小説『雪花』全章

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小説『雪花』第七章-15節

2017-09-21 11:34:41 | Weblog

              十五

  祖父がお茶を玻璃コップに注ぐと、元々の緑色のお茶が、紅色に変わっていた。ほんの少し紫色も滲んで、異様に麗しく美しく見えた。
「わあ~、お洒落!」の凡花の緩んだ喋り声が、凡雪の耳元で、ゆるゆると流れた。
 凡雪は両の掌で、コップを包むように持ち上げ、そっと吸い付けた。
 お茶の仄かな甘味(かんみ)と薔薇の高貴な香りが、口の中で馴染み、滲み込んでいく。喉奥まで流れていくと、巡り逢った豊潤さが、凡雪の身体に速やかに渡っていった。
「あっ!」と歓喜の小声を零した凡雪は、自然の偉大な力が身体に取り込まれてきたように感じた。一瞬の間に、躍動感を味わった凡雪は、同時に、憧れの境地に立ったような快い気分にもなった。
 外の天空は、澄み切った朝の光が虹色に弾き、増して、煌いていた。
 凡雪は、ゆっくりと頬を上げ、「お祖父様のお茶は、別格で、病みつきになりますね!」と心情を率直に伝えた。
 すると祖父は、柔らかい表情を浮かべて、凡雪を見つめた。
「ははー、雪は、仁と同じ感想を言うなあ」
 一陣の風が点心の香を連れ、凡雪の鼻元を擽った。そっとコップを持ち上げた凡雪は、お茶を含むと、改めて極上の滋味を堪能した。
 凡花は、お茶をこくっと一口飲み、「私も同じですよ!」と祖父に目を向けた。
 祖父は眉を上げ、笑いながら点心の皿を凡花の前に置いて、勧めた。
 皿には、桃色の点心が、珍味甜(ツウンブィテン)宝(パオ)の字の形に並べられていた。漉し餡で栗一粒を丸ごと包み込んだ、蘇州風の点心だ。
 凡花は、すぐ手を伸ばし、一つを取った。口に入れた凡花は、目を瞑って味わった。
「ううん、優しい甜さですね。〝平和〟って感じ!」
 凡雪も一つを取り、半分に分けた。静かに味わってから、凡雪は「ううん」と頷いた。
 晴れた青空から浅い風が、軽やかに客間に流れている。和やかな雰囲気を運んでくれたような心地になった。その時、凡花は、悪戯っぽい表情を浮べ、喉の奥から声を出した。
「お祖父様の家に、〝鳩〟がいますね」
 はっと目を輝かせた祖父は「〝平和〟って鳩かい?」と冗談を交して、訊ねた。
 凡花はハハと笑って、再び席から立ち上がった。両手を上げ、ふわ、ふわと上から下へ、鳩の舞い姿を真似した。
「お祖父様も、楚も杜も、姉も私も、皆ーが、平和な鳩!」と凡花が剽軽に演じると、祖父は、笑みを湛えながら言葉を返した。
「老いた鳩は、もう、飛べないなぁ!」
 すかさず凡花は腰を席に戻して、「大丈夫ですよ! 若い鳩が、支えてあげますから」と喜んで大声を上げた。
 窓からの風が、宇宙に張り巡らせたように、吹き上がって流れた。柔らかく艶めいた光が客間に注ぎ込んで、凡花の頬が白く溶けているように見える。
 つづく
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