小説『雪花』全章

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黄昏の中の微笑み①

2012-11-16 15:27:50 | Weblog
 
 1、母と最後の約束
 人間の心は一つなのに、なぜか、底が知れない井戸のように奥が深い。
 これは真実の物語だ。
 中国最北端、黒龍江の塔河(とうか)という僻地の村に、ある親子が住んでいた。母は99歳で、息子の民(みん)も76歳になった。
 母はこの村で生まれ、結婚、子育て、貧しい生活と苦労の積み重ねのまま重で、この村を一歩も離れたことがなかった。母の人生は蝋燭のように、燃やして燃やし尽くし、残りわずかの炎は時々弱々しくなり消えそうに見えたが、そうかと思えば時々キラキラと光ってきて、まだまだ消えそうもなかった。
 ある日、母はガラス窓の外を見て、「外はきっときれいだろうなあ、外の世界を見たいなあ、」とつぶやいていた。
 「母さん、外を見たい?どこに行きたい?」息子民が母に聞いた。
 「そうだね、遠いところに行きたい……」その時、ガラス窓の陽光が母の顔に射し込んでいて、満面に微笑んでいた母が民に言った。
 「そう、じゃあ本当に母さんの行きたいところに連れて行くよ。」
 「本当?嬉しいなあ!母さんはまだたくさん生きたいのよ。」めっきり老けた母が小さな声でくすくすと笑いながら、民に言った。
 一生を苦労ばかりをして過ごした母の笑顔を見て、民は母のこれから残された人生を一緒に旅すると決意した。
 そう決めると、民はすぐに地図を開いていた。
 「母さん、どこに行きたい?」
 母が細い指で、斜めになった曲線を指して、「ここ、ここだよ。チベットに行きたい」
 「え!!チベット?」
 「そう、あそこに行きたい!」
 この村からチベットまで往復で5万キロの道のりだった。民は母がどうしてチベットへ行きたいか分からなかったが、しかし母がこのまま人生を終えたら、あまりにも淋し過ぎると思うと、一瞬息を呑み、腹をくくり、「よし、母さんに約束する。チベットに連れていく!」
 民の約束を聞いた母の顔には満面の笑みが溢れていた……
 つづく