時の間、車両が通過していないのを物語っていた。
雑草は、私の腰までも伸びているものもあった。
よく見ると、薄紫色や濃い黄色の小さな花を咲かせている草も、あちらこちらに生えていた。

そんな小さな花や線路を写真に納めていると、突然に人の気配を感じた。
ギクリとして後ろを振り返ると、50メートルほど向こうのベンチに、老人が腰掛けているのが視界に入った。
今時珍しく、昔の文士でもあるかのように、古びた黒いインパネスのコートを着ている。
老人は、こちらが気づいたのを察してか、軽く会釈をした。
私も、軽く会釈を返した。

どうしてあのような老人がここに居るのだろう・・・・?
いぶかしく思い、私は、その老人に近づいていった。
そんな老人と話をしたりするのも、こんな撮影の旅の楽しみの一つでもあったりするわけなのだが・・・・
その前に、そんな風景もなかなか良い風景であるので、その老人を中心に1枚写真を撮影した。
ガシャッとシャッターの擬音が、老人にも聞こえてしまったようだった。

老人は、私に向かって、手をやさしく振った。
私もつられて、老人に近ずきながら手を振ってしまっていた。
どこか懐かしさを感じてしまう老人の顔であった。

老人の目の前にくると、老人は微笑みながら私に言った。
「ワシを撮っても写真に写らんよ」
何のことか判らない私は、曖昧に返事をした。
どうせ、老人の戯言であろうとしか思えなかったからだ。

「良い天気ですね、何をしているのですか?」
話題が見つからない場合は、天気の話にかぎる。
私は、よくある普通の会話できりだしてみた。
「汽車を待っているのですよ・・・」
老人は、またも微笑みながら言ったのだった。
「汽車・・・ですか・・・・」
こんな廃線に、列車が行行き交うははずも無く、認知症の老人かと、とっさに思った。
きっと、意志も無く徘徊しているのであろう・・・・
そうは思ったが、顔の表情や話し方がシッカリしている。

「列車は来ませんよ・・廃線になってますからね・・」
そんな当たり前の返事を私はしたのだが、何か馬鹿げた返答にも思えた。
老人は、うふふ・・とでも笑うかのように言った。
「知ってますよ、そんなこと。ボケちゃいませんよ、ワシは・・」
私の心の中を見抜いたように、老人は話している。
「ワシは、列車を待っていると言っただけで、列車が来るとは言ってませんよ」
老人は、きっぱりと私に言ったのだった。
「列車を待っているのですか・・・」私は、意味不明な言葉に戸惑い、独り言のように言った。

「ワシはね・・こうやって随分前から待ち続けているのですよ」
老人は、しみじみして言った。
「かれこれ、70年くらいになりますか・・・」
遠くに1点で結ばれたような線路を見つめながら、老人は話を始めた。

 

「ワシが、最初に列車を待つようになったのは、3歳の頃だった・・・
随分昔のことだが、心の中ではついさっきのことと同じ出来事です・・・」
老人が自分の手のひらを拝むように合わせながら言った。
「ワシの母が、ワシを置いて汽車に乗って行った・・・・
きっと連れ戻しに来るよ!と良いながら、結局は2度とワシの所へ戻ることは無かった・・・」

老人の、列車を待つだけの人生が、それから何十年も続いているという。
母親が去ってから、「必ず返る」と言葉を残したまま、実の父親も列車に乗って消えていったという・・・
老人は、青年になるまで、従兄弟と共に叔父に育てられたという。
その、叔父の家族も、「いつか戻る」と約束したまま、この駅から列車に乗って、どこかの町に去っていった。
成人になり、老人は結婚をしたらしい。
しかし、妻との折り合いが悪く、3歳になる子供と共に、この駅から去っていった。
老人は、何時までも列車の窓から手を振る、子供の顔が忘れられないと言う。

それらの人々を、この駅で彼は、何時までも待ってた。
毎日毎日、ここで家族の帰りを待つのが日課になっていったのだと、老人は遠くを見ながら言った。
そんな、列車を待つ日々が長く長く続いたが、あるとき不思議な出来事が起こったのだ。

その日も、いつものように列車を待っていた。
その時、聞きなれた声が後ろからしたのだ。
フッと振り返ると、そこに立っていたのは、もう一人の自分だったのである。
着ている服から髪の形まで、寸分たがわない自分がたたずんでいたのだ。
「俺は、これから去っていった家族を探しに行く・・・」
もう一人の自分は、そう言ったのだった。
老人は何も答えられず、もう一人の自分の話を聞いてたのだという。
「お前は、ここで、俺の帰りを待っていてくれ!」
そう言いながら、もう一人の自分も、この駅から消えていった・・・・・

 

「ドッペルゲンガーというやつなんでしょうか・・・」
老人は、私の方を見ながら言った。
「あまりにも長い時間待ってばかりいたので、ワシの半分の存在も、痺れを切らしてどこかへ行ってしまったのかもしれん」
「今でも、もう一人のワシは、世界の果てまで家族を探していると思うよ・・・」
少し自嘲しながら、老人は言った・・・・

「もう一人の自分まで、見送ったのですね、この駅から・・」
私は、半信半疑のまま、老人の話を聞いている。
「君は、こんな話、信じてはいないのでしょうねぇ・・・」
老人は、私の目を見ながら、少し微笑みながら訊ねている。
「そうでもないですよ」と言おうとしたが、あまりにも嘘くさく聞こえるので、黙っていた。
黙っている私を眺めながら、老人は自分の手を、私に差し出した。

「うわっ!」
私は驚いて、1メートルほど後ずさりしてしまった。
ゆっくりと差し出された、老人の手は、薄っすらと透けて見えるのだ。
「自分の存在の半分が、何処かへ行ってしまったので、時々、ワシの体が、こうやって透けて見えてしまうのです。」
「もう一人の自分が、家族を探して戻ってくるまで、ワシはこうして待ち続けているのです。」
老人の体は、薄っすらと透けて見えたり、はっきりと存在したり、まるで風に揺らいでいるように見えた。

老人の話を聞いているうちに、私は、切ないような気持ちになっていた。
何かしてあげたいような気分だったが、私には何も出来ることはないだろうと感じた。
そう思うと、悲しくて、知らぬ間に老人の手をギュッと握っていたのだった。

ぎゅっと握った老人の手は、なんだか懐かしく、暖かだった。
ずっと昔に触ったことがあるような、心の奥底の悲しみを癒してくれるような・・・
そんな温もりであった。

「待ち続けた甲斐があったよ・・・・」
老人は独り言のように、ポツリと言葉を落とした。

 

黄昏が2人を包んでしまう頃、私は老人に別れを告げ、廃線駅から去っていった。
私は運転する車の窓から、老人を見た。
もう、人の顔の区別もつかないくらい、暗くなった廃線駅の構内で、古びたインパネスに包まれながら、老人は今も待ち続けている。


小説 路地裏の怪人

2017年12月06日 11時06分32秒 | 小説

その路地裏は、100メートル四方に切り取られた大きな羊羹のように昔のまま取り残され、時間が停止したようだった。
空がほんの少しだけ夕焼けに赤く染まりかけたころ、僕はその古い路地裏を抜け、家に帰ることにした。
いつもなら、こんな時間に薄気味の悪い場所を通ったりしない。
学校から家までの近道とはいえ、こんな時間にここを通ってしまった事を僕は後悔していた。
あたりは薄暗くなってきて、危険で不思議な雰囲気に満たされている。
時折、ヒューッと風が通り抜け、割れた窓ガラスをカタカタと揺らしている。

「ああ・・早く帰ればよかった・・・」僕の心の中は、心細くて小さく縮こまっていた。
さっきより風が強くなってきて、ごみの切れ端や枯葉を巻き込んで路地裏を勢いよく通りぬけていく。
はがれたポスターが幽霊の手のようにパタパタはためいていた。
そんな怖い気持ちが、僕の足を早足にしていた。
サッサッと急いで動かす足音が薄暗い路地裏通りに、他人の足音のように響いている。
こんな気分のときは、歩いても歩いてもここから出られないのではないかと、嫌でもそんな不安な気持ちになってしまうものだ。
カランッ・・・と、何かが落ちるような音が路地裏の奥に響いたので、僕はビックリして立ち止まってしまった。同時に、ニャーと、小さな声がした。
「なんだ、猫かぁ・・・」僕の心は、ほんの少しだけゆるんだ。でも、その時後ろに何か大きな人の気配が感じられた。
僕は、ギクリとして後ろを振り返った!
「うわっ~~~!」僕は、ありったけの驚きの声を張り上げ後ずさりした、そして、一目散に走りだした。
僕の後ろには、真っ黒な巨大なペンギンのようなタキシードを着、ハタハタと黒いマントをなびかせた、見るからに恐ろしげな男が立っていたからだ。
僕は後ろも振り返らず、一目散に走った。
ザッ!ザッ!ザッ!っと、僕のスニーカーの靴音が、無人の路地裏に木霊して、何人もの僕が一緒に逃げているようだった。
数メートルも行かないうちに、さっきの奇怪な路地裏の怪人が、僕の前に立ちはだかった。
頭には大きなケーキのような黒いシルクハットを被り、ギョロリとした輝く目が、心を見透かすように僕をにらんでいた。
とその瞬間、バサッ~~~!!っと、かび臭い大きく真っ黒なマントが僕の上に覆いかぶさってきた。
そして、僕の目の前は真っ暗になった!

一瞬の出来事だった、かび臭い匂いが無くなり、急に周りから賑やかな音がしてきた。
パフゥ~プィ~パァ~!ラッパのような音が遠くから聞こえてきた。
僕は何が起こったのかサッパリわからず、ユックリユックリ目を開いてみた。
そしてそこには、さっきまで居た路地裏が朱色の夕焼けに染まり、在った。
建物は変わりないのだが、さっきとはぜんぜん違った風景の路地裏が目に前に広がっている。
大勢の人たちが活気よく歩き、子供の声が近くや遠くでワイワイ聞こえている。
それはまるで放課後の運動場のようにも思えた。
どこからか味噌汁の匂いがフワァ~と漂ってきて、いい香りだ。
パフゥ~プィ~パァ~!と、遠くから聞こえたラッパのような音が近づいてきて、どこからか女の人の声がした。
「お豆腐屋さぁ~ん!待ってぇ~!」そうすると路地の向こう側から、自転車に大きな車輪の荷台を引っ張りながら、ラッパを首にかけた豆腐屋のおじさんが現れた。
そして、白いエプロンをしたおばさんが、1人、2人と、僕の前を走っていく。
僕は、頭がクラクラして立っているのがやっとだった。
「いったいここはどこなんだろう?わけがわからない!僕は、どうしてしまったんだっ?」混乱した気分で、僕はもう少しで泣きそうだった。
さっき路地裏の怪人に会って、何の理由も知らないまま一瞬のうちにこんな所に来てしまった。
景色は、さっきの廃墟の路地裏と変わらないのに、こんなにも人が一杯いて賑やかだ。
味噌汁の香りや、薪を炊く匂いや、草の匂いもしている。

突然に、棒切れを振り回しながら数人の幼稚園くらいの子供が、僕の横をキャアキャア叫びながらすごい勢いで走り去っていった。
「やぁぁ~い!俊夫ちゃんのバァ~カ!」数人の小さな子が、一人の男の子を追っかけながらからかっている。
逃げている子は、泣きながら追っかけられ走っていった。
「僕のお父さんと同じ名前だったな」泣きそうな気持ちだったが、僕はそんなことを考えていた。
なんだかジッとしていても心が不安なままなので、心細いけど少し歩いてみようと思った。
少し歩いていくと、眼鏡の下がったオジサンのついた古いホーロー看板があった。
もう少し行くと、見たことの無いような形のテレビが白黒のニュースを放送していた。
その隣には、見たことのような駄菓子が売られている小さな店を見つけた。
棚の上に並べられたガラス瓶の中には、いろんな色のお菓子が詰まっている。
美味しそうな煎餅や黒砂糖のついたたっぷり付いた麩菓子は、ビニール袋にも入っていなくって、そのままガラスケースの中に並んでいる。

わぁぁぁ~~~!っと、また、あの子供たちの声が近づいてきた。追っかけられていた一人の男の子が僕の後ろにサッと逃げ込んだ。
続いて数人の子供達が、その子を囃し立てている。
「やぁ~い!俊夫ちゃんの弱虫!」「やぁ~い!」一人の鼻水を鼻からたらした子が、棒切れの先にバッタの死骸を突き刺し、僕の後ろの子供の顔にくっ付けようとしていた。
「ほれほれ!」「死んだバッタだぞっ!」僕の後ろの男の子が、泣けば泣くほど数人のいじめっ子は、調子づいて囃し立てている。
「大勢で、いじめるのは止めろ!」僕は、妙に腹が立って強く怒ってしまった。
「わぁぁ~~っ」「ばぁ~か!」そう叫ぶと、いじめっ子達は、どこかへ走り去っていった。

後ろの子は、まだウェンウェン泣いてばかりで、いっこうに泣き止む様子はない。
「しょうがないなぁ・・・」そう思った僕は、ここの駄菓子屋でこの子にお菓子を買ってやることにした。ポケットの中には十円玉が3個しかなかったので、たいしたお菓子は買えないだろうが、なんとか泣き止んでくれればと、僕は考えていた。
「ごめんくださ~い!」駄菓子屋の店の前で、大きな声で僕は言った。
すると奥の部屋から、店のおばあさんが出てきた。
僕はサイコロの形の箱に入ったキャラメルと、赤いイチゴの形の飴を買い、その子に渡した。
ヒックヒックいいながらも、その男の子は泣き止んだ。
駄菓子屋のおばあさんは、男の子を見ながら言った「また、俊夫ちゃん、泣かされたんだねぇ、もうすぐお母さんがくるから待ってるといいよ」
いつも、この俊夫ちゃんと呼ばれた男の子は、いじめっ子に泣かされているのかもしれないと、僕は思った。
夕日で赤く染まった駄菓子屋のお菓子は、なんだか夢の中のようなお菓子に見えた。

そして、しばらくすると、その子のお母さんがやってきた。
「俊夫!また泣かされたのかい?」そう言うと、その子の頭を軽くコツンと叩いた。
すると、その子は、またグスグス泣きそうになっている。
「あんたが、うちの子を助けてくれたんかい?」おばさんがそう言ったので、僕はうなずいた。
「助けてくれてありがとうね!それから、お菓子もありがとうね!」そうお礼を僕に言いながら、おばさんとその子は路地を歩きながら帰って行った。

後ろ姿を見ていたら、急に僕のおばあちゃんを思い出した。
そうだ、さっきのおばさんは、僕のおばあちゃんにそっくりだった。
お父さんの名前の俊夫と、おばあちゃんにそっくりなおばさん!

「ここは、何十年か前の僕の町だ!そうだ、そうに違いないのだ!」僕は、確信したのだった。
あの路地裏の怪人は、僕を昔の路地裏に連れてきてしまったんだ!
あの怪人の黒い大きなマントはタイムマシーンのようなものなのかもしれない。
なんで僕が連れ去られてしまったんだろう。
あんな時間にこんなところへ来なければよかった・・・・・
後悔の気持ちが、僕の心の中を一杯にしていく。

もう自分の居た町には戻れないと思ったら、僕は急に泣きたくなってしまった。
夕焼けの淡い光が、僕の影を長く長く伸ばして地面に写し出している。
空には、カァカァと烏が寂しげに鳴いている。
すると突然に、僕の長い影にシルクハットの影がスゥーッと重なったかと思った瞬間に、僕はまたあの怪人のカビ臭い大きなマントにスッポリ覆われていたのだった。
バサッ!マントが風を切る音が響いた。
僕の目の前が真っ暗になり、一瞬静かになった。
かと思った瞬間、次には元のあの僕の町に戻っていた。

遠くでは、自動車のエンジンやクラクションの音が小さく聞こえてくる。
周りを見回したが、路地裏の不気味な怪人はどこにも見当たらない。
「ああ、さっきのは夢見たいなもんだったのかなぁ?」そう思いながら、不安な気持ちが無くなってホッとした気分だった。
廃屋だらけの路地裏は、夕焼けに染まって真っ赤になっている。

僕は急いでその路地裏を抜けると、なんだか気になって後ろを振り返った。
するとそこには真っ赤な夕焼けの空を背に、シルクハットを被った路地裏の怪人の長い影のシルエットが、一瞬見えような気がした。
とても恐かった。
でも、今ではあの路地裏の怪人が良い奴のような気がしているのだ。

・・・・なぜって?
昔のお父さんは泣き虫だった。
僕には「男は泣くんじゃない!」と、いつも言ってるくせに、自分は泣き虫だったんだ。
それに、僕には優しいおばあちゃんなのに、お父さんにはちっとも優しくなかった。
でも今は、僕はお父さんやおばあちゃんが、前よりずっと好きになっている。
何故だかわからないけど、さっきみた昔の町が、僕の心を優しくしてくれたのかもしれない。
遠くに見える路地裏は、夕焼けに染まりユラユラと揺れているように見えた。

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昭和猫町五丁目 ダイハードはつらいよ!昭和猫町人情篇

2017年12月06日 11時03分34秒 | 小説

昭和猫町五丁目
ダイハードはつらいよ!昭和猫町人情篇

ペンキ絵作家の狐の権座エ門さんはゴンザさんと呼ばれている。
映画館の看板や銭湯の富士山などを描くのが仕事である。
青空さんという絵描きさんに飼われていた狐で、今はもう十年以上生きて人間に化けれるようになった。
飼い主の見よう見まねでゴンザさんも絵が描けるようになった。
青空さんは、空の絵を描くのが上手い絵描きさんで、ゴンザも空の絵を描くのが好きなのだ
しかし、空の絵を描くチャンスは少なく、富士山の絵を描くときぐらいしか腕を発揮できないのを残念がっている。

今日の仕事の依頼は、町で唯一の映画館”猫町シネマ館”の映画の看板だった。
シネマ館の映画は1週間ごとに変わるので、ゴンザさんの仕事はけっこう忙しい。
映画はたいてい2本立てでやっていた。
昭和の古い映画と新しい映画との2本立て、と言う場合もあった。
たとえば”男はつらいよ”と”ブルース・ウィリスのダイハード4.0”とかの抱き合わせである。
”男はつらいよ”などは48作もある昭和の映画なので、ほとんど毎週のように上映されていた。

「僕が描く映画の看板は特別なので、満月の夜は気をつけないといけないなぁ・・」
独り言を言いながら、ゴンザさんは映画の看板を描いている。
「楽しい映画ならいいんだけど、悪者なんか出る映画だと危険なんだよねぇ」
渥美清の顔を描き終えて、次はブルース・ウィリスの顔を描きはじめた。

この町は化け猫や狐や狸の妖気の漂う町である。
妖気といっても”陽気な妖気”なので、恐くも無く怪しくもなく楽しくなってしまう陽気な妖気である。
狐のゴンザも化け狐の仲間なので、特別な力を持っていた。
ゴンザが描いた絵は、満月の夜になると絵から浮き出て、一時的に本物の人間にように動いてしまうのだった。

「そーいえば、飛騨の匠の左甚五郎の彫った眠り猫も、夜になると起き出すっていうらしいね」
後ろで看板を眺めていたシネマ館のタマオがゴンザさんに言った。
「そーいえば、今日は満月だね・・・大丈夫かな?」
ゴンザがチョイト心配しながら言う。
「まぁ、ゴンザさんの妖力はランダムだから、出たり出なかったりですよ」
タマオが呑気に言う。
「青い山脈と男はつらいよの2本立てにしないかい?一番安全そうな映画だよ!」
とゴンザが言ったが、予定どうりの上映をしないと観客がうるさいのだ。
そうして、不安なまま男はつらいよとダイハードの看板が出来上がってしまった。

猫町シネマ館も、土曜の夜はオールナイト上映である。
満月の夜、男はつらいよとダイハードの2本立てに、観客は満員だった。
あのシガラキさんとタマ子さんも2度目のデートで、映画館に来ていた。

パァァ~~ン!パァァ~~ン!
突然、映画館の外で銃声の音が数発鳴り響いた!
「ガブリエル!動くな!」
ジョン・マクレーンがテロリストに向かって、銃を向けている。
「お前みたいなアナログ人間に、俺は捕まえられん!」
そう叫びながらテロリストのガブリエルは、シネマ館の中は逃げていく!
ジョン・マクレーンは、パァァ~~ン!パァァ~~ン!と数発拳銃を撃った。
その一発が車寅次郎の鞄をかすめた。
「マクレーンさん、そんなに拳銃撃ちまくっちゃあぶねえよぉ!」
寅さんがジョン・マクレーンに言った。
「寅さん、危ないぜっ!どいててくれ!」
ジョン・マクレーンがテロリストを追ってシネマ館の中に入っていく。
寅さんもつられて館内に入っていった。

シネマ館の中は大騒ぎになっていた。
テロリストのガブリエルに、シガラキさんとタマ子さんが人質になってしまっていたのだ!
「ジョン・マクレーン!近づくとこいつらの命は無いぞっ!」
銃口をシガラキさんに向かってテロリストが叫ぶ。
ジョン・マクレーンは拳銃を両手で持ち、狙いをガブリエルに向けたまま沈黙している。

「僕は殺されてもいい!タマ子さんは離してくれっ!」
シガラキさんがテロリストに言う。
「いいえ!あなただけ一人にはしないわ!」
タマ子さんも言った。
「うるさい!お前ら、黙ってろ!!」
テロリストが人質に向かって言った。

そこへ、にこやかに現れた車寅次郎が、テロリストに向かって諭すように言った。
「ガブリエルさん・・・そんなことしたって、世の中良くならないよ。
まぁ、ピストルなんか物騒なものはやめにして、一杯やらないかい?」
「お前は誰なんだ!」ガブリエルが言う。
「俺かい?今日の2本立てのもう一本の映画の主人公よっ!」と寅さん。
「虎屋の風来坊だなっ!」ガブリエルが言う。
「こんなことやってちゃ、草葉の陰でおっかさんが泣いてるよ・・・」寅さんが言う。
「母親の顔なんか忘れたぜっ!」ガブリエルが吐き捨てるように言った。
「そんあこたぁねぇよ!あんたのおっかさんは今でもきっとあの世であんたのこと心配してるぜっ!」寅さんが言う。
「・・・・・」ガブリエルの目に涙が一筋こぼれたように見えた。
ジョン・マクレーンが言う。
「今なら、まだ間に合う、人質を放せ!」
「わかったよ、寅さんには負けたよ・・・」ガブリエルが人質を解放し、持っていた拳銃をジョン・マクレーンに渡した。

ジョン・マクレーンに手錠をかけられたテロリストが、寅さんに肩を抱きかかえられて映画館の外に出て行く。
シガラキさんとタマ子さんは、抱き合って泣いている。

満月の夜も終わりかけ、白々と夜が明けるころ、寅さんとジョン・マクレーンとガブリエルは映画館の看板の中へ吸い込まれるように消えていった。
  


パラレル濃姫子ちゃんストーリーズ エピソード3

2017年12月06日 06時33分24秒 | 小説

その邪悪な生物は宇宙からやってきたのでした。
そうです、この生物も異次元黒魔女が魔法で呼んだのでした。
最初はゴルフボールくらいのゼリー状の生き物でしたが、人間のネガティブな感情を餌にして成長する悪の”マインドイーター”の亜種なのでした。
マインドイーターは人々が気づかない無臭の邪悪ガスを放出して人間同士を争わせ、憎しみや嫉妬や怒りを餌にしてどんどん成長していきます。
商店街は、おじさんやおばさんの喧嘩や争いごとでパニック状態になってしまいました。
その間にもマインドイーターは巨大化し、今では2階建てのビルくらいの大きさになっています。

濃姫子はと濃濃姫子と淡姫子は、マインドイーターと戦おうとしますが、手に負えません。
濃姫子ゴージャスに変身しましたが、マインドイーターの邪悪なガスにやられてラメラメのドレスがボロボロにされてしまいました。
ハイブリッコ濃姫子に変身してブリッコしましたが、マインドイーターのせせら笑いをされてしまいスッゴク落ち込みました。
三段腹ではなく、三段変身のサンシャイン濃姫子に変身しましたが、光りよりも邪悪なパワーにに負けて、すぐにへたれてしまいました。
「どーせ私なんか何の役にもたたないのよ・・・」
濃姫子は厭世的な気分にさせられ、マインドイーターの思う壺にはまっています。
淡姫子も邪悪なガスを吸い込み、路上に唾を吐いたりペットボトルを分別しないで普通のゴミ箱に放り込んだり、ダーク濃姫子に戻ってしまいました。
濃濃姫子もやる気をなくし、昼間から酒をあおって飲んだくれています。
商店街の救世主も、もはやこれまでかもしれません。
マインドイーターはそれほど邪悪な宇宙生物だったのです。

みんながあきらめかけていたそののとき!!
空のかなたから銀色のスーツを着た、スペース濃姫子が現れました。
「この世に悪があるかぎり、濃姫子は宇宙のどこにでも現れるのよ!
私はスペース濃姫子!この邪悪なマインドイーターを追っかけてアンドロメダ星雲からやってきました!
このマインドイーターは闘争心も餌にします、だから戦えば戦うほど大きく成長してしまうのです!
この生き物と戦ってはいけません・・・」
そう言うとスペース濃姫子は濃姫子はと濃濃姫子と淡姫子を強く抱きしめました。
濃姫子たちに愛の力がよみがえってきました。
「そうよ!私たちはみんな地球の仲間!ウィ・ア・ザ・ワールドよ!!!」
濃姫子がそう叫ぶと、商店街の人々はハイタッチをしてハグし始めました。
「さあ皆さん!怪物の周りを囲んでフォークダンスを踊りましょう!マイムマイムを踊りましょう~~~!」
商店街にマイムマイムの曲が響き流れました。
宇宙怪物マインドイーターの回りを手をつなぎながら、商店街のおじさんやおばさん、おにいーさん・おねーさんが踊ります。
「楽しい気分を盛り上げて!愛し合うのよ!」
だんだん楽しい気分が盛り上がり、マインドイーターは少しずつ小さくなっていきます。
「もっともっとテンションあげて!!」
商店街はお祭り気分で、楽しさ一杯です!

そして、とうとうマインドイーターは消滅しました。
「やったのね!濃姫子ちゃん!」
スペース濃姫子は言いました。
「どうもありがとう!スペース濃姫子ちゃん!」
「唐突だけどお願いがあるの・・・」
スペース濃姫子が言います。
「実は・・・宇宙船の燃料切れで宇宙に帰れなくなってしまったの・・濃姫子ちゃんの所へ下宿させてくれない?」
「いいわよ!」
濃姫子は快くOKしました。

「オーッホッホッホッ!!!深イイ話で終ろうったってそうはイカ飯よ!」
黒魔女がどこからともなく現れて叫びました。
「魔法でダメなら科学の力よ~ん!見なさい!全財産を使い込んで作った”メカ濃姫子ちゃん”よ!!」
メカ濃姫子は全長10メートルはあろうかと思われる、超合金製のロボットです!
メカ濃姫子は勝利の喜びに浸っている商店街を再び阿鼻叫喚の世界に落とし込んだのでした!
ビルを破壊しゴミ箱を蹴飛ばし、黒魔女が操縦するメカ濃姫子が暴れまくっています。
「今度こそ、だ、だめだわ・・・・!」
濃姫子たちはドヨヨ~ンと落ち込みました。
もうパワーも使い切ってしまったし、メカ濃姫子の攻撃になすすべもありません。

ドヨン状態の濃姫子たちの前に唐突に大山椒魚のさらまんくんがやってきkました。
「みなさん何を落ち込んでいるんですか!こんなことで負けては駄目ですよ~!」
「だって、あのメカ濃姫子ちゃんにはかないっこないわ!」
「そんなことはありません、伝説のからくり大仏をご存じないですか?」
「伝説のからくり大仏??聞いたことないわ・・・・」
「飛騨の匠・左甚五郎が作ったといわれる、伝説の巨大からくり人形ですよ!」
「どこにそんなものがあるっていうの?」
「なんでも、岐阜公園の近くにあるっていう噂ですよ!」
「そういえば・・・あそこに大きな大仏が・・・」
「行ってたしかめましょう!」
「そうしましょう・・・メカ濃姫子ちゃんが地球征服を終わらせる前に!!」

濃姫子ご一行様とさらまんくんは岐阜公園の近所に寺にある大きな大仏を見つけたのでした。
「ひょっとして、この大仏が伝説のからくり大仏・・?」
そう言いながらや農姫子は大仏の背中の部分の操縦席を探しました。
「在ったわ!」
濃姫子は観音開きの入り口を見つけ、扉を開けました。
大仏の中は、色々な歯車や計器があって今にも動きそうです。
「ずいぶんと昔のロボットなので、動くのかしら・・・?」
濃姫子は中に入り椅子の横にあるレバーをガチャンと押してみました。
ゴゴゴゴゴッ~~~!と音を立てながら大仏は動き始めました。

暴れながら悪行三昧のメカ濃姫子の前に、巨大からくり大仏が立ちはだかります!
「もう暴れるのは止めなさい!黒魔女にもお仕置きよ!!」
「そんな骨董品のからくりで、この超合金のメカ濃姫子ちゃんが倒せるもんですか!」
黒魔女が操縦するメカ濃姫子が右手からパンチを出した!
からくり大仏はそのパンチをバシッと、無傷で受け止めました。
「なんですとぉぉ~~!?」
からくり大仏の体は、実は江戸時代に不時着したアンドロメダ星人の宇宙船の一部からできていたのです。
大仏のメカも左甚五郎が宇宙人から伝授されたものだったのです。
「ご先祖様のご加護ちゃんですわ!!」
スペース濃姫子が叫びました!
「大仏ビーム!大仏パァ~ンチ!大仏スペッシャルロ~リングアタック!!!」
からくり大仏のスペシャル攻撃にメカ濃姫子は機能停止してしまいました。
「えぇ~い!おぼえてらっしゃい!!」
黒魔女はそそくさと逃げていってしまいました。

「やった~!濃姫子ちゃんたちの勝利だぁ!」
長良温泉商店街の人たちは大喜びです。
そこへ突然、光の白魔女が現れました。
「濃姫子ちゃんよくやったわ!えらいわ!感動したわ!」
「みんな白魔女さまのパワーのおかげです!」
「いえいえ・・不思議パワーだけではここまで勝利できません!みんなの愛と勇気と友情の力よ!
愛の戦士・濃姫子!希望の戦士・淡姫子!勇気の戦士・濃濃姫子!友情の戦士・スペース濃姫子!
戦隊ヒーローにはもう一人足りないわね・・・」
そう言うと白魔女は倒れていたメカ濃姫子に光の呪文を唱えました。
「アナクタラサンミャクサンボダイ!!」
すると、メカ濃姫子はみるみる小さくなり、人間くらいのサイズに変化しました。
そして起き上がりながら言いました。
「ここはどこ?私は誰?」
「あなたは、心を持った郷土愛の戦士・メカ濃姫子となったの!
さぁ!行きなさい!5人の娘たちよ!美濃戦隊濃姫子レンジャ~~~!
これからもみんなと力を合わせて商店街と地球を守るのよ!!」


さっき逃げ帰ったと思われた黒魔女が電柱の影から、このいきさつを見ていました。
「くっそぉ~~~!白魔女め~!自分だけカッコつけちゃって!!くやしいったらないわ!」
「あ~、お前悪い黒魔女だべ!」
「誰よ、あんた!」
「通りすがりのパンダだべ」
「なんで、こんな所にパンダがいるのよ~!」
「あんまり深く考えないほうがいいっぺよ!」
「パンダは笹食ってりゃいいのよっ!」
「あ~!パンダを馬鹿にしたな!」
そういうとパンダは黒魔女をぶっ飛ばしました。
黒魔女は、どこか遠くへふっとんでいきました。


パラレル濃姫子ちゃんストーリーズ エピソード2 

2017年12月06日 06時31分35秒 | 小説

ある日唐突に異次元の黒魔女から挑戦状が濃姫子の下宿に送られてきました。
「呼ばれず!飛び出ず!ドンドロド~~~ン!
濃姫子をつくる前に、実験的に濃姫子Ver.0を作ってみたよ。
濃姫子Ver.0は、お前のお姉さんにあたる姉妹だよ。
金華山の麓の洞窟の信長ダンジョンの中に隠れているはずよ。
くやしかったらさがしてみな!」
挑戦状は物凄くへたくそな文字でそう書かれてありました。
「私にお姉さんがいたのね!探しに行かなくては!」
「でも信長ダンジョンってどこにあるの?」
淡姫子がいいました。
「金華山の麓にあるらしいわ」
「じゃあ、今すぐに金華山へ行きましょう!」
2人は金華山へ直行しました。

信長ダンジョンは織田信長が部下を訓練するためにどこかの洞窟の中に作られたらしいのです。
金華山麓の信長住居跡を探していると、おおきな穴が見つかりました。
「濃姫子ちゃん!ここに大きな穴があるわ!」
「ここが信長ダンジョンにちがいないわ!」
そういうと2人は穴の中へ入っていきました。
穴の中は真っ暗で何も見えません。
でも何かの気配がします。
穴の中を歩いていく2人の周りで何かがウロチョロしています。
「何かいるわね!」
濃姫子が手探りで何か生き物のようなものに触ってしまいました。

「はじめまして、ボクは大山椒魚のさらまんサンたろうです。ここのダンジョンの中に住んでいます、さらまんくんと呼んでね!」
さらまんくんは松明に火をつけ、真っ暗な洞窟を明るく照らしました。
「私たちは、濃姫子と淡姫子よ!お姉さんの濃姫子Ver.0を探しているのよ!」
「それなら僕がこのダンジョンの中を案内しましょう!」
「お姉さんは私たちと同じ顔をしているの、見たこと無い?」
「その顔には見覚えが・・・・・」
さらまんくんが言いました。
3人が暗闇を歩いていくと祠のようなものがあり、中に戒壇巡りがありました。
谷汲山華厳寺にあるような戒壇巡りでした。
卍形の真っ暗な通路を歩いていくと御本尊につながる極楽の錠前があって、触ると極楽にいけるというものです。
もし触ることができないと犬になってしまうとも言われています。

「こんな真っ暗な中を、また歩くのは怖いわ!」
「大丈夫ですよ、僕がついていますから!右手を壁につけて歩いていけばたどりつけます」
と、さらまんくんが元気づけます。
3人は卍形の通路を歩いていくと、濃姫子の手が極楽の錠前に触れました。
「やったわ!極楽の錠前に触ったわ!」
「えっ?どこどこ??」
淡姫子があわてています。
長い通路の終わりには、出口の小さな明かりが見えました。
濃姫子とさらまんくんが出口へ出ると、足の下を一匹の犬が走っていきました。
極楽の錠前に触れなかった淡姫子が犬になってしまったのでした。
「心配ありません、時間がたてば元に戻りますよ!」
さらまんくんが濃姫子に言いました。

戒壇巡りの出口には江戸時代の美濃の街並みが現れました。
その町はダンジョンをクリアできなかった人々が、昔から住み着いてしまった異次元の町だったのです。
大きな城下町の真ん中に大きなお城が建っています。
町はいろんな店があってにぎわっていました。
でもなんだか騒がしいのです。
毎年ナマハゲのような鬼が現れて、町一番の美人の娘をさらっていくのでした。
それが今日だったのです。
「まぁ!私が一番狙われるわね!」
濃姫子が言いましたが、みんなは聞いてないふりをしました。

「町一番の器量よしといえば蕎麦屋のおみっちゃんが、今年は狙われているそうだ!」
「おみっちゃんも災難だな・・・」
「しかし鬼には誰も勝てないよ!」
それを聞いていた濃姫子が言いました。
「その鬼を私が退治てくれよう桃太郎、ポポポポポ~~ン!」
いきなり大阪弁のおっさんが言いました。
「あんたは桃太郎侍でっか?」
「違いまぁ~す!濃姫子ちゃんでえぇ~す!」
「あんさんみたいな女の人が、鬼を退治できるんでっか?」
「鳴かせてみよう!ホトトギス!!」

草木も眠る丑三つ時、犬になってしまった淡姫子が遠吠えしています。
蕎麦屋のおみっちゃんの所へ、ナマハゲ鬼がやってきました。
「悪い子はいねがぁ~~!!」
そう叫ぶとナマハゲ鬼はおみっちゃんを連れ去っていきました。
「さぁ!匂いを嗅いで鬼を追跡するのよ!」
濃姫子は犬になった淡姫子に言いました。
「わんわん!」と吠えながら、淡姫子犬は鬼を追跡します。

鬼のアジトへつきました。
鬼はナマハゲのお面ををはずしました。
なんと、そのナマハゲのお面のしたの顔は濃姫子そっくりの顔だったのです!
「お姉さん?!」
濃姫子は影から飛び出して叫びました。
「そうよ!私は濃姫子Ver.0よ!濃姫子のお姉さんだから”濃濃姫子”と呼んでね!」
濃濃姫子はそう名乗ると濃姫子を抱きしめました。
「お姉さん!」
「妹よ!」
「でも、なんでナマハゲの格好なんかしているの?」
「これには深い訳があるのよ!」
「どんな深い桶?」
「桶じゃなくって、訳よ!」

濃濃姫子はナマハゲになったわけを話ます。
「ここの城主はすごくスケベでエロイの!毎年町一番の美人が手篭めにされてしまうの、だからナマハゲになって美女たちをすくっているのよ!
つれてきた娘たちは、裏山の隠れ里で平和に楽しくやってるわ!」
それを聞いて濃姫子は言いました。
「じゃあ、悪いのは城主なのね!では、城主にお仕置きしてやりましょう!」
濃姫子ちゃんは鮎菓子1個を食べ、濃姫子ゴージャスに変身!
町の真ん中のお城へ行き、城主に懇々とお説教を10時間もしました。
城主は、濃姫子のお説教にうんざりして改心しました。
そしてエロ城主を返上して、真面目で民思いの名君になることを人々に誓いました。

お城の裏には、岐阜の町へと続く大きな門があります。
「さらまんくん!ありがとう!おかげでお姉さんに会えたわ!」
濃姫子はさらまんくんにお礼をいい、そこから3人は長良温泉商店街へ帰ることにしました。
淡姫子も時間がたって犬から元の淡姫子に戻りました。

金華橋の欄干から、望遠鏡でこの様子をうかがっていた異次元黒魔女はくやしがりました。
「くそぉ!またちょっといい話で終わろうとしてるのね!くやしいわ!」
そこに欄干にへばりついていたコアラが言いました。
「あんた、なにやっとりゃーすの?悪もんとちがわへん!」
「いや・・わたしはただの通りすがりの黒魔女ですわ!オッホッホッ・・」
「でりゃー怪しいでかんわ!」
そういいながらコアラは黒魔女に頭突きをくらわせました。
黒魔女は橋から落ちて、長良川にドブンと落ちました。
「濃姫子め~!おぼえとりゃ~よ!!」