さかいほういちのオオサンショウウオ生活

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待つ男

2017年12月06日 11時08分18秒 | 小説

待つ男

廃線になった駅の写真を撮影するため、私は、この朽ち果てた駅の構内に入り込んだ。
休日には1人で、このようなひなびた建築物や風景を写真に撮るのを趣味としている。
こんな寂れた町に来たのには、母が昔住んでいたという理由以外に何もない。
病気で亡くなった父と母と私は、私が3歳の頃まで住んでいたという。
私には、その記憶がまったく無いのだが、どこか懐かしさも感じさせる町であり、駅である。
病気で亡くなった父の後、数年して母は再婚したが、私を実の自分子供のように可愛がり育ててくれた父も、7年前に他界した。
母親も間も無く亡くし、今は天涯孤独で気楽だが淋しい身分であった。

廃線の駅は、朽ち果てるのを待つばかりの遺跡のようだった。
ここの駅も、もう数年前に廃線になったのにも関らず、何百年も経過したような雰囲気を醸し出している。
ペンキの剥げてしまったベンチは、もう人が座ることもないであろうに、人の温かを欲しているかのようにも見える。
駅の内壁に貼ってあるディスカバー・ジャパンの高峰峰子のポスターは、日光で焼け、脱色されて2色刷りの白々したポスターと化している。
外を見れば、剥げ落ちたペンキの間の外壁に、水原弘や由美かおるのホーロー看板が懐かしいような微笑を浮かべていた。

駅前の雑貨店は、もうとっくに店を止め、空虚になってしまったガラスのウィンドーには、紫外線で脱色されて痛々しい土産物の人形などが飾ってあった。
寂れて久しいのであろう、あるいは鉄道が走っていた時から、もう寂れていた駅前だったのかもしれない。
人道りはまったく無く、私の押すデジカメのシャッター音だけが、ガシャッガシャッと廃駅に響いている。

 

使われなくなった駅の錆びた改札口を通り抜け、線路を撮影しようと、私は外に出た。
線路の枕木の回りには雑草が伸び放題に生い茂り、長い時の間、車両が通過していないのを物語っていた。
雑草は、私の腰までも伸びているものもあった。
よく見ると、薄紫色や濃い黄色の小さな花を咲かせている草も、あちらこちらに生えていた。

そんな小さな花や線路を写真に納めていると、突然に人の気配を感じた。
ギクリとして後ろを振り返ると、50メートルほど向こうのベンチに、老人が腰掛けているのが視界に入った。
今時珍しく、昔の文士でもあるかのように、古びた黒いインパネスのコートを着ている。
老人は、こちらが気づいたのを察してか、軽く会釈をした。
私も、軽く会釈を返した。

どうしてあのような老人がここに居るのだろう・・・・?
いぶかしく思い、私は、その老人に近づいていった。
そんな老人と話をしたりするのも、こんな撮影の旅の楽しみの一つでもあったりするわけなのだが・・・・
その前に、そんな風景もなかなか良い風景であるので、その老人を中心に1枚写真を撮影した。
ガシャッとシャッターの擬音が、老人にも聞こえてしまったようだった。

老人は、私に向かって、手をやさしく振った。
私もつられて、老人に近ずきながら手を振ってしまっていた。
どこか懐かしさを感じてしまう老人の顔であった。

老人の目の前にくると、老人は微笑みながら私に言った。
「ワシを撮っても写真に写らんよ」
何のことか判らない私は、曖昧に返事をした。
どうせ、老人の戯言であろうとしか思えなかったからだ。

「良い天気ですね、何をしているのですか?」
話題が見つからない場合は、天気の話にかぎる。
私は、よくある普通の会話できりだしてみた。
「汽車を待っているのですよ・・・」
老人は、またも微笑みながら言ったのだった。
「汽車・・・ですか・・・・」
こんな廃線に、列車が行行き交うははずも無く、認知症の老人かと、とっさに思った。
きっと、意志も無く徘徊しているのであろう・・・・
そうは思ったが、顔の表情や話し方がシッカリしている。

「列車は来ませんよ・・廃線になってますからね・・」
そんな当たり前の返事を私はしたのだが、何か馬鹿げた返答にも思えた。
老人は、うふふ・・とでも笑うかのように言った。
「知ってますよ、そんなこと。ボケちゃいませんよ、ワシは・・」
私の心の中を見抜いたように、老人は話している。
「ワシは、列車を待っていると言っただけで、列車が来るとは言ってませんよ」
老人は、きっぱりと私に言ったのだった。
「列車を待っているのですか・・・」私は、意味不明な言葉に戸惑い、独り言のように言った。

「ワシはね・・こうやって随分前から待ち続けているのですよ」
老人は、しみじみして言った。
「かれこれ、70年くらいになりますか・・・」
遠くに1点で結ばれたような線路を見つめながら、老人は話を始めた。

 

「ワシが、最初に列車を待つようになったのは、3歳の頃だった・・・
随分昔のことだが、心の中ではついさっきのことと同じ出来事です・・・」
老人が自分の手のひらを拝むように合わせながら言った。
「ワシの母が、ワシを置いて汽車に乗って行った・・・・
きっと連れ戻しに来るよ!と良いながら、結局は2度とワシの所へ戻ることは無かった・・・」

老人の、列車を待つだけの人生が、それから何十年も続いているという。
母親が去ってから、「必ず返る」と言葉を残したまま、実の父親も列車に乗って消えていったという・・・
老人は、青年になるまで、従兄弟と共に叔父に育てられたという。
その、叔父の家族も、「いつか戻る」と約束したまま、この駅から列車に乗って、どこかの町に去っていった。
成人になり、老人は結婚をしたらしい。
しかし、妻との折り合いが悪く、3歳になる子供と共に、この駅から去っていった。
老人は、何時までも列車の窓から手を振る、子供の顔が忘れられないと言う。

それらの人々を、この駅で彼は、何時までも待ってた。
毎日毎日、ここで家族の帰りを待つのが日課になっていったのだと、老人は遠くを見ながら言った。
そんな、列車を待つ日々が長く長く続いたが、あるとき不思議な出来事が起こったのだ。

その日も、いつものように列車を待っていた。
その時、聞きなれた声が後ろからしたのだ。
フッと振り返ると、そこに立っていたのは、もう一人の自分だったのである。
着ている服から髪の形まで、寸分たがわない自分がたたずんでいたのだ。
「俺は、これから去っていった家族を探しに行く・・・」
もう一人の自分は、そう言ったのだった。
老人は何も答えられず、もう一人の自分の話を聞いてたのだという。
「お前は、ここで、俺の帰りを待っていてくれ!」
そう言いながら、もう一人の自分も、この駅から消えていった・・・・・

 

「ドッペルゲンガーというやつなんでしょうか・・・」
老人は、私の方を見ながら言った。
「あまりにも長い時間待ってばかりいたので、ワシの半分の存在も、痺れを切らしてどこかへ行ってしまったのかもしれん」
「今でも、もう一人のワシは、世界の果てまで家族を探していると思うよ・・・」
少し自嘲しながら、老人は言った・・・・

「もう一人の自分まで、見送ったのですね、この駅から・・」
私は、半信半疑のまま、老人の話を聞いている。
「君は、こんな話、信じてはいないのでしょうねぇ・・・」
老人は、私の目を見ながら、少し微笑みながら訊ねている。
「そうでもないですよ」と言おうとしたが、あまりにも嘘くさく聞こえるので、黙っていた。
黙っている私を眺めながら、老人は自分の手を、私に差し出した。

「うわっ!」
私は驚いて、1メートルほど後ずさりしてしまった。
ゆっくりと差し出された、老人の手は、薄っすらと透けて見えるのだ。
「自分の存在の半分が、何処かへ行ってしまったので、時々、ワシの体が、こうやって透けて見えてしまうのです。」
「もう一人の自分が、家族を探して戻ってくるまで、ワシはこうして待ち続けているのです。」
老人の体は、薄っすらと透けて見えたり、はっきりと存在したり、まるで風に揺らいでいるように見えた。

老人の話を聞いているうちに、私は、切ないような気持ちになっていた。
何かしてあげたいような気分だったが、私には何も出来ることはないだろうと感じた。
そう思うと、悲しくて、知らぬ間に老人の手をギュッと握っていたのだった。

ぎゅっと握った老人の手は、なんだか懐かしく、暖かだった。
ずっと昔に触ったことがあるような、心の奥底の悲しみを癒してくれるような・・・
そんな温もりであった。

「待ち続けた甲斐があったよ・・・・」
老人は独り言のように、ポツリと言葉を落とした。

 

黄昏が2人を包んでしまう頃、私は老人に別れを告げ、廃線駅から去っていった。
私は運転する車の窓から、老人を見た。
もう、人の顔の区別もつかないくらい、暗くなった廃線駅の構内で、古びたインパネスに包まれながら、老人は今も待ち続けている。


小説 路地裏の怪人

2017年12月06日 11時06分32秒 | 小説

その路地裏は、100メートル四方に切り取られた大きな羊羹のように昔のまま取り残され、時間が停止したようだった。
空がほんの少しだけ夕焼けに赤く染まりかけたころ、僕はその古い路地裏を抜け、家に帰ることにした。
いつもなら、こんな時間に薄気味の悪い場所を通ったりしない。
学校から家までの近道とはいえ、こんな時間にここを通ってしまった事を僕は後悔していた。
あたりは薄暗くなってきて、危険で不思議な雰囲気に満たされている。
時折、ヒューッと風が通り抜け、割れた窓ガラスをカタカタと揺らしている。

「ああ・・早く帰ればよかった・・・」僕の心の中は、心細くて小さく縮こまっていた。
さっきより風が強くなってきて、ごみの切れ端や枯葉を巻き込んで路地裏を勢いよく通りぬけていく。
はがれたポスターが幽霊の手のようにパタパタはためいていた。
そんな怖い気持ちが、僕の足を早足にしていた。
サッサッと急いで動かす足音が薄暗い路地裏通りに、他人の足音のように響いている。
こんな気分のときは、歩いても歩いてもここから出られないのではないかと、嫌でもそんな不安な気持ちになってしまうものだ。
カランッ・・・と、何かが落ちるような音が路地裏の奥に響いたので、僕はビックリして立ち止まってしまった。同時に、ニャーと、小さな声がした。
「なんだ、猫かぁ・・・」僕の心は、ほんの少しだけゆるんだ。でも、その時後ろに何か大きな人の気配が感じられた。
僕は、ギクリとして後ろを振り返った!
「うわっ~~~!」僕は、ありったけの驚きの声を張り上げ後ずさりした、そして、一目散に走りだした。
僕の後ろには、真っ黒な巨大なペンギンのようなタキシードを着、ハタハタと黒いマントをなびかせた、見るからに恐ろしげな男が立っていたからだ。
僕は後ろも振り返らず、一目散に走った。
ザッ!ザッ!ザッ!っと、僕のスニーカーの靴音が、無人の路地裏に木霊して、何人もの僕が一緒に逃げているようだった。
数メートルも行かないうちに、さっきの奇怪な路地裏の怪人が、僕の前に立ちはだかった。
頭には大きなケーキのような黒いシルクハットを被り、ギョロリとした輝く目が、心を見透かすように僕をにらんでいた。
とその瞬間、バサッ~~~!!っと、かび臭い大きく真っ黒なマントが僕の上に覆いかぶさってきた。
そして、僕の目の前は真っ暗になった!

一瞬の出来事だった、かび臭い匂いが無くなり、急に周りから賑やかな音がしてきた。
パフゥ~プィ~パァ~!ラッパのような音が遠くから聞こえてきた。
僕は何が起こったのかサッパリわからず、ユックリユックリ目を開いてみた。
そしてそこには、さっきまで居た路地裏が朱色の夕焼けに染まり、在った。
建物は変わりないのだが、さっきとはぜんぜん違った風景の路地裏が目に前に広がっている。
大勢の人たちが活気よく歩き、子供の声が近くや遠くでワイワイ聞こえている。
それはまるで放課後の運動場のようにも思えた。
どこからか味噌汁の匂いがフワァ~と漂ってきて、いい香りだ。
パフゥ~プィ~パァ~!と、遠くから聞こえたラッパのような音が近づいてきて、どこからか女の人の声がした。
「お豆腐屋さぁ~ん!待ってぇ~!」そうすると路地の向こう側から、自転車に大きな車輪の荷台を引っ張りながら、ラッパを首にかけた豆腐屋のおじさんが現れた。
そして、白いエプロンをしたおばさんが、1人、2人と、僕の前を走っていく。
僕は、頭がクラクラして立っているのがやっとだった。
「いったいここはどこなんだろう?わけがわからない!僕は、どうしてしまったんだっ?」混乱した気分で、僕はもう少しで泣きそうだった。
さっき路地裏の怪人に会って、何の理由も知らないまま一瞬のうちにこんな所に来てしまった。
景色は、さっきの廃墟の路地裏と変わらないのに、こんなにも人が一杯いて賑やかだ。
味噌汁の香りや、薪を炊く匂いや、草の匂いもしている。

突然に、棒切れを振り回しながら数人の幼稚園くらいの子供が、僕の横をキャアキャア叫びながらすごい勢いで走り去っていった。
「やぁぁ~い!俊夫ちゃんのバァ~カ!」数人の小さな子が、一人の男の子を追っかけながらからかっている。
逃げている子は、泣きながら追っかけられ走っていった。
「僕のお父さんと同じ名前だったな」泣きそうな気持ちだったが、僕はそんなことを考えていた。
なんだかジッとしていても心が不安なままなので、心細いけど少し歩いてみようと思った。
少し歩いていくと、眼鏡の下がったオジサンのついた古いホーロー看板があった。
もう少し行くと、見たことの無いような形のテレビが白黒のニュースを放送していた。
その隣には、見たことのような駄菓子が売られている小さな店を見つけた。
棚の上に並べられたガラス瓶の中には、いろんな色のお菓子が詰まっている。
美味しそうな煎餅や黒砂糖のついたたっぷり付いた麩菓子は、ビニール袋にも入っていなくって、そのままガラスケースの中に並んでいる。

わぁぁぁ~~~!っと、また、あの子供たちの声が近づいてきた。追っかけられていた一人の男の子が僕の後ろにサッと逃げ込んだ。
続いて数人の子供達が、その子を囃し立てている。
「やぁ~い!俊夫ちゃんの弱虫!」「やぁ~い!」一人の鼻水を鼻からたらした子が、棒切れの先にバッタの死骸を突き刺し、僕の後ろの子供の顔にくっ付けようとしていた。
「ほれほれ!」「死んだバッタだぞっ!」僕の後ろの男の子が、泣けば泣くほど数人のいじめっ子は、調子づいて囃し立てている。
「大勢で、いじめるのは止めろ!」僕は、妙に腹が立って強く怒ってしまった。
「わぁぁ~~っ」「ばぁ~か!」そう叫ぶと、いじめっ子達は、どこかへ走り去っていった。

後ろの子は、まだウェンウェン泣いてばかりで、いっこうに泣き止む様子はない。
「しょうがないなぁ・・・」そう思った僕は、ここの駄菓子屋でこの子にお菓子を買ってやることにした。ポケットの中には十円玉が3個しかなかったので、たいしたお菓子は買えないだろうが、なんとか泣き止んでくれればと、僕は考えていた。
「ごめんくださ~い!」駄菓子屋の店の前で、大きな声で僕は言った。
すると奥の部屋から、店のおばあさんが出てきた。
僕はサイコロの形の箱に入ったキャラメルと、赤いイチゴの形の飴を買い、その子に渡した。
ヒックヒックいいながらも、その男の子は泣き止んだ。
駄菓子屋のおばあさんは、男の子を見ながら言った「また、俊夫ちゃん、泣かされたんだねぇ、もうすぐお母さんがくるから待ってるといいよ」
いつも、この俊夫ちゃんと呼ばれた男の子は、いじめっ子に泣かされているのかもしれないと、僕は思った。
夕日で赤く染まった駄菓子屋のお菓子は、なんだか夢の中のようなお菓子に見えた。

そして、しばらくすると、その子のお母さんがやってきた。
「俊夫!また泣かされたのかい?」そう言うと、その子の頭を軽くコツンと叩いた。
すると、その子は、またグスグス泣きそうになっている。
「あんたが、うちの子を助けてくれたんかい?」おばさんがそう言ったので、僕はうなずいた。
「助けてくれてありがとうね!それから、お菓子もありがとうね!」そうお礼を僕に言いながら、おばさんとその子は路地を歩きながら帰って行った。

後ろ姿を見ていたら、急に僕のおばあちゃんを思い出した。
そうだ、さっきのおばさんは、僕のおばあちゃんにそっくりだった。
お父さんの名前の俊夫と、おばあちゃんにそっくりなおばさん!

「ここは、何十年か前の僕の町だ!そうだ、そうに違いないのだ!」僕は、確信したのだった。
あの路地裏の怪人は、僕を昔の路地裏に連れてきてしまったんだ!
あの怪人の黒い大きなマントはタイムマシーンのようなものなのかもしれない。
なんで僕が連れ去られてしまったんだろう。
あんな時間にこんなところへ来なければよかった・・・・・
後悔の気持ちが、僕の心の中を一杯にしていく。

もう自分の居た町には戻れないと思ったら、僕は急に泣きたくなってしまった。
夕焼けの淡い光が、僕の影を長く長く伸ばして地面に写し出している。
空には、カァカァと烏が寂しげに鳴いている。
すると突然に、僕の長い影にシルクハットの影がスゥーッと重なったかと思った瞬間に、僕はまたあの怪人のカビ臭い大きなマントにスッポリ覆われていたのだった。
バサッ!マントが風を切る音が響いた。
僕の目の前が真っ暗になり、一瞬静かになった。
かと思った瞬間、次には元のあの僕の町に戻っていた。

遠くでは、自動車のエンジンやクラクションの音が小さく聞こえてくる。
周りを見回したが、路地裏の不気味な怪人はどこにも見当たらない。
「ああ、さっきのは夢見たいなもんだったのかなぁ?」そう思いながら、不安な気持ちが無くなってホッとした気分だった。
廃屋だらけの路地裏は、夕焼けに染まって真っ赤になっている。

僕は急いでその路地裏を抜けると、なんだか気になって後ろを振り返った。
するとそこには真っ赤な夕焼けの空を背に、シルクハットを被った路地裏の怪人の長い影のシルエットが、一瞬見えような気がした。
とても恐かった。
でも、今ではあの路地裏の怪人が良い奴のような気がしているのだ。

・・・・なぜって?
昔のお父さんは泣き虫だった。
僕には「男は泣くんじゃない!」と、いつも言ってるくせに、自分は泣き虫だったんだ。
それに、僕には優しいおばあちゃんなのに、お父さんにはちっとも優しくなかった。
でも今は、僕はお父さんやおばあちゃんが、前よりずっと好きになっている。
何故だかわからないけど、さっきみた昔の町が、僕の心を優しくしてくれたのかもしれない。
遠くに見える路地裏は、夕焼けに染まりユラユラと揺れているように見えた。

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昭和猫町五丁目 ダイハードはつらいよ!昭和猫町人情篇

2017年12月06日 11時03分34秒 | 小説

昭和猫町五丁目
ダイハードはつらいよ!昭和猫町人情篇

ペンキ絵作家の狐の権座エ門さんはゴンザさんと呼ばれている。
映画館の看板や銭湯の富士山などを描くのが仕事である。
青空さんという絵描きさんに飼われていた狐で、今はもう十年以上生きて人間に化けれるようになった。
飼い主の見よう見まねでゴンザさんも絵が描けるようになった。
青空さんは、空の絵を描くのが上手い絵描きさんで、ゴンザも空の絵を描くのが好きなのだ
しかし、空の絵を描くチャンスは少なく、富士山の絵を描くときぐらいしか腕を発揮できないのを残念がっている。

今日の仕事の依頼は、町で唯一の映画館”猫町シネマ館”の映画の看板だった。
シネマ館の映画は1週間ごとに変わるので、ゴンザさんの仕事はけっこう忙しい。
映画はたいてい2本立てでやっていた。
昭和の古い映画と新しい映画との2本立て、と言う場合もあった。
たとえば”男はつらいよ”と”ブルース・ウィリスのダイハード4.0”とかの抱き合わせである。
”男はつらいよ”などは48作もある昭和の映画なので、ほとんど毎週のように上映されていた。

「僕が描く映画の看板は特別なので、満月の夜は気をつけないといけないなぁ・・」
独り言を言いながら、ゴンザさんは映画の看板を描いている。
「楽しい映画ならいいんだけど、悪者なんか出る映画だと危険なんだよねぇ」
渥美清の顔を描き終えて、次はブルース・ウィリスの顔を描きはじめた。

この町は化け猫や狐や狸の妖気の漂う町である。
妖気といっても”陽気な妖気”なので、恐くも無く怪しくもなく楽しくなってしまう陽気な妖気である。
狐のゴンザも化け狐の仲間なので、特別な力を持っていた。
ゴンザが描いた絵は、満月の夜になると絵から浮き出て、一時的に本物の人間にように動いてしまうのだった。

「そーいえば、飛騨の匠の左甚五郎の彫った眠り猫も、夜になると起き出すっていうらしいね」
後ろで看板を眺めていたシネマ館のタマオがゴンザさんに言った。
「そーいえば、今日は満月だね・・・大丈夫かな?」
ゴンザがチョイト心配しながら言う。
「まぁ、ゴンザさんの妖力はランダムだから、出たり出なかったりですよ」
タマオが呑気に言う。
「青い山脈と男はつらいよの2本立てにしないかい?一番安全そうな映画だよ!」
とゴンザが言ったが、予定どうりの上映をしないと観客がうるさいのだ。
そうして、不安なまま男はつらいよとダイハードの看板が出来上がってしまった。

猫町シネマ館も、土曜の夜はオールナイト上映である。
満月の夜、男はつらいよとダイハードの2本立てに、観客は満員だった。
あのシガラキさんとタマ子さんも2度目のデートで、映画館に来ていた。

パァァ~~ン!パァァ~~ン!
突然、映画館の外で銃声の音が数発鳴り響いた!
「ガブリエル!動くな!」
ジョン・マクレーンがテロリストに向かって、銃を向けている。
「お前みたいなアナログ人間に、俺は捕まえられん!」
そう叫びながらテロリストのガブリエルは、シネマ館の中は逃げていく!
ジョン・マクレーンは、パァァ~~ン!パァァ~~ン!と数発拳銃を撃った。
その一発が車寅次郎の鞄をかすめた。
「マクレーンさん、そんなに拳銃撃ちまくっちゃあぶねえよぉ!」
寅さんがジョン・マクレーンに言った。
「寅さん、危ないぜっ!どいててくれ!」
ジョン・マクレーンがテロリストを追ってシネマ館の中に入っていく。
寅さんもつられて館内に入っていった。

シネマ館の中は大騒ぎになっていた。
テロリストのガブリエルに、シガラキさんとタマ子さんが人質になってしまっていたのだ!
「ジョン・マクレーン!近づくとこいつらの命は無いぞっ!」
銃口をシガラキさんに向かってテロリストが叫ぶ。
ジョン・マクレーンは拳銃を両手で持ち、狙いをガブリエルに向けたまま沈黙している。

「僕は殺されてもいい!タマ子さんは離してくれっ!」
シガラキさんがテロリストに言う。
「いいえ!あなただけ一人にはしないわ!」
タマ子さんも言った。
「うるさい!お前ら、黙ってろ!!」
テロリストが人質に向かって言った。

そこへ、にこやかに現れた車寅次郎が、テロリストに向かって諭すように言った。
「ガブリエルさん・・・そんなことしたって、世の中良くならないよ。
まぁ、ピストルなんか物騒なものはやめにして、一杯やらないかい?」
「お前は誰なんだ!」ガブリエルが言う。
「俺かい?今日の2本立てのもう一本の映画の主人公よっ!」と寅さん。
「虎屋の風来坊だなっ!」ガブリエルが言う。
「こんなことやってちゃ、草葉の陰でおっかさんが泣いてるよ・・・」寅さんが言う。
「母親の顔なんか忘れたぜっ!」ガブリエルが吐き捨てるように言った。
「そんあこたぁねぇよ!あんたのおっかさんは今でもきっとあの世であんたのこと心配してるぜっ!」寅さんが言う。
「・・・・・」ガブリエルの目に涙が一筋こぼれたように見えた。
ジョン・マクレーンが言う。
「今なら、まだ間に合う、人質を放せ!」
「わかったよ、寅さんには負けたよ・・・」ガブリエルが人質を解放し、持っていた拳銃をジョン・マクレーンに渡した。

ジョン・マクレーンに手錠をかけられたテロリストが、寅さんに肩を抱きかかえられて映画館の外に出て行く。
シガラキさんとタマ子さんは、抱き合って泣いている。

満月の夜も終わりかけ、白々と夜が明けるころ、寅さんとジョン・マクレーンとガブリエルは映画館の看板の中へ吸い込まれるように消えていった。
  


パラレル濃姫子ちゃんストーリーズ エピソード3

2017年12月06日 06時33分24秒 | 小説

その邪悪な生物は宇宙からやってきたのでした。
そうです、この生物も異次元黒魔女が魔法で呼んだのでした。
最初はゴルフボールくらいのゼリー状の生き物でしたが、人間のネガティブな感情を餌にして成長する悪の”マインドイーター”の亜種なのでした。
マインドイーターは人々が気づかない無臭の邪悪ガスを放出して人間同士を争わせ、憎しみや嫉妬や怒りを餌にしてどんどん成長していきます。
商店街は、おじさんやおばさんの喧嘩や争いごとでパニック状態になってしまいました。
その間にもマインドイーターは巨大化し、今では2階建てのビルくらいの大きさになっています。

濃姫子はと濃濃姫子と淡姫子は、マインドイーターと戦おうとしますが、手に負えません。
濃姫子ゴージャスに変身しましたが、マインドイーターの邪悪なガスにやられてラメラメのドレスがボロボロにされてしまいました。
ハイブリッコ濃姫子に変身してブリッコしましたが、マインドイーターのせせら笑いをされてしまいスッゴク落ち込みました。
三段腹ではなく、三段変身のサンシャイン濃姫子に変身しましたが、光りよりも邪悪なパワーにに負けて、すぐにへたれてしまいました。
「どーせ私なんか何の役にもたたないのよ・・・」
濃姫子は厭世的な気分にさせられ、マインドイーターの思う壺にはまっています。
淡姫子も邪悪なガスを吸い込み、路上に唾を吐いたりペットボトルを分別しないで普通のゴミ箱に放り込んだり、ダーク濃姫子に戻ってしまいました。
濃濃姫子もやる気をなくし、昼間から酒をあおって飲んだくれています。
商店街の救世主も、もはやこれまでかもしれません。
マインドイーターはそれほど邪悪な宇宙生物だったのです。

みんながあきらめかけていたそののとき!!
空のかなたから銀色のスーツを着た、スペース濃姫子が現れました。
「この世に悪があるかぎり、濃姫子は宇宙のどこにでも現れるのよ!
私はスペース濃姫子!この邪悪なマインドイーターを追っかけてアンドロメダ星雲からやってきました!
このマインドイーターは闘争心も餌にします、だから戦えば戦うほど大きく成長してしまうのです!
この生き物と戦ってはいけません・・・」
そう言うとスペース濃姫子は濃姫子はと濃濃姫子と淡姫子を強く抱きしめました。
濃姫子たちに愛の力がよみがえってきました。
「そうよ!私たちはみんな地球の仲間!ウィ・ア・ザ・ワールドよ!!!」
濃姫子がそう叫ぶと、商店街の人々はハイタッチをしてハグし始めました。
「さあ皆さん!怪物の周りを囲んでフォークダンスを踊りましょう!マイムマイムを踊りましょう~~~!」
商店街にマイムマイムの曲が響き流れました。
宇宙怪物マインドイーターの回りを手をつなぎながら、商店街のおじさんやおばさん、おにいーさん・おねーさんが踊ります。
「楽しい気分を盛り上げて!愛し合うのよ!」
だんだん楽しい気分が盛り上がり、マインドイーターは少しずつ小さくなっていきます。
「もっともっとテンションあげて!!」
商店街はお祭り気分で、楽しさ一杯です!

そして、とうとうマインドイーターは消滅しました。
「やったのね!濃姫子ちゃん!」
スペース濃姫子は言いました。
「どうもありがとう!スペース濃姫子ちゃん!」
「唐突だけどお願いがあるの・・・」
スペース濃姫子が言います。
「実は・・・宇宙船の燃料切れで宇宙に帰れなくなってしまったの・・濃姫子ちゃんの所へ下宿させてくれない?」
「いいわよ!」
濃姫子は快くOKしました。

「オーッホッホッホッ!!!深イイ話で終ろうったってそうはイカ飯よ!」
黒魔女がどこからともなく現れて叫びました。
「魔法でダメなら科学の力よ~ん!見なさい!全財産を使い込んで作った”メカ濃姫子ちゃん”よ!!」
メカ濃姫子は全長10メートルはあろうかと思われる、超合金製のロボットです!
メカ濃姫子は勝利の喜びに浸っている商店街を再び阿鼻叫喚の世界に落とし込んだのでした!
ビルを破壊しゴミ箱を蹴飛ばし、黒魔女が操縦するメカ濃姫子が暴れまくっています。
「今度こそ、だ、だめだわ・・・・!」
濃姫子たちはドヨヨ~ンと落ち込みました。
もうパワーも使い切ってしまったし、メカ濃姫子の攻撃になすすべもありません。

ドヨン状態の濃姫子たちの前に唐突に大山椒魚のさらまんくんがやってきkました。
「みなさん何を落ち込んでいるんですか!こんなことで負けては駄目ですよ~!」
「だって、あのメカ濃姫子ちゃんにはかないっこないわ!」
「そんなことはありません、伝説のからくり大仏をご存じないですか?」
「伝説のからくり大仏??聞いたことないわ・・・・」
「飛騨の匠・左甚五郎が作ったといわれる、伝説の巨大からくり人形ですよ!」
「どこにそんなものがあるっていうの?」
「なんでも、岐阜公園の近くにあるっていう噂ですよ!」
「そういえば・・・あそこに大きな大仏が・・・」
「行ってたしかめましょう!」
「そうしましょう・・・メカ濃姫子ちゃんが地球征服を終わらせる前に!!」

濃姫子ご一行様とさらまんくんは岐阜公園の近所に寺にある大きな大仏を見つけたのでした。
「ひょっとして、この大仏が伝説のからくり大仏・・?」
そう言いながらや農姫子は大仏の背中の部分の操縦席を探しました。
「在ったわ!」
濃姫子は観音開きの入り口を見つけ、扉を開けました。
大仏の中は、色々な歯車や計器があって今にも動きそうです。
「ずいぶんと昔のロボットなので、動くのかしら・・・?」
濃姫子は中に入り椅子の横にあるレバーをガチャンと押してみました。
ゴゴゴゴゴッ~~~!と音を立てながら大仏は動き始めました。

暴れながら悪行三昧のメカ濃姫子の前に、巨大からくり大仏が立ちはだかります!
「もう暴れるのは止めなさい!黒魔女にもお仕置きよ!!」
「そんな骨董品のからくりで、この超合金のメカ濃姫子ちゃんが倒せるもんですか!」
黒魔女が操縦するメカ濃姫子が右手からパンチを出した!
からくり大仏はそのパンチをバシッと、無傷で受け止めました。
「なんですとぉぉ~~!?」
からくり大仏の体は、実は江戸時代に不時着したアンドロメダ星人の宇宙船の一部からできていたのです。
大仏のメカも左甚五郎が宇宙人から伝授されたものだったのです。
「ご先祖様のご加護ちゃんですわ!!」
スペース濃姫子が叫びました!
「大仏ビーム!大仏パァ~ンチ!大仏スペッシャルロ~リングアタック!!!」
からくり大仏のスペシャル攻撃にメカ濃姫子は機能停止してしまいました。
「えぇ~い!おぼえてらっしゃい!!」
黒魔女はそそくさと逃げていってしまいました。

「やった~!濃姫子ちゃんたちの勝利だぁ!」
長良温泉商店街の人たちは大喜びです。
そこへ突然、光の白魔女が現れました。
「濃姫子ちゃんよくやったわ!えらいわ!感動したわ!」
「みんな白魔女さまのパワーのおかげです!」
「いえいえ・・不思議パワーだけではここまで勝利できません!みんなの愛と勇気と友情の力よ!
愛の戦士・濃姫子!希望の戦士・淡姫子!勇気の戦士・濃濃姫子!友情の戦士・スペース濃姫子!
戦隊ヒーローにはもう一人足りないわね・・・」
そう言うと白魔女は倒れていたメカ濃姫子に光の呪文を唱えました。
「アナクタラサンミャクサンボダイ!!」
すると、メカ濃姫子はみるみる小さくなり、人間くらいのサイズに変化しました。
そして起き上がりながら言いました。
「ここはどこ?私は誰?」
「あなたは、心を持った郷土愛の戦士・メカ濃姫子となったの!
さぁ!行きなさい!5人の娘たちよ!美濃戦隊濃姫子レンジャ~~~!
これからもみんなと力を合わせて商店街と地球を守るのよ!!」


さっき逃げ帰ったと思われた黒魔女が電柱の影から、このいきさつを見ていました。
「くっそぉ~~~!白魔女め~!自分だけカッコつけちゃって!!くやしいったらないわ!」
「あ~、お前悪い黒魔女だべ!」
「誰よ、あんた!」
「通りすがりのパンダだべ」
「なんで、こんな所にパンダがいるのよ~!」
「あんまり深く考えないほうがいいっぺよ!」
「パンダは笹食ってりゃいいのよっ!」
「あ~!パンダを馬鹿にしたな!」
そういうとパンダは黒魔女をぶっ飛ばしました。
黒魔女は、どこか遠くへふっとんでいきました。


パラレル濃姫子ちゃんストーリーズ エピソード2 

2017年12月06日 06時31分35秒 | 小説

ある日唐突に異次元の黒魔女から挑戦状が濃姫子の下宿に送られてきました。
「呼ばれず!飛び出ず!ドンドロド~~~ン!
濃姫子をつくる前に、実験的に濃姫子Ver.0を作ってみたよ。
濃姫子Ver.0は、お前のお姉さんにあたる姉妹だよ。
金華山の麓の洞窟の信長ダンジョンの中に隠れているはずよ。
くやしかったらさがしてみな!」
挑戦状は物凄くへたくそな文字でそう書かれてありました。
「私にお姉さんがいたのね!探しに行かなくては!」
「でも信長ダンジョンってどこにあるの?」
淡姫子がいいました。
「金華山の麓にあるらしいわ」
「じゃあ、今すぐに金華山へ行きましょう!」
2人は金華山へ直行しました。

信長ダンジョンは織田信長が部下を訓練するためにどこかの洞窟の中に作られたらしいのです。
金華山麓の信長住居跡を探していると、おおきな穴が見つかりました。
「濃姫子ちゃん!ここに大きな穴があるわ!」
「ここが信長ダンジョンにちがいないわ!」
そういうと2人は穴の中へ入っていきました。
穴の中は真っ暗で何も見えません。
でも何かの気配がします。
穴の中を歩いていく2人の周りで何かがウロチョロしています。
「何かいるわね!」
濃姫子が手探りで何か生き物のようなものに触ってしまいました。

「はじめまして、ボクは大山椒魚のさらまんサンたろうです。ここのダンジョンの中に住んでいます、さらまんくんと呼んでね!」
さらまんくんは松明に火をつけ、真っ暗な洞窟を明るく照らしました。
「私たちは、濃姫子と淡姫子よ!お姉さんの濃姫子Ver.0を探しているのよ!」
「それなら僕がこのダンジョンの中を案内しましょう!」
「お姉さんは私たちと同じ顔をしているの、見たこと無い?」
「その顔には見覚えが・・・・・」
さらまんくんが言いました。
3人が暗闇を歩いていくと祠のようなものがあり、中に戒壇巡りがありました。
谷汲山華厳寺にあるような戒壇巡りでした。
卍形の真っ暗な通路を歩いていくと御本尊につながる極楽の錠前があって、触ると極楽にいけるというものです。
もし触ることができないと犬になってしまうとも言われています。

「こんな真っ暗な中を、また歩くのは怖いわ!」
「大丈夫ですよ、僕がついていますから!右手を壁につけて歩いていけばたどりつけます」
と、さらまんくんが元気づけます。
3人は卍形の通路を歩いていくと、濃姫子の手が極楽の錠前に触れました。
「やったわ!極楽の錠前に触ったわ!」
「えっ?どこどこ??」
淡姫子があわてています。
長い通路の終わりには、出口の小さな明かりが見えました。
濃姫子とさらまんくんが出口へ出ると、足の下を一匹の犬が走っていきました。
極楽の錠前に触れなかった淡姫子が犬になってしまったのでした。
「心配ありません、時間がたてば元に戻りますよ!」
さらまんくんが濃姫子に言いました。

戒壇巡りの出口には江戸時代の美濃の街並みが現れました。
その町はダンジョンをクリアできなかった人々が、昔から住み着いてしまった異次元の町だったのです。
大きな城下町の真ん中に大きなお城が建っています。
町はいろんな店があってにぎわっていました。
でもなんだか騒がしいのです。
毎年ナマハゲのような鬼が現れて、町一番の美人の娘をさらっていくのでした。
それが今日だったのです。
「まぁ!私が一番狙われるわね!」
濃姫子が言いましたが、みんなは聞いてないふりをしました。

「町一番の器量よしといえば蕎麦屋のおみっちゃんが、今年は狙われているそうだ!」
「おみっちゃんも災難だな・・・」
「しかし鬼には誰も勝てないよ!」
それを聞いていた濃姫子が言いました。
「その鬼を私が退治てくれよう桃太郎、ポポポポポ~~ン!」
いきなり大阪弁のおっさんが言いました。
「あんたは桃太郎侍でっか?」
「違いまぁ~す!濃姫子ちゃんでえぇ~す!」
「あんさんみたいな女の人が、鬼を退治できるんでっか?」
「鳴かせてみよう!ホトトギス!!」

草木も眠る丑三つ時、犬になってしまった淡姫子が遠吠えしています。
蕎麦屋のおみっちゃんの所へ、ナマハゲ鬼がやってきました。
「悪い子はいねがぁ~~!!」
そう叫ぶとナマハゲ鬼はおみっちゃんを連れ去っていきました。
「さぁ!匂いを嗅いで鬼を追跡するのよ!」
濃姫子は犬になった淡姫子に言いました。
「わんわん!」と吠えながら、淡姫子犬は鬼を追跡します。

鬼のアジトへつきました。
鬼はナマハゲのお面ををはずしました。
なんと、そのナマハゲのお面のしたの顔は濃姫子そっくりの顔だったのです!
「お姉さん?!」
濃姫子は影から飛び出して叫びました。
「そうよ!私は濃姫子Ver.0よ!濃姫子のお姉さんだから”濃濃姫子”と呼んでね!」
濃濃姫子はそう名乗ると濃姫子を抱きしめました。
「お姉さん!」
「妹よ!」
「でも、なんでナマハゲの格好なんかしているの?」
「これには深い訳があるのよ!」
「どんな深い桶?」
「桶じゃなくって、訳よ!」

濃濃姫子はナマハゲになったわけを話ます。
「ここの城主はすごくスケベでエロイの!毎年町一番の美人が手篭めにされてしまうの、だからナマハゲになって美女たちをすくっているのよ!
つれてきた娘たちは、裏山の隠れ里で平和に楽しくやってるわ!」
それを聞いて濃姫子は言いました。
「じゃあ、悪いのは城主なのね!では、城主にお仕置きしてやりましょう!」
濃姫子ちゃんは鮎菓子1個を食べ、濃姫子ゴージャスに変身!
町の真ん中のお城へ行き、城主に懇々とお説教を10時間もしました。
城主は、濃姫子のお説教にうんざりして改心しました。
そしてエロ城主を返上して、真面目で民思いの名君になることを人々に誓いました。

お城の裏には、岐阜の町へと続く大きな門があります。
「さらまんくん!ありがとう!おかげでお姉さんに会えたわ!」
濃姫子はさらまんくんにお礼をいい、そこから3人は長良温泉商店街へ帰ることにしました。
淡姫子も時間がたって犬から元の淡姫子に戻りました。

金華橋の欄干から、望遠鏡でこの様子をうかがっていた異次元黒魔女はくやしがりました。
「くそぉ!またちょっといい話で終わろうとしてるのね!くやしいわ!」
そこに欄干にへばりついていたコアラが言いました。
「あんた、なにやっとりゃーすの?悪もんとちがわへん!」
「いや・・わたしはただの通りすがりの黒魔女ですわ!オッホッホッ・・」
「でりゃー怪しいでかんわ!」
そういいながらコアラは黒魔女に頭突きをくらわせました。
黒魔女は橋から落ちて、長良川にドブンと落ちました。
「濃姫子め~!おぼえとりゃ~よ!!」


小説 パラレル濃姫子ちゃんストーリーズ エピソード1

2017年12月06日 06時29分13秒 | 小説

ここは長良温泉商店街。
この商店街の隅っこに、織田信長の正室・濃姫の掛け軸が飾られているお寺がありました。
そこへ唐突に多次元宇宙からやってきた異次元黒魔女が現れました。
「呼ばれず、飛び出ず!ドンドロド~~~ン!」
「ウヒョヒョヒョ!世界征服の大きな野望も、小さな一歩から、この商店街を征服してやるよ~~!」
そう叫びながら濃姫の掛け軸に向かって怪しげ~な光線を発射しました。
ボヨヨヨヨ~~ン!と紫色の煙が立ちこめ、濃姫の掛け軸は濃姫子ちゃん変身しました。
「お前の名前は濃姫子だよ!この商店街で悪さをしておいで~!」
異次元黒魔女が濃姫子に悪事を働くように命令しました。
「はい、わかりました!ご主人様のご命令のままに!!」
そう言いながら、まだ自我の目覚めていな濃姫子は商店街で悪事の限りをつくしました。

ああ神様!仏様!なんたる極悪非道なんでしょう!
パン屋ではクリームパンとアンパンを全部ならべ替えてしまいました。
靴屋さんでは、靴の紐を全部硬結びにしてしまいました。
洋菓子屋さんではバームクーヘンの焦げ目の部分だけを食べてしまい、ただの円柱のカステラのようにしてしまいました。
映画館では、一番泣ける場面でスクリーンの前に出てきてアッカンベーをしました。
洋服屋さんでは、買いもしない服を全部試着しました。
あれもこれも、目を覆わんばかりの悪さです!

時間がたつうちに、濃姫子は自我に目覚めていきました。
「私は何でこんなことをしているの?」
「商店街に迷惑ばかりかけて、もう死んでしまおう!!」
そう思った濃姫子は、長良川の岸辺にやってきました。
「この川でおぼれて死んでしまいたいわ・・・」
濃姫子が長良川に飛び込もうとした瞬間に、光り輝く異次元白魔女が現れました。
キンキララメラメのドレスを身にまとった美人の白魔女は言いました。
「濃姫子ちゃん!死んではダ~メダメよ!」
「あなたは本当は長良温泉商店街を救うために生まれてきたのよっ!」
光り輝くその白魔女は、やさしく濃姫子にいいました。
「私が世界の救世主?」
濃姫子は自分のことが信じられない様子で言いました。
「世界の救世主とはいってないけどね・・・!
そうよ、あなたはアヘンシャーズのハルクンよ!特攻野郎Bチームよ!はくちん大魔王よ!
混迷したこの世の中に光をあたえるのよ!」
光の白魔女は魔法の杖を振り回しながら言いました。

「わたしにそんなことができるかしら?」
濃姫子は半信半疑で答えます。
「大丈夫よ!私が不思議パワーを与えますからね!
鮎菓子を1個食べるとや濃姫子ゴージャスに!
鮎菓子を2個食べるとハイブリッドじゃなくて、ハイブリッコ濃姫子に!
鮎菓子を3個食べるとサンシャイン濃姫子に変身することができるの!」
そう言いながら白魔女は、濃姫子に光の呪文をかけました。
濃姫子は不思議な光に包まれて、力がわいてくるのを感じました。
「白魔女様、なんだかパワーがみなぎってきた感じがしますわ!」
「さぁ商店街へ行きなさい!そして商店街を救うのよ~!!」
「パラポラピラリ~ン~!」
そういうと異次元の白魔女は光とともに異次元へ消えました。


商店街は大混乱しています。
濃姫子の行った悪事のせいでした。
「すみません、みなさん!みんな元に戻します!」
そういいながら鮎菓子を1個食べ、ラメラメのロングドレスを着た濃姫子ゴージャスに変身しました。
ものすごいスピードで、濃姫子はすべてを元に戻していきました。
硬結びの靴紐も、並べ替えたアンパンも、あっというまに元に戻します。
「みなさんごめんなさい!私は異次元黒魔女にあやつられていたのです!!」
「いいんだよ!濃姫子ちゃん!」
商店街の人々は、濃姫子を許しました。

そこへ突然、黒魔女が現れました。
「濃姫子!何をまったりと和気アイアイと和んでいるんだい!
はやく悪事を働かんかい!はやくやらないとお仕置きだよっ!」
そういうと黒魔女は濃姫子にむかって黒い煙を浴びせました。
ゲホッゲホッ!!
濃姫子と商店街の人々は、真っ黒な煙に包まれ苦しみました。
「苦しい!濃姫子ちゃん!助けてくれ!」
商店街のオジサンオバサンが叫びました。
濃姫子は鮎菓子を2個食べ、ピンクのフリルいっぱいのドレスを着たハイブリッコ濃姫子に変身しました!
「は~い!濃姫子ちゃんですぅ!ウフッ!!」
ウインクをしながらハイブリッコになった濃姫子は、高速で回転し商店街に充満した黒煙を吹き飛ばしました。
「は~い!濃姫子ちゃんはこんなこともできちゃうのよん!ウフフのルンルンよ!」
ハイブリッコ濃姫子はブリッコしました。

「え~い!こしゃくな奴めっ!こんなこともあろうかともう一人の濃姫子を作っておいたんよ!」
そういうと黒魔女は呪文を唱え、魔法の杖から黒い煙を出しました。
その煙からダーク濃姫子が現れました。
「この濃姫子は、お前のダークサイド・・・悪い心から作った濃姫子だよ!
能力も力も同じだけど、悪いことしかできないいんだよ!
ドンドロド~~~ン!」
そういいながら黒魔女はダーク濃姫子だけを残して消えていきました。

「おまえが明るく健全な濃姫子ね!ドヨ~~~ン攻撃を受けてみよ!!」
ダーク濃姫子は、ドヨ~~ンオーラを大量に吐きながら濃姫子と商店街をドヨ~ンとした暗い気分に変えていきます。
商店街のおじさんやおばさんはやる気を奪い取られ陰気な気分になってしまいました。
「もう駄目だ・・・やる気がしない・・・」
「人生おしまいだ・・」
濃姫子も何にもできない暗い気分に落ち込んでいきそうになりました。
「だ・・駄目だわ!こんなときには鮎菓子3個よ!!」
濃姫子は光り輝く金色のスーツを着た、サンシャイン濃姫子に変身しました。
「ううっ!まぶしい!!」
ダーク濃姫子ひるんだ隙に、濃姫子はダーク濃姫子を抱きしめました。
「大丈夫よ・・なにも恐れることはないのよ!世の中悪いことばかりじゃないのよ、いいことも一杯あるわ!!!」
濃姫子はやさしくダーク濃姫子の邪悪なオーラを自分の光のオーラで消していきました。
「もう大丈夫よ!あなたのダークサイドはもう光で中和されたわ!」
ダーク濃姫子は黒い色から、灰色の濃姫子”淡姫子”に変わっていました。
「そうよね、私がんばるわ!」
ちょっと暗い性格ですが、ダーク濃姫子は、良い”淡姫子”に改心しました。

「私たち清く正しいく生きて行きましょうね!」
濃姫子と淡姫子は、手を取り合って涙をながしました。
それを聞いていた八百屋のおじさんが言いました。
「濃姫子ちゃん、俺のところの2階の部屋が空いてるから、そこに住むと良いえーがね!」
「ありがとう!八百屋のおじさん!」
そうしてこうして、濃姫子たちの下宿先も決まりました。

それを電柱の影から黒魔女はコッソリ見ていました。
「おのれ・・・ちょっといい話的に終わりにしようって魂胆ね!!おぼえていなさい!!」
ののしりながら杖をふろうとしたとたん、足元にいた犬のジョンにほえられました。
「ワンワン!!怪しいやつめ!ワンワン!」
犬のジョンは魔法の影響で言葉が話せるようになってしまっていました。
「きゃぁ~~!犬は嫌いだよ!」
黒魔女は、近くにあったごみバケツをひっくり返して、やっとのことで逃げていきました。


短編小説 虹ボーイ

2017年12月02日 10時04分50秒 | 小説

虹ボーイ

女は日曜日の昼近くになってベッドから起き上がった。
目の下には隈が濃く浮き出て、髪の毛もボサボサだった。
気分は最低で、日曜日というのに出かける気分にもならないくらい疲れきっていた。
会社では失態をしでかし、先月恋人にも愛想を付かされて、もう生きているのが精一杯の気分だった。

「もう、なにもかもうんざりだわ・・」
女は顔を洗いながら、そんなことを考えていた。
昼ちかく遅くおきた日は、いつもコンビニの弁当で昼食を済ます。
女は、くたびれた白いジャージ姿で近所のコンビニへと向かう。

マンションからコンビニに行く途中に公園がある。
雨上がりの公園の雰囲気は、女の故郷にある公園に似ていた。
「・・よく遊んだあの公園は、今もあるのかしら・・・」
女は、故郷のことを取り止めも無く思い出している。

コンビニでいつもの弁当を買い、同じ公園の前の道を女は通り過ぎようとしている。
いつも子供がいない都会の公園に、今日は一人だけ子供が遊んでいた。
「さっきは居なかったのに」
と女は少しだけ気にしながら思った。

子供は小学校低学年くらいの少年で、白いバケツの中を覗いていた。
「ザリガニでも採ってきたのかな?この辺に小川なんかないのに・・・」
女はちょっと気になって子供に近寄っていった。

「何かいるの?」
子供の後ろから、女は聞いた。
「・・・いや、なんにも・・・」
子供は女にはほとんど無関心な様子で答えた。
「じゃあ、なにやってるの?」
女は聞く。
「虹を描いてるのです・・・」
子供が答える。
「・・・・・虹・・・・・」
女は返答に困っている。

「僕は虹ボーイです、雨上がりの空に虹を描いているのです。」
少年は、たどたどしい敬語で、女に話はじめた。
「今日のような雨上がりの日には、僕が虹を描いて空を綺麗にするのです」
「雨上がりの虹は、みんなを幸せにします」
「お姉さんも幸せでしょう?」
少年は、女に屈託無く言う。

女は、突然幸せか?と聞かれ、ドキッとした。
「・・・幸せよ・・・」
女は心の中とは反対のことを答え、ちょっと後ろめたい気持ちになってしまっている。
「そうでしょう」
子供は、女の顔を見つめながら嬉しそうに言った。
その笑顔を見ながら、女も無理やり微笑んでみた。

「虹を描くのは楽しい仕事なのです。お父さんもお母さんも、僕のことを誇りに思っていてくれます」
大人びた言葉で、少年は女に言った。
「虹は、自然現象でしょう、光の屈折で出来るものよ」
女は、子供に教えるように言う。
「違いますよ、僕が空に虹を描いているんです」
子供はそう言いながら、バケツの中のペンキの刷毛を空中にサッと半回転させた。

動かされた刷毛の軌跡の後方に、キラキラと輝く七色の光のベクトルが形成された。
「ほらね!」
子供は楽しそうに、女に向かって言う。
「もう一つ!」
少年はもう一度、公園の何も無い空間に手を広げ、大きく大きく虹を描く。
少年を包み込むように虹が輝く。

「マジックかしら・・」
不思議な気分になって、虹を手で触ってみた。
女の手に虹が纏い付き、女の手は虹色に染まった。
七色に染まって光る自分の手を見ながら、女は楽しい気分が満ち溢れてくるのを感じている。

虹ボーイは、いつのまにか公園中に、はしゃぎながら何十という虹を描き出していた。
雨上がりの公園の空間は、いくつもの虹のアーチで目も眩むばかりになって輝いている。
女は大きな虹のアーチを潜ってみたり、触ってみたり、いつしか少女にもどっていった。

空は晴れ上がって気持ちがいい。
雨上がりの空気が、さわやかな風を運んでくる。
サァーッと吹き抜ける風が、女の髪の毛をサワサワと揺らしていく。
一瞬に、公園の小さな虹の群れも、虹ボーイもかき消すようにいなくなっていた。

雨上がりの晴れた上空には、今まで女が見たどんな虹よりも大きく綺麗な虹が光輝いていた。
そして、女のくたびれた白いジャージの服にも、光り輝く虹の文様が染め付けられていたのだった。


短編小説 木枯らしマン VS 日光マン

2017年12月02日 10時04分44秒 | 小説

木枯らしマン VS 日光マン

木枯らしマンが日光マンに言った。
「太陽の日差しが寒い北風に勝ったっていう昔話を知ってるよね?」
「ああ、あの旅人のコートを脱がせる賭けをして、太陽がウィナーになったっていう寓話だね」
「そうだ、あの話だよ」

木枯らしマンはコートの襟を立てながら言う。
「なんだねぇ・・・あの話は出来すぎてるよねぇ・・・」
日光マンが答える。
「まぁ、たしかに道徳的すぎるし、子供向けの話ではあるね」
「押してもだめなら引いてみな!みたいな話だよね」
「水前寺清子かって、つっこみを入れたくなるよ」
「1歩進んで、2歩下がる・・みたいな!」
ははははっ・・・と2人は笑う。
「だいたい太陽熱と北風じゃ、エネルギー量が違いすぎる!」
「桁違いだ・・」
と木枯らしマンが言う。

木枯らしマンといっても、渡世人でもなく長い楊枝も口にくわえてはいない。
空模様職人組合から木枯らしを空に描く仕事を請け負っている、水墨画専門の職人だ。
木枯らし吹く風景は水墨画のように描かれ、見るもの感動させ、一瞬の間でも寒さを忘れさせてくれる。
それから言うまでも無く、日光マンはあの東照宮とはまったく無関係である。
日光マンは、青空マンの描いた青空に、太陽の光を描いたり雨上がりの雲間から差し込む一陣の光のスジを描いたりしている。
空模様というのは分業で成り立っているので、一人の空模様職人で出来上がっているわけではない。
空は広いのである。

「北風が絶対零度くらいの寒さだったら、旅人のコートも一瞬にして凍りつきバラバラに砕け散って、北風の勝ちだろうな」
木枯らしマンがそう言うと、
「旅人も粉々になって死んじまってるけどね」
と日光マンが答える。
「ホラー映画だね、そりゃ!」
木枯らしマンが言う。

「あの話は、クーラーも自動車もないころのお話だからね、今だったら、急に太陽が暑くなったら大変だよ。紫外線に当たったら大変!ていうことで、みんな家に隠れちまうよ!」
「そりゃそうだ!」
「喫茶店とか、大繁盛じゃないか?」
「いや、金のかからないデパートとかスーパーが混雑するんじゃないかい」
「それより科学者なんか取り乱しちゃうね。太陽が急に変になっちまった!なんて、そりゃ、もう、大慌て!」
ははははっ・・・と2人は馬鹿笑い。

「だいたい旅人のコートを脱がせて勝負しようって、いったい何の勝負なんだい、わけがわからん」
「大自然の主たちが、旅人のコートくらいで人生賭けるなよなぁ・・・」
「まったくだ!」

「ところで・・・」と言いながら、木枯らしマンが日光マンに向かって神妙に言う。
「ほら、あそこに人が大勢いるだろう、ほら、あそこだよ」
木枯らしマンが遠くを指差して言った。
「おお、なんか大勢の人がたむろしてるね」
指さされた方向を眺めながら、日光マンがうなずいている。
「僕たちも勝負してみないか?あの人たちの服やコートをどちらが脱がせるかって勝負をさっ!」
「おお、それは一興だよね。でも、人生賭けたりしないけどね!」
ははははっ・・・と2人は、顔見合って笑う。

「じゃあ、僕が最初にトライだっ!」
そう言いながら、日光マンは空に一筋の光を描き出した。
その暖かい光の帯は、あの人々を直撃した。

人々は言う。
「冬だっつーにの、急に暑くなってきたねっ!!」
「なんだか、真夏のようだ!」
「あ、暑いいぃぃ・・・・・!!!」
そう言いながらも、なぜか人々はコートや服を脱ぐ気配すらない。

「こんなに熱くしたのに、誰も服を脱がないよ・・・へんだねぇ・・・??」
日光マンが木枯らしマンの方を見、首を傾げて言った。
「じゃあ、今度は僕がやるよ!」
そう言うと木枯らしマンは、空に淡い墨のような雲をいくつかサッサッサァッと描き、ビュービューと寒い寒い木枯らしを吹かせた。

下にいた人々に向かって、寒い木枯らしがビュービュー吹き始めた。
するととたんに、コートを脱ぎ服を脱ぎ、やがてはパンツ1枚になってしまった。
中にはパンツ1枚で、カキ氷を食う奴までいる始末であった。

「えぇぇ~~???どういうことだい!こりゃ??」
日光マンは仰天して、木枯らしマンに叫んだ。
「この人たちは、我慢大会をやってるんだよ!」
木枯らしマンは言う。
「えぇ?そりゃないぜっ!あきれたね!いまどき我慢大会って・・・君は、我慢大会って知ってたのかい?」
外国映画のように手を広げながら日光マンが大げさに言った。
「村おこしのイベントなんだよね!この我慢大会!」
木枯らしマンがニヤけて日光マンに言った。
「じゃ何かい、最初から日光マンの負けはきまっちゃっていたわけだね」日光マンが言う。
「そういうことになるね」木枯らしマンが言う。
「くやしいね、どうも」日光マンが言う。

「もう一度勝負するかい?」木枯らしマンが言う。
「今度の勝負は、真夏の我慢大会にやろうぜ!」日光マンが言う。
「こりゃ、一本とられたね!」木枯らしマンが言う。
2人は、また馬鹿笑いをした。

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短編小説 夜霧マン

2017年12月02日 10時04分37秒 | 小説

夜霧マン

夜霧にむせび泣く波止場で、トレンチコートの襟を立てながら朝夫は霧子に向かって言ったのだった。
「俺と別れてくれないか?」
突然の別れ話に戸惑いながら、霧子は問う。
「突然なにを言うの・・・」

「俺はやるべきことがあるんだ、今までのことは忘れてくれ」
朝夫は夜霧で数メートル先しか見えない海の方角を見ながら言う。
「やるべきことって、何なの?」霧子が問い返す。
「今まで黙っていたんだが、俺は夜霧マンというヒーローなんだっ!」
「そんなヒーロー聞いたことも無いわ・・・」呆然と霧子が言う。
朝夫は少し笑いながら言う。
「ヒーローというのは冗談だ。本当は、今日のこのような夜霧を作り出す職人なんだよ・・」
「夜霧なんて、ただの自然の霧でしょ?」霧子が不思議そうに問う。
「いや、違うんだ・・・自然現象のほとんどは空模様職人組合の職人が作り出しているんだよ」
朝夫の告白にたじろぐ、霧子・・・
「空模様職人組合って・・何なの?」
朝夫が言う。
「空にペンキを塗ってる芸術家のことさ、知らないのも無理ないが・・・
俺はそこで、時々夜霧を描くのを手伝ってたんだが、今度正式に組合に入ることにしたんだ。
今までのように、お前に気楽に会うことが出来なくなってしまうんだよ・・・」
朝夫の心が葛藤で揺れているのが痛々しいくらいに分かった。

「どこか、よその世界へ行ってしまうのね」
霧子が今にも泣き出しそうに言った。
「そうゆーことになるような、ならないような・・・」
朝夫が曖昧に答える。
「いきなり、ひどすぎるわ・・・・」
霧子の目に我慢しかねた涙が一粒の雫になって落ちた。

「泣かれると心がよけいに痛むよ・・・」朝夫が言う。
「二度と会えないっていうのに、微笑んでなんかいられないちゅーの・・・バカ!」霧子が言う。
「・・・・すまん・・・」朝夫が辛そうに言う。
「その空模様職人組合に女の人はいるの?」霧子が問う。
「たくさん居るようだよ」朝夫が答える。
「じゃ、わたしも空模様職人組合に入るわ、そうすれば何も問題は無いじゃないの?」
霧子は、朝夫の目をじっと見ながら言った。
しばらくして朝夫が言う。
「そうだよねっ!それだったら問題なしだよねっ!」
「でしょっ!」霧子が明るい表情になって言った。
「なーんだ、いきなり問題解決だよっ!!」朝夫が笑いながら言う。
「Good Job!」霧子も右手の親指を立てて笑いながら言う。
2人は腕を組みながら、夜霧の中へ消えていった。

今、霧子は朝霧レディーと名乗って、隠れた才能を発揮している。


短編小説 闇マン

2017年12月02日 10時04分32秒 | 小説

闇マン

この世界には漆黒の闇と呼ばれる「闇」が存在する。
文字どうり、黒い漆で描いたような何も見えない闇のことである。
微塵の光も感じさせない黒い空間には、時間すら無い様に感じてしまう。

闇マンは漆黒の闇を作り出す、空模様職人組合の職人であった。
空模様職人組合は、組合長の親方から依頼を受けて空模様を描く職人や芸術家の集まりである。
親方からの依頼を受けて、闇マンは両手に持った大きなエアスプレーで黒い絵の具を噴出し、世界に闇を作り出すのが仕事である。

闇といっても不吉なものではない。
闇に悪鬼は存在しないし、悪魔や幽鬼など居たためしもない。
そんな不吉で恐ろしい迷信を作り出したのは、人間の心の産物である。
見たくないものや忘れたいことを放って置くと、しだいにそのものは大きな恐怖へと成長していく。
何か悪霊が存在するわけではない。
目をそらす所に、闇が出来上がってしまうのだ。
避ければ避けるほど、闇は恐怖や不安の色合いを付け始める。

本来闇というものは、古代から自分自身を見つめるためにある空間なのだ。
何ものにも捕らわれず、自分自身の心を見つめる時間・・・それが本来の暗闇の持つ真意である。

しかし時代は進歩し、明かりが発明され、現代では闇を探す方が困難を極める。
どこへ行っても電気の明かりが射し、どこへ行っても闇など存在しないかのような時代になってしまった。

「大都市の大停電がおきるなんて、情報が早いですね、親方」
闇マンは両手のスプレーガンの調整をしながら、親方に言った。
「蛇の道は蛇という古いことわざがあるだろう」
親方は、古い諺を引用しながら闇マンに言う。
「蛇の目傘が蛇ですか・・・変な傘なんですね」
諺の意味を知らない闇マンが言う。
「・・・同類の者はその方面の情報によく通じているというような意味さ」
少しあきれて親方が言った。

「そろそろ、大停電になるぞっ!準備は言いか?」
親方が強く言った。
「はいっ!準備はOKです!」
闇マンが、大きなスプレーガンを両手にギュッと持って、漆黒の闇を作り出す用意をした。


短編小説 台風マン

2017年12月02日 10時04分26秒 | 小説

台風マン

「そーら!汚れた空気も汚いゴミも宇宙の彼方へ吹っ飛ばせ!!」
波が荒れ狂い風が逆巻く疾風怒濤の海岸沿いの防波堤の上で、台風マンは仕事を続けていた。
風になびく茶色のドレッドヘアーの前髪には、色とりどりのビーズやトンボ玉を結びつけ、額にはバンダナを巻きつけている。
革ジャンに革のズボン、ウエスタンブーツを履いた台風マンは、根っからのロックンローラーなのだ。
台風を描くとき流す音楽は、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」に必ず決めている。
「I can't get no satisfaction♪  I can't get no satisfaction♪ 」
怒涛の波の音にも負けないくらい大きな声で、台風マンは歌を歌いながら渦巻く雲や空を描いていく。

「昔は裕ちゃんの(嵐を呼ぶ男)なんて映画があったけど、オイラは(嵐を描く男)だぜっ!」
「おいらはドラマー♪♪ やくざなドラマー♪♪ おいらが怒れば♪♪ 嵐をよぶぜぇ~!♪♪・・・なんつってな!」
「オイラも古い歌知ってんなぁ・・・」
台風マンは超ゴキゲンだった。
テンションをどんどん上げながら、空を灰色や黒色にがんがん塗りたくっていく。
時には調子に乗ってバケツごとペンキを空にぶちまけたりもするのだ。

「あんた、こんな所で何やってんの?」
突然、台風マンの後ろから大声が聞こえた。
「なにやってんのっって?オイラは台風を描いてるんだぜ!」
台風マンも大きな声で答えたが、2人の声は風にかき消され何を言っているのか判らないくらいだった。
「台風を描いてるって・・・?あんた、バカじゃないの?」男は言った。
「人のことバカ呼ばわりすんじゃねーよ、バカヤロー!」台風マンは言い返した。
「だいたいこんな台風の中、こんなとこにいるのは正気じゃないよ!」男は台風マンに言った。
「あんたこそ、こんなとこで何やってんだよ~!」台風マンも、大きな声で言い返した。
「テレビで台風の実況中継をやるんだよ!」男は言う。
男は、台風の実況中継をするテレビのレポーターだったのだ。
「そうかい!じゃあ突風で飛ばされないように気をつけな!」
台風マンは、親切に注意してみた。
「あんたも何やってんのか知らないけど危険だよ!」
レポーターの男は叫んだ。
「大丈夫だよ、オイラは台風マンだからなっ!絶対に安全なんだよ!」台風マンが叫ぶ。
風や雨が竜のように渦巻く防波堤は、荒れ狂う波に飲み込まれる海賊船ようにも見えた。

「なんで、あんただけ安全なんだ?」男は言う。
「だって、オイラは台風マンだからさっ!」台風マンが答える。
「台風マンって、なんなのよ~!」男が言う。
「空模様職人組合から派遣されて、台風描いてんの!わかんねーの?」台風マンが答える。
「空模様職人組合って何だよ??あんたの言ってることサッパリわからんよ!」
「別にわかんなくてもいいの!人間にはわかんない込み入った事情があんだよ!」
「あんたも人間だろーが?」
「人間じゃねーよ!」
「バカか?」
「バカバカ言う奴の方がバカなんだぞ!って、学校で習わんかったのか!?」
「面倒くさい奴だな・・」

風がどんどん強くなってゆき、今にもレポーターの男は飛ばされてしまいそうな状況だ。
「もう、お前、家に帰れ!風速100mの突風が、もう直ぐ吹き荒れるぞっ!!」台風マンが強い口調で言う。
「帰れるわけないだろー!ニュースの仕事なんだからな!」男が叫ぶ。
「あぶねーぞ!!」台風マンが叫ぶ。
「これが仕事なんだよっ!」男が言う。
「早く逃げた方が身のためだぜっ!」台風マンが叫ぶ。
そう台風マンが言い終えたとたん・・・・
ゴゴゴゴッと低い音を立てながら、空に黒雲がわきあがったかと思った瞬間、物凄い風がレポーターの男を海の中に吹き飛ばてしまった。

「だからあぶねーつったのに・・・」
台風マンは、やれやれといっ表情で、レポーターの男を助けにドブンと海に飛び込んだ。

台風の荒波にもまれ、沈んだり浮き上がったりアップアップしているレポーターの男をやっとの思いで台風マンは助けた。
たらふく飲んでしまった海水をゲーゲー吐いている男を見ながら、台風マンは言った。
「勘弁してくれよ、もう・・・これでも忙しい身なんだぜ!早いとこ台風を仕上げなくっちゃいけねーのによぉ・・」
「テンション下がるぜ、まったく!」
しばらく考えて・・・・
「しらけた!しらっけちまったよ!もう・・・今日の仕事はやめだ!やめやめ!最悪ぅぅ~~~!」
レポーターの男が、まだ海水をゲーゲー吐き続けているのを尻目に見ながら、台風マンは何処とも無く去っていった。



テレビのニュースが始まる。
レポーターの男が、マイクを手に持って、しどろもどろで言った。
「えぇぇ・・・今日は台風の実況中継をするはずだったのですがぁ・・・」
「突然に青空になってしまいました。雲ひとつ無い青空です。・・・・太陽も輝いています」
「台風の影も形もありません・・・不思議です・・なんで・・・??」
天気は晴天なのに、レポーターの男はずぶ濡れになったままで呆然と立ちすくんでいた。


夏物語 荒田川の主

2017年11月29日 10時17分07秒 | 小説

私の通っていた中学校の隣に荒田川という川が流れていた。
日本の公害訴訟第一号として教科書にも載っていた長良川の支流である。
その当時も川の水は汚れ放題で、夏の暑い日など悪臭が酷く、学校の窓など開けた状態ではいられないほどだ。
その様な水の状態にも関わらず、鮒や雷魚など多くの魚が生息していた。

(まだこの中学に入る前だが)小学校の休日には、この川によく魚を捕まえに来たものだ。
どす黒く汚れた水の中を手当たり次第に網をすくうと、必ず数匹の魚が網の中に入っていた。
斑の文様が気味悪い雷魚とか、10cmくらいの鮒とか、時には鯉なども捕獲できた。

ある雨上がりの日、荒田川に魚を捕まえにやってきた。
前日の雨で水かさが増し、濁流となった荒田川は危険な風景であった。
しかし、そのような状況でも子供は遊んでしまうものである。
私は、濁流の奥深く網を入れ、魚をすくっていた。
しかし、魚は一匹も捕獲できない。
何度も何度も、その濁流に網を差し入れるのだが、いっこうに魚は入ってこなかった。
その時、唐突に人間の頭部ほどの黒い生物の頭がボコリッ!と水面に浮かび上がった。
それは、見たこともないような生き物だった。
人間のような顔にも見えるし、巨大な魚のようにも見えた。
それは一瞬の出来事だった。
1秒にも満たない瞬間だっただろう。
その不気味な生物は、私の姿を確認したのかすぐさま濁流の奥深くに沈んでいった。

わたしは、その生物の話を友人に話したが、誰も信じてはくれなかった。

そんなことも忘れかけていた或る日、私はまた荒田川に魚を捕まえにそそくさと出かけた。
天気も上々、荒田川の水もそんなには濁っていない。
荒田川のすぐ傍には、田んぼに水を供給する用水路がある。
地下水を汲みあげているのだろう、直径5m水深5mくらいの井戸のような池が用水路の始発点だ。
滾々とポンプでくみ上げる地下水は、荒田川の水とは違い綺麗に澄んだ水で、深い池の底までハッキリと見えた。
その井戸状の池の深い部分には、大きな魚が悠々とたむろしていたが、私の網では救い上げるのは無理な深さだ。
底の横の部分には、ポンプの配管のような丸い口がポッカリと開いている。
その暗い口の中を、魚たちは入ったり出たり、私の心をあざ笑うかのように楽しげに泳いでいた。
その時、私はまた見てしまったのだ。
暗い丸い配水管の中から出現した黒い生物を。
その生物は、悠々と泳ぐ魚をサッと口にくわえ、すばやく一瞬に配水管の中へ入っていった。
あまりのすばやさに確かな形は確認できなかったが、両手両足とシッポがあったのが確認できた。
しかし、その時私は確信したのだ、あれがこの川の主であると。


地下室の巨大魚

2017年11月29日 10時17分00秒 | 小説


もう35年以上も前のことではあるが、不思議な生物を見た記憶が鮮明に残っている。
私は芸大受験のデッサンの練習のため、親類の家の一室を間借りしていた。
6畳一間の畳の部屋で、その下には工場として使われていた地下室がある。
その地下室は新築の工場が出来たため、もう放置された状態で雨水が天井近くまで溜まり、大きな水槽のような状況になっていた。
大きさは6畳一間の大きさで、深さは2メートル近く水が溜まり、水槽として考えればかなり大きな水槽である。
地下室なので光もあまり届かない暗闇の中の水槽である。
その水の中には、ボウフラの繁殖を防ぐために鯉や鮒が飼われていた。
上の部屋でデッサンをしている時など、下の地下室ではパシャパシャと魚の跳ねる音が聞こえた。
時折、大きな音で水の跳ねる音がして、ドキッとしたものだ。
いったいどれだけのサイズの魚を飼っているのだろうか?いつも訝しく感じていたのだ。
しかし、いつ地下室を覗いてみても真っ暗な水面が見えるだけだった。

工場であった地下室に水が溜まった水槽は、見るからに不思議な風景であった。
何かの小説や映画にでも出てきそうな雰囲気である。

或る日、あまりにも大きな音で水が跳ねる音がするので、デッサンの作業を止めて地下室の池を見に行った。
真っ暗な水面が、薄っすらと差し込む光に照らされて、ザワザワと波立っている。
その水の波紋が波のように大きいので、何事が起こっているのか理解できないでいた。
その瞬間、2メートルほどもある大きな魚がバシャッバシャッと泳いでいる影が見えた。
あまりの大きさに目を凝らして見つめると、ゴルフボールくらいの大きさの目玉が私をギロリと睨んだように見えた。
どう見ても、この地下室には大きすぎるサイズの魚である。
鯉であると考えても、大きすぎるように感じた。
時折水面に覗かせる背びれは、まるでジョーズを髣髴させた。
しかし、大きな魚を飼っているんだなぁ・・・というくらいの気持ちでいたので、私はそのまま上の部屋に行き、デッサンの練習を続けた。
この部屋の下にあんな大きな魚がいると思うと、ちょっと奇妙でドキドキした気分にさせられたが・・・。

後日、その魚の話を親戚の人に話したが、そんな大きな魚は飼っていないと言うことだった。
数年後、その地下室は取り壊されたが、2メートルもの魚は言うに及ばず、魚の骨すら発見されはしなかった。

今思うと、いったいあの魚は何だったのだろうかと思う。
単なる見間違いだったか、それとも異世界の怪物だったのだろうか。
あるいは妖怪の類の生き物だったのだろうか。
今となっては知るすべもない。


乳房と林檎とアングラ劇団と

2017年11月28日 21時21分19秒 | 小説

乳房と林檎とアングラ劇団と

1970年の頃、春。
岐阜の街は、まったりと平和だった。

今日の日曜の夕方、木本小学校の公民館にアングラ劇団「実験の会」の公演があるという。
いつも行く古本屋の、我楽多(がらくた)書房の2階に登る狭い通路に、そのサイケなポスターは貼ってあった。
アングラ劇団と呼ばれるだけで、ポスターも何か怪しげな雰囲気を醸し出しているようだ。
こんな地方でアングラ演劇など、めったに見れるわけではない。
そして俺は公演日を記憶し、今日、行って見ることを決心しているわけだ。

夕方になり、俺は小学校の、その公民館に行った。
公演までは、まだ1時間ほどほどあった。
公民館の入り口は、暗幕で閉まっていた。

小学校の庭など、なんとなく眺めていると、後ろで声がした。
「おまえも、来とったのか?」
隣町・大垣市のフォーク村の福来さんと相場君の声だった。
大垣フォーク村は、隣の町・大垣市で、フォークのライブなどを催したりしているサークルみたいなものである。
「古本屋にポスターが、貼ったったのでなぁ・・・」
俺は言った。
「ここのアングラ劇は、面白いらしいよ」
福来さんが話した。
聞くところによると、この「実験の会」は、トラックで全国を回りながら各地の地方都市で公演をしているという。

公民館の入り口付近で、とりとめも無い話に花を咲かせていると、暗幕の間から真っ白な男の顔が、ニューと現れて・・・
「もう少し待ってくださいね・・・」
と言いながら、真っ赤な唇を開いてニソッと笑った。
愛想は良かったが、白塗りの顔なので妙にシュールで不気味だった。

「ああ・・びっくりした!」
相場君がそう言って笑った。
俺も、福来さんも、顔を見ながら笑ってしまった。
「何か、期待できそうだね」
福来さんが、俺に向かって言った・・・
「アングラ演劇って、初めてみるんだよね・・」
俺も、期待しながら、そう答えた。

噂によると、このアングラ劇団はストーリーなどほとんどなく、ハプニングで進められていくらしい。
ハプニングとは、その時その時に対応して臨機応変に行われるパフォーマンスのことだ。
何が起こるかわからない・・・それがアングラ劇団の醍醐味でもある。

「林檎食べる?」
唐突に福来さんが、背負っていたリュックの中から真っ赤に色づいた林檎を出し、俺の目に前に差し出した。
「あっ・・食べる、食べる!」
そう言って林檎を貰うと、シャリッと一口食べた。
シャリシャリと林檎の果実と皮が一体となり、口の中に甘い果汁がジンワリと広がった。
福来さんも、相場君も、シャリシャリ林檎を食べている・・・・

ガブリ・・シャリシャリ・・・
ガブリ・・・シャリシャリ・・・・・
アングラ演劇の開始の前に、3人の観客が、林檎をカジッテイル・・・・
もうハプニングの一部が始まっているかのようだった・・・・

木本小学校の公民館の壁が夕焼けに染まる頃・・・・
観客らしき人々が、十数人ほど集まってきた。
入り口は、さっきより少しだけ騒がしくなった。

突然、公民館の入り口から、カランカランとベルを手で振りながら、さっきの白塗りの男が現れた!
「開演です~~~!開演です~~~!」
大きな声で叫びながら、男が観客の周りをカランカランと回っている。

これも劇の1部なんだろう・・・
もう劇は始まっているんだ・・・・・
そう感じると、自分も劇中に出演しているかのような興奮を覚えたのだった。

木戸銭をはらい、入り口の暗幕が開き、おそるおそる入場した。
ちょっと、ドキドキした気分だった。
中は暗くて、目が慣れるのに少し時間がかかった。

舞台は、客席と同じ高さにあり、今は弱いピンクの照明に照らされている。
客席とはいうものの、座布団をしいただけの簡素きわまりないものだ。

俺は、一番前の座布団の上に、あぐらをかいて座った。

ほかの客も全員座り終えると、照明が明るくなり、色とりどりに点滅しはじめた。
白塗りの男や女が、何かを叫びながら、怪しく照らし出された舞台に登場する。
ある男は踊りながら、ある女は泣きながら・・・
また、奇怪な衣装をまとった人物は、寺山修司の詩を朗読していた・・・・

「う~ん・・なんか凄いぞ・・・!」
俺は、ドキドキ紅潮した気分だ。

ストーリーらしいストーリーは無いようだったが、何もかもが意味ありげに思えた。
そうして、わけもなく妙に感動している、俺がいた。

そして、ストーリーなど無いまま、アングラ劇はどんどん進んでいった。

あるときは、照明が虹色に点滅し・・・
登場人物は意味不明な台詞を連発し・・・・
逆立ちをしたり、抱き合ったり、寝っころがったりしながら・・・・
観客を、不可解な世界へ引きずりこんでいくのだった。

アングラ劇も後半にさしかかったころ、俺にとっては最大のハプニングが起ころうとしていた。

白塗りの女が、踊りながら、やにわに俺の目の前に来た。
そうして、いきなりバサッと衣装を脱ぎ捨て、全裸になったのだ。
照明に照らされた上半身だけが、奇妙に白く光って見えた。
そして、そんな姿のまま、俺の方に、どんどん近づいてくるのだ。

俺の視線は、その女の視線と、ピーンと合ってしまった。
そして、視線をそらした場所には、白く輝くその女の乳房があった。
そんなに大きくはなかったが、神々しく見えた。

これが、ハプニングというものなのか!!
そう思った俺は、その女の乳房を、右手でギュッとつかんだのだった。

ムニュッ・・・と鷲づかみにした乳房は柔らかく、意外と大きく、シットリ汗ばんでいた。
そして、また、力を入れて握った。

女は、このハプニングを待っていたのだろうか・・・
赤い唇から歯を覗かせ、少しニッと笑って、こちらを見た・・・・

すごく長い時間が過ぎたような気がしたが、おそらく数秒の出来事だったのかもしれない。
もう女の乳房は、俺の手を離れて、舞台の遠方にライトに照らされながら消えていった・・・

俺の手の中には、女の乳房のあった虚の空間だけを残し、空虚に差し出されたままだ。

そうしていると、・・・・
そんな手の感触を味わう暇も無い瞬間に、すぐさま白塗りの男が、呆然とした俺の前にせり出してきた。
その男もの目線も、俺は捕らえてしまった。
男は、何か不明な台詞を叫んでいる・・・・
とっさに、左手に持っていた、さっき貰った林檎を、その男の口に無理やりくわえさせた!

男は林檎を、がっちり噛み、そのまま舞台の中央に下がっていった。
男は数口、林檎をかじると、いきなり床に叩きつけた!

バシーンッと、林檎は四方八方・・・舞台や観客の回りに砕け散った!

小さく砕けた林檎の破片や果汁が、観客の頭や服の上に、パラパラと霰のごとく降りそそいだ。
それと同時に、林檎の熟れた甘い芳香が、公民館全体に広がったのだ。

観客も、アングラ劇も、踊る男も、叫ぶ女も、眩しい照明も、すべて、林檎の芳醇な甘い甘い匂いで包まれていった・・・・

そうして、そのハプニングのまま・・・
アングラ劇は終了した・・・・

公民館の入り口を出ると、もう外は真っ暗だった。
三日月が、夜空に吊り下げられているかのように、か細く光っている。

帰り道に、なんだかんだと話しながら、福来さんと相場君と話しながら歩いていった。
3人とも、甘い林檎の匂いに包まれている。

俺の手は、熟れた甘い林檎の香りと、あの乳房の柔らかい感触だけが残ってしまったようだ。


砂丘の海に パンツよ さらば! 風に吹かれて嵐を呼ぶ本屋 その5

2017年11月28日 21時20分06秒 | 小説


風に吹かれて嵐を呼ぶ本屋 その5
砂丘の海に パンツよ さらば!



昨日知り合ったばかりの友だというのに、別れはなんだか寂しい。
19号台風で体育館に避難した時に知り合った友。
皆生温泉や麓の森の中で、一緒に歌を歌った友。
同じ19号台風の風に吹かれて大山山麓に偶然に集まり、同じ時間を過ごした友達。
コンサートは終わったが、妙に後ろ髪引かれる思いで一杯になっていく。

中上さんは、主催者のガンノスケと、別れを惜しんで抱き合っている。
俺も、この3日間で知り合った、あいつやこいつと、固い握手を交わしていた。
「また、どこかで会おう!」
「またなっ!」
「それじゃ!」
多くを語る言葉はないが、別れの物悲しい気分は皆一緒だろう。
握手をした手には「この人に幸あれ」と、心から願うヴァイブレーションが伝わっただろうか。
ただ今は、別れ行く良き人達の明日に、幸多かれと願うばかりである。

大山のコンサート会場の駐車場からは、日本中から来たであろう人々が、岐路につくために車を発車させている。
少し軽くなったピースアイランドの軽バンのギアを入れ、俺はアクセルを踏んだ。
ガタンガタンと揺れながら、我々は一路岐阜へと帰途につく予定であるが、我々の事である、どうなるか判らない。

夢のような3日間だったと思うが、過ぎ去った時間は現実でも夢でもたいして変わりは無いと思える。
グルグルと山道を下りてゆく車の窓からは、19号台風の爪痕といってもよい光景が、そこここに見受けられた。
倒れた松の木、泥だらけになって潰され折れた看板、高い木の上に引っかかった紙屑・・・・・かなり勢力の強い台風のようだった。
そんな台風の中、軽のバンを何時間も走らせて旅をするだの無謀という他はないのだが、その無謀さに快感を憶えてしまうのも青春の嗜好性である。



海沿いを軽快に走って行くと「ハワイ」の文字が目に付いた。
一昔前の純喫茶のような風情の「喫茶ハワイ」、木造の白いペンキも剥げ落ちた「ビリヤード・ハワイ」、懐かしい赤と青と白の看板の螺旋の円筒がクルクル回る「バーバー・ハワイ」。
「ここは、ハワイか?」俺は笑いながら言った。
「ワイキキが見えるかもな!」中上さんは、笑いながら答えた。
そんな昭和的風景の中を、しばらく走ると大きなアーチ状の門が目に入った。
『歓迎!羽合温泉へようこそ!』
そこは「羽合」と漢字で書く、紛れも無く正真正銘の日本の温泉郷だった。

「温泉・・行くか?」
「う~ん・・・どうしよう・・」
「時間が無いしなぁ・・・」
などと言ってるうちに、通り過ぎてしまった。
心残りな温泉だった。



そんなこんなで、また車を走らせると、「ようこそ鳥取砂丘へ!」の看板が目にはいった。
ここまで来て観光しないで帰るのも口惜しい、ということで鳥取の砂丘に拠ることになった
駐車場に車を止め、海を眺めようと、広大な砂の高原とでも言うべき平坦な砂丘を進んでいった。
だらだら歩いていくと、海岸近くには砂が風で集められ、小高い山のようになっていた。
そこには、見慣れた顔が数人見受けられ、相手も手を振りながら、こちらに向かって何か叫んでいる。

「お~~~いっ!」
「お~~いっ!」
こちらも他を振りながら答えた。
「やっぱり、来たんやね!」陶芸家の大沼なんが、砂の山の上で笑っている。
その隣は、三流ミュージシャンの横井君と真野君が笑っていた。
周りには、見た顔が数人、こちらを見て笑っている。
「誰でも、考える事は同じってことか」俺は、笑いながら独り言のように呟いた。

小高い砂の山から見る日本海は真っ青で、空と海とが世界を2分割でもしている感じだった。
風が強く、この風が砂をここに集めて砂丘を作っているのだ、という事を実感させてくれた。
沖には、鯨のような形をした小さな島も見える。

「泳ぎてぇ~!」大沼さんが大声で叫ぶと、いきなり海の方へ走っていった。
それに釣られて、我々全員が小高い砂の山を駆け下りていったのだった。
小高い山とはいえ、10メートルちかくはあるので、走るというより殆んど滑り落ちるといった感じだった。
サラサラと砂とともに滑り落ちる感覚は、あそこでしか味わえない快感だ。

砂の山を駆け下り、あっという間に大沼さんは素っ裸になり、ザブンと海の中にダイビングした。
続けて数人が服を脱ぎ散らかし、綺麗でもないお尻を丸出しにして、ザブリと海に入っていった。
中上さんも、いつの間にか素っ裸になり、海の中で泳いでいる。
「では、俺も・・」という訳で、俺もTシャツを脱ぎ、ジーパンを脱ぎ、パンツを脱ごうと思った。
が、しかし、人に自慢できような裸体ではないので、パンツだけは穿いて海に入っていった。

台風の影響がまだ有るのか、あるいは、いつもこのように波が高いのか分からないが、鳥取砂丘の海の波は高い波が押し寄せては返している。
観光客が少ないのでよいが、きっと素っ裸での海水浴は禁止であろう、いや、ここの砂丘で泳ぐこと自体が禁止だったかもしれない。
しかし、もう勢いで泳いでしまっているので、誰も止めようもない。
やはり台風の影響があるのだろう、時折大きな波が不規則に押し寄せてくる。

不意に、背の丈より大きな波が連続して俺の所に襲ってきた
「あぅ・・・!!」俺は、波に揉まれながら、顔を波の上の出し息をした
瞬間、不意打ちの波に顔を強く打たれ、掛けていたサングラスが波に浚われてしまった
「ああ・・サングラスは・・どこ・・?」といった感じに動揺したが、素早く海に潜り、眼鏡を捜した。
運良く、水中で目を見開いた方向に、眼鏡が水母のようにプカプカと沈みかけているのが目に入った。
俺は、とっさに眼鏡に手をやり、しっかり眼鏡のフレームを掴んだ。
その瞬間に、また立て続けに大きく強い波が、俺に襲い掛かった。
一瞬、体全体が波に飲まれ、水中で1回転してしまった。

「ゲッ・・!」俺は、海水をしこたま飲み込んで口の中が塩分で鹹くてしょうがない。
「死ぬかと思った」そう呟いている俺の下半身が、妙に軽い。
ハッとして、下に目をやると、案の定パンツが無いのである。
当然のことながら、遊泳用の海水パンツのゴムより、通常のパンツのゴムは緩く出来ている。
普通のパンツのゴムは、水中の浮力や圧力には無力で弱いのだ。
眼鏡は助かった、がしかし、不運にもパンツは波に浚われ、波に揺られ、どこか見知らぬ遠き島にでも辿りつくことだろう。
結局、全裸になってしまったので、最初から素っ裸であればよかったのだと、俺は強く思った。
時に羞恥心は、予測もつかない事態を引き起こすようだ。

それから、しばらく海水浴を続け、海から這い出て、そのまま服を着て、砂の山を登った。
砂の山の上りは、砂に足を取られ、登りにくいこと甚だしい。
歩行の地面を押す力が、砂に吸い取られ、通常の2倍ほどの体力を消耗するようだ。
10メートル近くの砂山を、やっとのことで登りきり、俺たちはさっきの駐車場までたどり着いた。

「ああ・・疲れたな・・」
「温泉でも行くか?」
「1時間もしない所に、湯村温泉があるで!」
「行こう!」「行こう!」
と話は決まり、数日前に寄った夢千代日記の湯村温泉に行くことになった。



夕暮れ時の湯村温泉は、鄙びて物悲しくて情緒たっぷりの風景だった。
川の近くの、コンクリートの柵で覆われた源泉には、卵や野菜が網の袋に入れられて茹でられていた。
その源泉からは、温泉の湯気がもうもうと空まで立ちこめ、そこいらにいる浴衣姿の温泉客の姿もゆらゆら揺れているように見えた。
黄昏て青くなった空に、街灯がポツリポツリと燈った情景は映画の中の一場面のようだ。

我々は、砂丘の海水浴で疲れた身体を、丸い円形の湯船に浸し、「ぶふぁぁ・・・」と、またもや心地よい溜息を吐いた。
熱めの湯には、そんなに長くは浸かっていられない。
十数分もすると、皆、真っ赤な顔をして、温泉から出てきたのだった。
もう、湯村温泉浴場から出てきた時には、空は夜空で無数の星星が点滅し、山中の清浄な空気で満たされていた。



数時間も走り続けると、もう中部地方の懐かしい匂いがしてくる。
大山へ行った時とは大違いに満天の星空が、湯村温泉から岐阜までズッと続いていた。
途中まで一緒に走ってきた、大沼さんが途中で瑞浪方面へ抜け、横井君や真野君も名古屋方面へと分かれていった。
我が家へ到着した時は、もう真夜中となっていた。
軽バンの側面に描かれたウサギとペンギンも、ほっと安堵の表情を浮かべているように見える。
真夜中の星空の下、そのウサギとペンギンに「サンキュー!」と呟いていた。