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HACEKによる感染性心内膜炎の特徴

2021-06-11 | 臓器別感染症:循環器系

スウェーデンにおけるHACEKに起因する感染性心内膜炎の特徴をまとめた論文である。

HACEKにより引き起こされるIEは珍しい。HACEKとは、Haemophilus (excluding Haemophilus influenzae), Aggregatibacter, Cardiobacterium, Eikenella and Kingella の頭文字である。
この研究では、HACEKによるIE症例を、スウェーデンのIE登録簿(SRIE)を通じて特定している。HACEKにより引き起こされたIE症例の臨床的特徴は、同じレジストリにより報告された他の病原体によるIEの症例と比較した。HACEKにより引き起こされたIEの96例が特定され、これらはすべてIE症例の1.8%に相当した。83例は、明確な感染性心内膜炎であり、死亡率は2%だった。罹患の中央年齢は63歳で、IEを有する患者と比較して若かった。(p値≦0.01)
HaemophilusによるIEは、AggregatibacterによるIEよりも若かった。HACEKによるIEでは、黄色ブドウ球菌によるIEに比して発症から入院までの期間が長く、より人工弁によるIEとの症例が多かった。(10 VS 2 days, p値≦0.01、35 VS 14 %,p値≦0.001)
Aggregatibacterは、このグループ内で最も一般的なIEの原因であった。HACEKによるIEは、亜急性の発症であり、人工弁を有する患者にしばしば発症し、死亡率は比較的低い。

・グループは、HECEKとよばれるグラム陰性桿菌からなるこれらの菌はIEを引き起こすまれな菌で主に口腔内のグラム陰性桿菌である。
・HACEKグループのIEは、Dukeの診断基準にも言及されており、IEの病原菌としてよくしられているが、これまでの報告では小さな症例シリーズしかない。HACEKグループのIE症例は1~3%程度だが、血液培養からHACEKが検出されればIEの診断率は40%である。HACEKによるIEの最も大きな研究は多国籍共同研究であるICEの研究である。(文献5)その研究ではHACEKによるIEは77例報告され、全体の1.3%を占めた。この報告ではHACEKのIEは、若い年齢で、脳塞栓のリスクは高く、心不全のリスクは低かった。病因微生物の割合は、Haemophilus (40%), Aggregatibacter (34%), Cardiobacterium (14%), Eikenella (5%) and Kingella (5%)だった。40%で、外科的介入が行われ、死亡率が11%で対照群よりも有意に低かった。さらに昔の研究では、45例のHACEKの報告があり、平均年齢が48歳と若く、71%が男性で、60%で基礎に心疾患があった。この検証では対照群がなかった(文献6)原因菌としては、Haemophilus, Aggregatibacter and Cardiobacteriumのために2名脂肪がいただけである。比較的最近の出版では、スペインの研究で報告されたHACEKによるIE16例が連鎖球菌のIEと比較されていた。これらのグループには多くの類似点があったが、HACEKによって引き起こされたIEの症例の予後は良好だった。

【HACEK group】
2008年から2017年の間に、修正されたデューク基準(文献3)に従って、definiteあるいはpossible IEの5231例がSRIEに報告された。HACEKによって引き起こされた96のケースが特定され、これは全ケースの1.8%に相当した。Aggregatibacterが最も一般的な原因属で83例はdefinite IEだった。レジストリにHACEKによるIEの原因としてインフルエンザ桿菌によるIEの1例が含まれていた。
表2は、さまざまなHACEKグループ属によって引き起こされるIEの臨床的特徴をまとめたものである。統計的比較は、他のグループが小さかったため、HaemophilusとAggregatibacterによって引き起こされたIEの症例間でのみ行われた。これら2つのグループ間の唯一の統計的な有意差は、HaemophilusとAggregatibacterの病因によって引き起こされたIE患者の年齢が若いことだった(47歳対67歳、p≤0.001)。 IEの素因は、HaemophilusによるIEの17人(71%)の患者と、AggregatibacterによるIEの36人(73%)の患者で認められた。 2人の患者がIEの再発を経験し、どちらもHaemophilusとAggregatibacterによるdefinite IEだった。患者は、自然弁心内膜炎(NVE)と人工弁心内膜炎(PVE)だった。
【抗生物質治療】
表3は、HACEKによるIE患者の抗生物質治療をまとめたものです。 47人の患者がNVEと診断され、34人がPVEと診断された。 15人の患者がCIED感染症を罹患していた。
ベータラクタム系抗生物質(アンピシリンまたはセファロスポリンの第3世代)は、中央値30日(四分位範囲(IQR)28–33)のNVE患者の大多数(n = 36)に単剤療法として投与された。 5人の患者は最初にベータラクタムで治療され、その後シプロフロキサシンで治療された。併用療法は5人の患者に行われ、そのうち3人は中央値45日間アミノグリコシドを投与されました(IQR34-45)。

PVEの16人の患者は中央値42日間(IQR 29–45)、単剤療法のベータラクタム抗生物質で治療された。これはNVEの患者と比較して統計的に有意に長かった(p = 0.008)。併用療法は5人の患者で開始され、そのうち3人は中央値31日間アミノグリコシドで治療されました(IQR28-48)。

CIED感染症に関しては、12人の患者が中央値30日間の単剤療法としてベータラクタムを投与された(IQR 25–34)。 2人の患者は、中央値34日間、アミノグリコシドとの併用療法で治療された(IQR 25–42)。

【結果と臨床経過】
手術はNVEの18例で行われ、13例で弁置換、5例で弁形成術が施行された。治療中の死亡は、治療41日目に1名だった。患者は、Aggregatibacter aphrophilusによるpossible IEの78歳女性だった。

PVEの11人の患者が手術を受け、9人の患者が弁置換術を受け、2人の患者がペースメーカーを摘出しました。死亡例は、59日目の死亡で、抗生物質治療終了後14日目に重度の大動脈弁閉鎖不全のために亡くなった。患者は56歳の男性で、Cardiobacterium hominisによるdefinite IEの症例だった。
ペースメーカー摘出は、CIED感染症の患者10人中8人で実施された。

【HACEKによるIEと他の病原体によるIEの比較】
HACEKによるIEの症例との比較として、黄色ブドウ球菌によるIEの1935症例(SRIEに報告された全症例の37%)、α溶血性連鎖球菌IEの1484症例(29%)、腸球菌IEの538症例( 10%)が特定された。表4は、HACEKおよびその他のより一般的な病原体によって引き起こされるIEの臨床的特徴をまとめたものです。 HACEKによるIEの患者は、若く(p≤0.01)、併存疾患が少なく(p≤0.05)、市中感染症の割合が高い(p≤0.001)傾向があった。 HACEKによるIE患者の大部分で、黄色ブドウ球菌およびα溶血性連鎖球菌によって引き起こされるIEと比較し、IEの素因が多かった(p≤0.01およびp≤0.05)。黄色ブドウ球菌によるIEの患者と比較して、HACEKによって引き起こされたIEの患者は、症状の発症から入院までの期間が統計的に有意に長く(10対2日、p≤0.001)、PVEと診断される頻度が高かった(35対14% 、p≤0.001)。 HACEKによるIEの患者は、手術の頻度は高かったが(39%)、死亡率はわずか2%であり、2つの比較対照群(p≤0.01およびp≤0.001)よりも有意に低かった。

【ディスカッションより】
この研究のlimitationは、SRIEに報告された患者の潜在的な選択バイアスがある。感染症部門で治療を受けなかった患者は見落とされた可能性がある。さらに、データベースに入力されたデータのみが分析に利用可能であり、患者の医療記録は調査されなかった。レジストリは2018年に改訂され、2018年以降のIEの新しい登録項目は、別のデータ形式で入力されているため、含まれる。併存疾患に関するデータは比較的少なく、細菌の種決定の正確な手法に関する情報は入手できなかった。

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