さかいほういちのオオサンショウウオ生活

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夏物語 荒田川の主

2017年11月29日 10時17分07秒 | 小説

私の通っていた中学校の隣に荒田川という川が流れていた。
日本の公害訴訟第一号として教科書にも載っていた長良川の支流である。
その当時も川の水は汚れ放題で、夏の暑い日など悪臭が酷く、学校の窓など開けた状態ではいられないほどだ。
その様な水の状態にも関わらず、鮒や雷魚など多くの魚が生息していた。

(まだこの中学に入る前だが)小学校の休日には、この川によく魚を捕まえに来たものだ。
どす黒く汚れた水の中を手当たり次第に網をすくうと、必ず数匹の魚が網の中に入っていた。
斑の文様が気味悪い雷魚とか、10cmくらいの鮒とか、時には鯉なども捕獲できた。

ある雨上がりの日、荒田川に魚を捕まえにやってきた。
前日の雨で水かさが増し、濁流となった荒田川は危険な風景であった。
しかし、そのような状況でも子供は遊んでしまうものである。
私は、濁流の奥深く網を入れ、魚をすくっていた。
しかし、魚は一匹も捕獲できない。
何度も何度も、その濁流に網を差し入れるのだが、いっこうに魚は入ってこなかった。
その時、唐突に人間の頭部ほどの黒い生物の頭がボコリッ!と水面に浮かび上がった。
それは、見たこともないような生き物だった。
人間のような顔にも見えるし、巨大な魚のようにも見えた。
それは一瞬の出来事だった。
1秒にも満たない瞬間だっただろう。
その不気味な生物は、私の姿を確認したのかすぐさま濁流の奥深くに沈んでいった。

わたしは、その生物の話を友人に話したが、誰も信じてはくれなかった。

そんなことも忘れかけていた或る日、私はまた荒田川に魚を捕まえにそそくさと出かけた。
天気も上々、荒田川の水もそんなには濁っていない。
荒田川のすぐ傍には、田んぼに水を供給する用水路がある。
地下水を汲みあげているのだろう、直径5m水深5mくらいの井戸のような池が用水路の始発点だ。
滾々とポンプでくみ上げる地下水は、荒田川の水とは違い綺麗に澄んだ水で、深い池の底までハッキリと見えた。
その井戸状の池の深い部分には、大きな魚が悠々とたむろしていたが、私の網では救い上げるのは無理な深さだ。
底の横の部分には、ポンプの配管のような丸い口がポッカリと開いている。
その暗い口の中を、魚たちは入ったり出たり、私の心をあざ笑うかのように楽しげに泳いでいた。
その時、私はまた見てしまったのだ。
暗い丸い配水管の中から出現した黒い生物を。
その生物は、悠々と泳ぐ魚をサッと口にくわえ、すばやく一瞬に配水管の中へ入っていった。
あまりのすばやさに確かな形は確認できなかったが、両手両足とシッポがあったのが確認できた。
しかし、その時私は確信したのだ、あれがこの川の主であると。


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