小説『雪花』全章

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小説『雪花』第八章雪から放たれた光

2017-09-30 10:31:52 | Weblog
       一
 一週間が経ち、六月に入った。
 凡雪は、香山で祖父にもてなされて過ごした好日が、ずっと心に残っていた。
 太陽が燦燦と注ぐ香山の緑の腹が、紅から柔らかい紫の彩色に朧に変化する佇まい様子を脳裏に浮かべてくると、凡雪は、聖地に携わったような気分になり、永遠の自然を心に抱かせようとした。
 月曜日の仕事を終え、図書室を出た凡雪は、手で自転車を押しながら足を前へ進めた。
 文化宮の外へ出た凡雪は、すぐ視界に、仁の姿を認めた。胸を躍らせた凡雪は「あっ、仁さん!」と呼んだ。同時に、馬に似た祖父の優しい双眸が頭を過った。
 凡雪は目を逸らさずに仁を見つめた。ふと笑った仁の双眸は、駿馬を思わせるほど黒目がちの優しい双眸だ。
 無性に仁を愛しく感じた凡雪は、頬を上げ、ずーっと仁を見つめ続けた。
 微笑んだ仁は、凡雪に近寄ってきて、大きな掌を、すっと上げた。
「お久しぶり! 雪さん、手を上げて」と仁は、凡雪に話し掛けた。
 凡雪は何気なく手を上げた。仁は自分の手で、凡雪の手と軽くパっと一回、ハイタッチした。仁は、満足げな表情を見せてくれた。
「雪さん、祖父に逢ってくれて、有り難う!」
 凡雪は口角を上げ、「仁さん、一緒に食事しませんか? 私が、請(お)客(ごる)わ」と自ら勧めた。
 すると仁は、目を輝かせて「ああー、嬉しいな!」と即座に返事した。
 春から夏にかけて夕方の空は、陽の茜色(あかねいろ)に繊細に染められていた。
 遠くへ目を見遣ると、雲で月が半分ほど隠れていた。まるで、娘(おと)子(め)の細き眉根が笑みで曲がっているように可愛らしく見えた。
つづく
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