横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

十勝岳の噴火警戒レベル引き上げについて

2014年12月18日 | 火山情報
気象庁は12月16日、吾妻山に続いて十勝岳の噴火警戒レベルも、「1(平常)」から「2(火口周辺規制)」に引き上げました。

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レベル引き上げの主な理由は、最も新しい62-2火口の周辺で山体膨張が示唆されており、7月頃から加速傾向にあること、及び、膨張が示唆される深さが浅くなってきていると考えられることです。


(札幌管区気象台の火山活動解説資料より抜粋)


62-2火口に近い前十勝の観測点でのみ、局所的に大きな西向きの移動がみられ、他の観測点では移動が見られないことから、山体膨張の駆動要因(マグマ)がごく浅くなっているのではないか、という判断のようです。


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また、定常的に観測されている常時微動の振幅が一時的に大きくなったことも、理由のひとつとされています。


(同上。2013年1月から現在までの推移を示す)


ただし、振幅の大きさ自体は、1.0μm/sに満たないレベルであり、それほど大きいものではありません。

火山性地震については、低レベルで推移しており、活動が特段大きくなっている兆候はないようです。


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前十勝観測点の(望岳台を固定点とした)西向きの移動は2006年頃から続いているので、特に最近になって始まったものではありません。率直に言って、今レベルを上げるなら、もう少し前から上げておくべきのようにも思えます。吾妻山のレベル引き上げとほぼ同時のタイミングであることからみても、御嶽山のレベルを噴火前に上げずに犠牲者を出してしまったことが、一連のレベル引き上げの判断に影響しているように思えます。

ただ、前十勝観測点の2006年からの累積移動量はすでに30センチに迫るほどですので、噴火がいつ起こってもおかしくないことは、また事実です。

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まったくの余談で恐縮ですが、私は子供のころ旭川市に住んでおり、登山が好きな家だったこともあって、十勝岳にも数えきれないほど登っています。このあたりの学校では、遠足や林間学校(登山学校)でも、十勝岳によく登っていました。個人的に、火山や地震といった地球物理学への興味を与えてくれた山だと思っています。早川由紀夫さんなどは、子供たちを火山に連れて行くことを推奨しておられるようですが、このご意見には本当に賛成します。ただ、火山ですから、危険は伴うのですが…。

三浦綾子さんの小説『泥流地帯』『続・泥流地帯』は、1923年の十勝岳の大正噴火による泥流(死者・行方不明者144人)を描いたものです。噴火は、上図の大正火口で起きました。やや大きな水蒸気爆発によって、岩屑なだれと融雪によって泥流が発生したものです。『泥流地帯』は、突然襲う泥流の怖さ、巻き込まれた住民たちの悲しい運命、そして何より復興への努力が(『続・泥流地帯』)描かれており、火山被害を語るには読んでおくべき、素晴らしい小説だと思います。未読の方には、おすすめしたいです。これからしばらくは積雪がありますので、十勝岳に限らず、火山活動による融雪に伴う泥流にも警戒が必要です。


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3 コメント

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阿蘇山の事ですが (ばーど)
2015-02-02 20:03:07

十勝岳の話ではないのですが、1月30日、気象庁発表の「火山の状況に関する解説情報」を見たところ、「火山性地震、孤立型微動の回数は、火山性微動の振幅が大きいため、計数できない状態となっています」と書いてありました。

こういう表現を見たのは初めてのため、少し驚きましたが、これは、文言の通り、火山性微動の振幅が大きくて、火山性地震の回数や火山性微動の回数を測定できないと言うことなんでしょうか?
GNSS連続観測の文言は変化もないし、傾斜計の情報などが新たに書かれてと言うこともありませんから、私個人は大きな噴火になるとは思っていませんが(小規模な噴火が当面続く感じかなと見ています)、阿蘇に住んでいる知り合いが心配していたので、もし私の認識で問題なければ、言って安心させたく思います。

妙な質問をいたしまして申し訳ございません。お暇な時にご返信いただければ幸いです。
返信する
Re: 阿蘇山の事ですが (横浜地球物理学研究所)
2015-02-02 20:33:59
気象庁の「阿蘇山の火山活動解説資料」

http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/monthly_v-act_doc/fukuoka/14m12/503_14m12.pdf

をみますと、噴火活動が活発になった昨年11月から、孤立型微動は計数していない(できていない)ようです。

「孤立型微動」というのは阿蘇山特有のもので、常時観測される火山性微動に重なるように時折表れる、振幅のやや大きな微動のことです。昨年の噴火から火山性微動の振幅が大きくなっており、孤立型微動が埋もれてしまって、計数できない状態が続いているようで、1月30日から計数できなくなったというわけではないようです。

ですので、ここにきて特段大きな変化が見られたという意味ではないので、「小規模な噴火が当面続く感じかなと見ています」というご見解に、個人的には私も賛同いたします。ただ、火山性微動の振幅自体が大きいまま推移しているので、注視が必要かと思います。
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ありがとうございます (ばーど)
2015-02-02 23:40:01
お忙しい中、不躾な質問に、早速ご返信くださいましてありがとうございます。そして申し訳ございません。

横浜地球物理学研究所様のお返事を聞き、心強い面持ちです。

これからも応援しております。どうぞよろしくお願いいたします。
返信する

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