2018/11/27,山口 博:国会では、質問され、回答者が答えられないとなるや否や、サポート役は回答が書かれている答弁書を大急ぎで見つけ出して回答者に手渡し、回答者はそれを読み上げるというシステムになっている。 これでは、質問は、答弁する人の記憶力や知識量を問うているに過ぎない。もし、質問に一発で回答できない場合には、サポート役は、どこに何が書いてあるかを瞬時に見極めるという迅速性を発揮して、書類を答弁者に渡す。この場合、答弁する人は、サポート役が差し出した回答を読み上げているだけ。つまり、読んで話すスキルを発揮しているだけだ。 ここで問われているスキルとは、記憶力、知識量、迅速性、そして、読んで話すこと……?こんなあたりだろう。 初等教育機関ならまだしも、他ならぬ国会で、こんなスキルが本当に求められているのだろうか?国会という立法府は、議員が議論を重ねながら合意形成して、法律を作ることが役割である。そんな場で、これらのスキルが役立っているとは、とうてい思えないのである。会議やイベントで、役員がスピーチする場合、スピーチ原稿は、部下が相当前から準備するという会社が多い。準備した原稿案を課長が確認・修正し、それを部長が承認するというプロセスを経て、ようやく役員の手に渡る。役員はそれを読み上げるだけだ。 しかし、スピーチをする目的は、聴衆に自分の考えや意欲を伝え、彼らを巻き込むことにあるはず。単に原稿を読み上げるだけのスピーチが、果たしてどれだけ役に立っているのだろうか。単なる儀式、必要悪だと思っている人が多いのではないだろうか。そこで私は、事前に考えたり、下書きする時間を取らず、すぐにロープレ演習する方式をとる。なぜならば、実際のビジネスの場面で、顧客であろうと社内のメンバーであろうと、相手から困りごとの相談を受けて、「ちょっと待ってくれ、何を話すか考える」「下書きするから、時間をくれ」「サポート役にどのように回答するか準備させて、その後に助言する」などという対応はあり得ないからだ。 メンバー役もリーダー役も、きれいな言葉で考えをまとめられなくてもいい。考えの途中でも、それを口に出していきながら、考えをまとめていく訓練をする。実際に、リアルなビジネスの場面で行われていることを再現しているのだ。 この方式で演習すると、手垢のついた使い古されたフレーズではなく、泥臭いかもしれないが話し手の心がこもったフレーズを話す訓練になる。そのような言葉こそが相手を巻き込むパワーを持つ。リーダーが自分の言葉で語るということの価値は、そこにあると思うのだ。 この考え方が日常業務にも浸透していけば、部下たちがリーダーのために答弁の準備に費やす時間は不要になる。また、基本コンセプトやビジョンは何かという、知識量や記憶力ではなく、「どのような方針で何を目指したいか、自分の言葉で語る」ことが、リーダーに必要なスキルなのだということが共有されるようになるだろう。https://diamond.jp/articles/-/186449?page=3