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ダプトマイシン レビュー

2018-01-18 | 抗菌薬・関連薬剤
• Daptomycin
• 雑誌: J. Antimicrob. Chemother. 2018; 73:1–11.
• 著者名: Heidary M, Khosravi AD, Khoshnood S, Nasiri MJ, Soleimani S, Goudarzi M.
▾ 要旨
▾ 目的
• ダプトマイシンのレビュー

▾ 抗菌薬的特徴
▾ 作用機序
• ダプトマイシンは13アミノ酸のコアと10のC末端残基で構成された環状ポリペプチドの構造を持ち、環はエステル結合で繋がれている。3つの環外アミノ酸側鎖は末端のトリプトファンに脂質残基が付着している(decanoic acid)
• ダプトマイシンはグラム陽性菌の細胞膜にCa2+依存性に挿入し膜の脱分極と細胞内成分の漏出を引き起こす。殺菌能はCa2+が人間の細胞外液中と同じ1.2mMの時に最大となる。

▾ 免疫修飾作用
• リポペプチドはToll-like receptorsのようなレセプターと相互作用することが知られているが、その免疫修飾作用についてはあまり解明されていない

▾ バイオフィルム内への活性
• ダプトマイシンは抗グラム陽性菌抗菌薬(i.e. minocycline, quinupristin/dalfopristin and linezolid)の中でも最もバイオフィルム中の細菌に有効な抗菌薬である。単独ではMRSAのバイオフィルムに対し殺菌作用を持たないが、リネゾリドと併用することで殺菌効果が著しく上昇する。

▾ スペクトラム
• ダプトマイシンはin vitroでMRSA, VRE, ペニシリン耐性レンサ球菌を含むグラム陽性菌に広く殺菌効果を持つ。肺胞サーファクタントで不活化される為肺炎には使用できない。

▾ 薬剤耐性
▾ 固有耐性
• 遺伝子内GC率の低いグラム陽性菌(Staphylococcus, Micrococcus, Streptococcus, Lactobacillusなど)はダプトマイシンのエステル結合を加水分解し環状構造を開環することで不活化する固有耐性を持つ。

▾ 獲得耐性
• 治療中にダプトマイシン耐性が出現する事は重要が問題となってきている。その仕組みは複雑で複数の変異により引き起こされる。S. aureusのダプトマイシン耐性は細胞表面の陽性電荷を増加させることで起こる静電的な反発力を用いている。
• 最も一般的なダプトマイシン耐性遺伝子はMprFをコードするmprF遺伝子である。他にはpgfSやcls遺伝子も耐性に関与することが分かっている。mprF, uucG, rpoB, rpoC遺伝子に変異が入ることでダプトマイシンに対するMICは感受性の範囲を越えて大幅に上昇する。腸球菌の獲得耐性はトランスポゾンやプラスミドを介して起こるため耐性の伝播が起こりうる。

▾ ヘテロ耐性
• MRSAの実験株がダプトマイシンによりバンコマイシン・ダプトマイシン双方に対する耐性が誘導された事が報告されている。この耐性はh-VISAと同様細胞壁の肥厚化によるものであり、転写産物の組成は一部h-VISAと重なっていた。
近年、3臨床株においてグリコペプチド中等度耐性S. aureus(GISA)やhetero-GISAがバンコマイシンによる治療中に出現し、ダプトマイシンに対するMICも高かった事が示されている。

▾ 相互作用
▾ ダプトマイシン+リファンピシン/アンピシリン vs VRE
• ダプトマイシンとリファンピシンの併用によりいくつかのリファンピシン耐性株でリファンピシン感受性が回復する事が報告されている。
アンピシリンは細胞膜表面の電荷を下げる事で、ダプトマイシンを含む陽性ペプチドに対する感受性を上げる。

▾ ダプトマイシン+リファンピシン/ゲンタマイシン vs MRSA
• MRSAに対しダプトマイシンと併用する事で効果が上がる抗菌薬は知られていない。ゲンタマイシンはin vitroではダプトマイシンの活性を増加させる事が示されている。ダプトマイシンとリファンピシンの併用にの有効性はほとんどわかっていない。ダプトマイシンにゲンタマイシンを併用する事で耐性菌の出現も防ぐ事ができるかもしれない。

▾ Daptomycin synergy with oxacillin and other β-lactams against MRSA
• 抗黄色ブドウ球菌用βラクタム系抗菌薬をダプトマイシンに併用する事でMRSAの持続的菌血症に対する殺菌効果を増加させる事ができる。この理由としてPBP1の阻害によりダプトマイシンのdivisomeへの結合が強くなる機序、あるいは結合ではなく活性が強くなる機序2つが考えられている。

▾ PK/PD
• いくつかのパラメータがダプトマイシンのクリアランスに作用する(患者背景・じん機能・体温・性別)。少人数を対象としたstudyでは37.2℃以上の体温上昇はダプトマイシンのクリアランスを増加させた。重症小児患者での薬物動態は成人と異なり排泄が早く半減期が短い。In vitroではダプトマイシンの活性はCmax/MIC比やAUC/MIC比に相関する。実験的事実では高用量(8–10 mg/kg)の方が重症のMRSAや腸球菌感染症患者に同等の安全性で高い効果を得られる事が示唆されている。
担癌患者は血清中の蛋白量が少ないため体液の著しい偏りが生じる。担癌患者への適切な投与量ははっきりしていない。ダプトマイシンは主に尿中に排泄され (78%)、24時間以内であれば50%程度の活性型が尿中から回収できる。少量 (6%)は鞭虫からも回収できる。ダプトマイシンは92%程度血漿蛋白と結合するが、その結合は細菌の細胞膜との不可逆的結合より弱いため、蛋白結合率から想定されるよりbioavailabilityは高い。ダプトマイシンの半減期は8-9時間と長く、1日1回投与を可能としている。4, 6, 8 mg/kg per dayでCmax: 58, 99, 133 mg/L・24 h AUC:494, 747 and 1130 mg·h/Lと予測される。投与後早期は多くが血漿中か間質液中にとどまると考えられる。

▾ 臨床効果
• MRSA/CoNS人工関節感染症に対し、バンコマイシンの代替薬として使用できる。
半減期が長いため外来治療で使用できる。
カテーテル関連血流感染症でカテーテルロックとして使用して成功した報告がある。
ダプトマイシンはバンコマイシンより安全性が高いことから小児耐性菌治療の有望な選択肢と考えられているが、適切な用量を決めるためより多くのstudyが必要である。

▾ 耐性菌の疫学
▾ ダプトマイシン非感受性グラム陽性菌の頻度はほとんど分かっていない
• ダプトマイシンのMSSA/MRSAへの感受性はLatin America, Australia/New Zealand and Indiaで100%、ヨーロッパで 99.9%である。

▾ まとめ
• グラム陽性菌の耐性率が低い(

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