さかいほういちのオオサンショウウオ生活

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地下室の巨大魚

2017年11月29日 10時17分00秒 | 小説


もう35年以上も前のことではあるが、不思議な生物を見た記憶が鮮明に残っている。
私は芸大受験のデッサンの練習のため、親類の家の一室を間借りしていた。
6畳一間の畳の部屋で、その下には工場として使われていた地下室がある。
その地下室は新築の工場が出来たため、もう放置された状態で雨水が天井近くまで溜まり、大きな水槽のような状況になっていた。
大きさは6畳一間の大きさで、深さは2メートル近く水が溜まり、水槽として考えればかなり大きな水槽である。
地下室なので光もあまり届かない暗闇の中の水槽である。
その水の中には、ボウフラの繁殖を防ぐために鯉や鮒が飼われていた。
上の部屋でデッサンをしている時など、下の地下室ではパシャパシャと魚の跳ねる音が聞こえた。
時折、大きな音で水の跳ねる音がして、ドキッとしたものだ。
いったいどれだけのサイズの魚を飼っているのだろうか?いつも訝しく感じていたのだ。
しかし、いつ地下室を覗いてみても真っ暗な水面が見えるだけだった。

工場であった地下室に水が溜まった水槽は、見るからに不思議な風景であった。
何かの小説や映画にでも出てきそうな雰囲気である。

或る日、あまりにも大きな音で水が跳ねる音がするので、デッサンの作業を止めて地下室の池を見に行った。
真っ暗な水面が、薄っすらと差し込む光に照らされて、ザワザワと波立っている。
その水の波紋が波のように大きいので、何事が起こっているのか理解できないでいた。
その瞬間、2メートルほどもある大きな魚がバシャッバシャッと泳いでいる影が見えた。
あまりの大きさに目を凝らして見つめると、ゴルフボールくらいの大きさの目玉が私をギロリと睨んだように見えた。
どう見ても、この地下室には大きすぎるサイズの魚である。
鯉であると考えても、大きすぎるように感じた。
時折水面に覗かせる背びれは、まるでジョーズを髣髴させた。
しかし、大きな魚を飼っているんだなぁ・・・というくらいの気持ちでいたので、私はそのまま上の部屋に行き、デッサンの練習を続けた。
この部屋の下にあんな大きな魚がいると思うと、ちょっと奇妙でドキドキした気分にさせられたが・・・。

後日、その魚の話を親戚の人に話したが、そんな大きな魚は飼っていないと言うことだった。
数年後、その地下室は取り壊されたが、2メートルもの魚は言うに及ばず、魚の骨すら発見されはしなかった。

今思うと、いったいあの魚は何だったのだろうかと思う。
単なる見間違いだったか、それとも異世界の怪物だったのだろうか。
あるいは妖怪の類の生き物だったのだろうか。
今となっては知るすべもない。


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