小説『雪花』全章

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小説『雪花』第八章-2節

2017-10-03 12:45:29 | Weblog
  二
  静かな新城区に着いた凡雪と仁は、自転車を止め、《創意(ツアンイ)飯店(フアンテン)》に入った。
 広い店内は左側の一面に大きなガラスが嵌められ、外の青色の竹が直ぐ間近に見えた。初夏の清涼さが、十分に伝わっている。仁は小声で「良い雰囲気だね」と呟いた。
 微かな香ばしい匂いが漂ってくると、凡雪は仄かに酔うような幸せな気分を味わった。奥の席を選んだ凡雪と仁は、テーブルの前の椅子に腰を下ろした。
 灯光は薄い澄色で、柔らかく注いでいる。台湾の歌姫、鄧(テイ)麗(レイ)君(サテン)の《夜来(イエラン)香(シアン)》の歌が囁くのように流れていた。幻想的な世界に入り込んだ心地になった凡雪は、胸の底から軽やかな感情が、清流のように流れてくるのを感じた。
 凡雪は、まずドリンクだけを注文した。一口だけ飲んだ凡雪は、静かに仁を眺めた。
 直面に座っていた仁の瞳は、深く澄んでいる。奥は雪を頂く日本の富士山が陽に照らされて、雪が緩やかに溶けているかのようだった。
 突然、仁は「雪さん、何を考えているんですか?」と訊ねてきた。
 凡雪は微笑んでから、「日本の富士山を想像しています」と軽快に答えた。
 すると仁は、興味深げな表情を浮かべて、凡雪に質問を掛けた。
「雪さんの名前の〝雪〟って、どういう意味で付けられたんですか?」
 凡雪は小さく息を吸い、「うん、生まれた時に、雪が降っていたからかな」と返事した。
 仁は、ふっと双眸に笑みを浮かべた。風変わりで、面白く魅力的な変化を見せてくれた。
 仁はストローでドリンクを飲みながら、言葉を紡いだ。
「〝雪〟の名前は素敵ですね! 日本語で、【雪明り(ゆきあかり)】という言葉があるんですよ。暗い夜、積もった雪の反射で仄かに夜が見える。〝雪から放たれた光〟という意味ですよ」
 思い出しながら説明する仁は、瞳に優しい透明感による魅力を感じさせた。
 その時、日本の富士山の高嶺(たかね)から涼しい風が漂ってきたかのように感じた凡雪は、不思議なほど快い心地になっていた。
「ご注文は」と若い女店員がメニューを持ち、凡雪の横に立った。凡雪はメニューを受け取り、目を仁に移した。仁は、笑顔を見せて「雪さんに任せますよ」と頼んだ。
 凡雪は笑顔を仁に返してから、幾つかの料理を注文した。
 その時、店の門口に若いカップルが見えた。女性の冴えた青色の服が目立っていた。
 ところが、中に入ってきて、薄い澄色の灯光に照らされると、女性の服の色が、柔らかい白味を帯びた青に変わって見えた。
 不思議な色変化に凡雪は、視線を仁に移し、「仁さん、一番好きな色は何ですか?」と訊いてみた。仁は顔を少し俯き、ストローでドリンクをゆっくりと飲んでから、顔を上げた。
「北京の故宮紫禁城(ズチンツン)の、琉璃(ルゥリ)瓦(ワ)の黄色だな。独特な黄(ワン)色で、長い歴史っていう感じだよ」
 故宮紫禁城の全体は鮮やかな紅色で、強さを表し、火炎を連想させる。世界で、博物館紅色と称されている。屋上の琉璃瓦の明(ミン)黄色は土の色で、中央に位置する色ともされた。
 中央は古代中国の皇帝の位地であり、明黄は皇帝の専用色となっている。当時、民間では禁止されており、使ってはいけない色となっていた。
 仁の答を聴いた凡雪は、ぱっと脳裏に、燦燦たる太陽の光を受けた紫禁城の建物が、紅色から強い紅紫色に変っていく景色が浮んできた。仁の澄んだ瞳が、一瞬にして、優しい陽射しが流れているように見えた。
 凡雪は、胸に感謝の気持ちが湧き上がっていた。同時に凡雪は、仁の新たな新鮮さを感じた。まるで、優美な世界からの訪問者を見ているように、無性に惹き付けられた。
つづく
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