「サンクト・ペテルブルク よみがえった幻想都市」
小町文雄著 中公新書
サンクト・ペテルブルグのガイドブックといった方がいい。ネフスキー大通りから丁寧な紹介が続いている。そこで、「地球の歩き方」のロシア・ペテルブルグのネフスキー通の地図をあけ、確認しながら読んだ。おかげでかなりがっちりと地理が頭に入った。ちょうど2週続けてTBSの世界遺産がサンクト・ペテルブルグを取り上げていた。地理もさることながら、芸術遺産の建築物群を映像で見られたのは、好都合だった。映像を見ながら、あそこはああとか、これはなにとか、説明のつかないものをさらに、覚えたばかりの薀蓄を披露していた。こうするとなお記憶に残る。
サンクト・ペテルブルクは愛称としてピーテルと呼ばれている。だから私も親しみを込めてピーテルと呼ぼう、長い正式名を書くのが面倒だから。
ピーテルはご存知のとおり、バルト海のどんづまり、ネヴァ川の三角州にある。モスクワに次ぐロシア第二の都市である。人口470万。都市の中をネヴァ川蛾流れている。ネヴァ川はヨーロッパ最大の湖、ラドガ湖から流れる短いが水量豊かな川だ。水運の利もある。
この湿地にピョートル大帝がヨーロッパを見据えて、またロシア的でなくヨーロッパ的に都市を建設したのがピ-テルである。時は1703年。湿地だったので、都市建設には多大な犠牲が払われたと伝えられている。労働条件も劣悪で、人骨の上に建つ町とも言われている。ネヴァ川は水量も多く、川が注ぐヘルシンキ湾は水深が浅いので、風によって水が逆流し、いまなおピーテルは大洪水に悩まされているという。
ピョートル大帝の本も読んだこともあるし、あそこにはエルミタージュもある。エルミタージュの収蔵品には展覧会でお目にかかったことはあるが、建築そのものが芸術だといわれているので、ピーテルに行ってみようと計画したことがある。それが運悪く2003年だったので、建市300年祭で混雑が予想され、中止してしまったことがある。行きそびれると、なかなか行かれないものだ。
ピーテルは1713年から1917年まで約200年、ロシア帝国の首都であった。歴史的には大いに脚光を浴びてきた都市だった。ロシア革命はここに端を発し、革命後は首都はふたたびモスクワに移り、社会主義体制では捨て置かれ、多くの教会が破壊されたそうだが、ソ連崩壊後再びよみがえり、修復されているようである。名前もペテログラード、スターリングラード、レニングラード、と変遷したが、ソ連崩壊後はもとのサンクトペテルブルグにもどった。ピーテル嫌いのスターリンに粛正されたり、第二次世界大戦ではドイツ軍に900日も包囲され、6万にも餓死者を出した。それでも市民はこの町を守ったのだ。2003年に行かれなかったのはあるいはツイていたのかもしれない。ピーテルはプーチンの出身地であったこも幸いしているのかも。
ピーテルといえば文学には事かかない。ゴーゴリの著書には「ネフスキー大通り」というのがあり、その名のとおり、ネフスキー大通りを主題にした作品がある。読んでみようと図書館を探したがなかった。今では全集かなにか探さないとないみたいだ。ピーテルを題材にした作家といえば、ドストエフスキーを思い出す。もっとも私はドストエフスキーの作品をひとつも読んだことがない。食わず嫌いだといえば言えなくはない。全集が身近にそろっているにもかかわらずだから、そうなのかもしれない。「罪と罰」に登場している場所の確認はほとんど取れているそうだから、これを機に読んでみようかと思ったが、食指が今ひとつ動かない。ドストエフスキーはご縁がないみたいだ。ドストエフスキーといえば、今若者の間で「カラマーゾフの兄弟」が人気だとは聞いているが。
後尾にたくさんの参考文献が載っている。それを眺めていると、ロマノフ王朝関連の中に、アンリ・トロワイヤの「恐るべき女帝たち」を見つけた。訳者は福住誠さん(新読書社、2002年)この本は持っている。この翻訳者福住先生から、翻訳が出版されたとき購入したのである。
福住先生は相洋高校の先生である。まだ教えていられるかどうかは知らないが、たぶん英語の先生だったのだろう。以前(いまもやっているのだろうか)相洋高校が一般市民向けに公開講座を開いていた。高校の先生方が、さまざまな分野の講座を受け持っていた。福住先生はフランス語とロシア語を担当していた。そのフランス語に私も出席していたのである。一週間に一度、山の上の高校まで上っていった。歩いて上るのがいやなのでよくタクシーで行った。帰りは歩いてきたけど。
初めのテキストは「Le Petit Princ 星の王子さま」だった。星の王子さまは大学でもテキストで使ったし、自分でも読んだし、英語版も読んだことがある。だからよく覚えているのだが、そのあと何をテキストにしたかは忘れてしまった。そのときも先生はトロワイヤの作品を翻訳していた。たしか他の本も買ったように覚えている。
トロワイヤといえば、漫画家の池田理代子も参考文献に彼の作品を使っている。彼女も「エカテリーナ大帝」がある。福住先生はトロワイヤは史実に比較的正確だと言っていたが、エカテリーナ二世に関してはトロワイヤは誇張しすぎていると、他の研究者から異論も出ている。一応、目は通しているのだが、忘れてしまっている、手元にあるのだから、もう一度「恐るべき女帝たち」を読み返してみよう。