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短編小説 台風マン

2017年12月02日 10時04分26秒 | 小説

台風マン

「そーら!汚れた空気も汚いゴミも宇宙の彼方へ吹っ飛ばせ!!」
波が荒れ狂い風が逆巻く疾風怒濤の海岸沿いの防波堤の上で、台風マンは仕事を続けていた。
風になびく茶色のドレッドヘアーの前髪には、色とりどりのビーズやトンボ玉を結びつけ、額にはバンダナを巻きつけている。
革ジャンに革のズボン、ウエスタンブーツを履いた台風マンは、根っからのロックンローラーなのだ。
台風を描くとき流す音楽は、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」に必ず決めている。
「I can't get no satisfaction♪  I can't get no satisfaction♪ 」
怒涛の波の音にも負けないくらい大きな声で、台風マンは歌を歌いながら渦巻く雲や空を描いていく。

「昔は裕ちゃんの(嵐を呼ぶ男)なんて映画があったけど、オイラは(嵐を描く男)だぜっ!」
「おいらはドラマー♪♪ やくざなドラマー♪♪ おいらが怒れば♪♪ 嵐をよぶぜぇ~!♪♪・・・なんつってな!」
「オイラも古い歌知ってんなぁ・・・」
台風マンは超ゴキゲンだった。
テンションをどんどん上げながら、空を灰色や黒色にがんがん塗りたくっていく。
時には調子に乗ってバケツごとペンキを空にぶちまけたりもするのだ。

「あんた、こんな所で何やってんの?」
突然、台風マンの後ろから大声が聞こえた。
「なにやってんのっって?オイラは台風を描いてるんだぜ!」
台風マンも大きな声で答えたが、2人の声は風にかき消され何を言っているのか判らないくらいだった。
「台風を描いてるって・・・?あんた、バカじゃないの?」男は言った。
「人のことバカ呼ばわりすんじゃねーよ、バカヤロー!」台風マンは言い返した。
「だいたいこんな台風の中、こんなとこにいるのは正気じゃないよ!」男は台風マンに言った。
「あんたこそ、こんなとこで何やってんだよ~!」台風マンも、大きな声で言い返した。
「テレビで台風の実況中継をやるんだよ!」男は言う。
男は、台風の実況中継をするテレビのレポーターだったのだ。
「そうかい!じゃあ突風で飛ばされないように気をつけな!」
台風マンは、親切に注意してみた。
「あんたも何やってんのか知らないけど危険だよ!」
レポーターの男は叫んだ。
「大丈夫だよ、オイラは台風マンだからなっ!絶対に安全なんだよ!」台風マンが叫ぶ。
風や雨が竜のように渦巻く防波堤は、荒れ狂う波に飲み込まれる海賊船ようにも見えた。

「なんで、あんただけ安全なんだ?」男は言う。
「だって、オイラは台風マンだからさっ!」台風マンが答える。
「台風マンって、なんなのよ~!」男が言う。
「空模様職人組合から派遣されて、台風描いてんの!わかんねーの?」台風マンが答える。
「空模様職人組合って何だよ??あんたの言ってることサッパリわからんよ!」
「別にわかんなくてもいいの!人間にはわかんない込み入った事情があんだよ!」
「あんたも人間だろーが?」
「人間じゃねーよ!」
「バカか?」
「バカバカ言う奴の方がバカなんだぞ!って、学校で習わんかったのか!?」
「面倒くさい奴だな・・」

風がどんどん強くなってゆき、今にもレポーターの男は飛ばされてしまいそうな状況だ。
「もう、お前、家に帰れ!風速100mの突風が、もう直ぐ吹き荒れるぞっ!!」台風マンが強い口調で言う。
「帰れるわけないだろー!ニュースの仕事なんだからな!」男が叫ぶ。
「あぶねーぞ!!」台風マンが叫ぶ。
「これが仕事なんだよっ!」男が言う。
「早く逃げた方が身のためだぜっ!」台風マンが叫ぶ。
そう台風マンが言い終えたとたん・・・・
ゴゴゴゴッと低い音を立てながら、空に黒雲がわきあがったかと思った瞬間、物凄い風がレポーターの男を海の中に吹き飛ばてしまった。

「だからあぶねーつったのに・・・」
台風マンは、やれやれといっ表情で、レポーターの男を助けにドブンと海に飛び込んだ。

台風の荒波にもまれ、沈んだり浮き上がったりアップアップしているレポーターの男をやっとの思いで台風マンは助けた。
たらふく飲んでしまった海水をゲーゲー吐いている男を見ながら、台風マンは言った。
「勘弁してくれよ、もう・・・これでも忙しい身なんだぜ!早いとこ台風を仕上げなくっちゃいけねーのによぉ・・」
「テンション下がるぜ、まったく!」
しばらく考えて・・・・
「しらけた!しらっけちまったよ!もう・・・今日の仕事はやめだ!やめやめ!最悪ぅぅ~~~!」
レポーターの男が、まだ海水をゲーゲー吐き続けているのを尻目に見ながら、台風マンは何処とも無く去っていった。



テレビのニュースが始まる。
レポーターの男が、マイクを手に持って、しどろもどろで言った。
「えぇぇ・・・今日は台風の実況中継をするはずだったのですがぁ・・・」
「突然に青空になってしまいました。雲ひとつ無い青空です。・・・・太陽も輝いています」
「台風の影も形もありません・・・不思議です・・なんで・・・??」
天気は晴天なのに、レポーターの男はずぶ濡れになったままで呆然と立ちすくんでいた。


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