小説『雪花』全章

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小説『雪花』第八章-3節

2017-10-07 11:12:48 | Weblog


ドリンクを飲み干した仁は、顔を凡雪に向けて感想を述べた。
「石榴ジュースは、仄かな酸味が効いて、美味しい!」と仁の声が柔らかく聴こえた。
 凛々しい双眸の奥に、優美で愉快な世界が隠れているように感じられた。
 突然、南風が、ふっと吹いてきた。濡れた芝のような香りがして、凡雪は仄かに酔い、好奇心が頭を擡げた。
「仁さん、中国の歴史が好きでしよう?」
 仁は、上半身を後ろに少し退し、両手で頭の後ろを抱えた。
「実を言うと、中国の成語(ツンイウ)(慣用熟語)が好きだな! 小さい頃、万里(マリ)祖母に、よく教わったよ。たった四文字で、物語が詰まって、面白いね」 
 仁の意外な答に、凡雪は別な世界に飛び込んだように、胸が熱くなってきた。
 凡雪は、そっと背筋を伸ばして、仁を見詰めながら、試して訊いた。
「仁さん、〝対〟の文字になっていてカップルを意味する成語は、何と言いますか?」
 すると仁は、得意げな表情を浮かべ、即答した。
「〝成(ツン)双成(スアンツン)対(トイ)〟と言うでしょ。今の僕と雪の関係みたいだね」
 仁の言葉が、二人の幸せを祈っているように聴こえ、凡雪は、天空に聳える富士山の頂上に立っているような高揚感を味わった。凡雪は想像を絞って、仁にクイズを出した。
「昔、あるお爺ちゃんが、山を運んでいた。成語の四文字は、何と言いますか?」
 仁は、微(かす)かに戸惑った様子が表れた。中国の過去の文化の流れを簡単に汲(く)めないような表情に見えた。ところが暫くして仁が表情を一変させ、両手をテーブルに戻した。
「分かった! 〝愚公(イウコウ)移(イー)山(サン)〟だよ!」
〝愚公移山〟は、《列子・湯問》という本に書かれた伝説だった。
 古代、愚(イウ)という名前の公(老人)が、山に住んでいた。ある日、愚は決心し、山を掘り始めた。その後、愚は自分の子供を起こして山を掘り始めた。世々代々が山を掘り続け、ついにある日、天(テン)爺(イエ)(神様)が愚子孫の行ないに感動し、山をごそっと動かして、移した。
〝愚公移山〟の成語は、困難から逃げず、意志が強い人と比喩されていた。
 仁の表情がゆっくりと微笑んで、眼差しが驚くほど輝いて見えた。
 凡雪は、仁の不思議な魅力に圧倒され、掌を上げた。仁も手を上げ、凡雪の手とハイタッチした。仁は凡雪の手を、そっと握って、テーブルに戻した。
 風音に、駿馬が優美に走っている足音が聴こえてきたかのように、凡雪は胸が高鳴った。
 心底から温かい思いが、次から次と溢れてくるのを感じていた。
つづく
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