日々是好日日記

心にうつりゆくよしなしごとを<思う存分>書きつくればあやしうこそものぐるほしけれ

歯痛も吹き飛ぶ歯無しの話

2022年03月18日 07時56分43秒 | 政治
 先週の某日、にわかに歯痛をおぼえてかかりつけの歯医者に出かけた。その日は、この三月一番の春めいた日よりというのに、さすがにオミクロン全盛の今、よほどの痛みでもなければ歯科にかかるのは敬遠してでもいるのか(この2年筆者がそうだった)、待合室は閑散として人気が無い。そんなのんびりと間延びした春の昼下がりのこと。
 少々くたびれてきた入れ歯の点検もしてもらって、出来上がりを口につけるか、ケースに入れたまま持ち帰るかという話の中で、入れ歯といえばと言って始まった老先生の話から診察室は大いに盛り上がった。その特ダネ歯無しのハナシ――
 ある患者さん、日頃から就寝時に入れ歯を着けたまま寝るという、――医者に言わせるとこれは「珍しい」習慣だそうだが、その高いお金を費やして作った入れ歯をオーストラリア旅行で最後に宿泊したホテルで、普段しない入れ歯を外して寝た。翌日の出立は早朝でホテルの弁当サービスに頼って出発したため入れ歯未装着の事実を気づかないまま飛行機に飛び乗って日本に帰ってきてしまった。口中に歯の無いことに気が付いたのは最初の機内サービス時、機はすでにダーウィン諸島の上だったという。豪州駐在の友人に頼んで送り返してもらう手はずになってはいるが戻ってくるまで飯が食えないとうちしおれて仮入れ歯を作ってくれと言ってきたというハナシ。
 これとは反対、寝るときは必ず良く洗浄して洗面所の棚に保管して寝るのが習慣の別の紳士。ある朝、起きて洗面所の棚から入れ歯を取ろうとするとそこに無い。さては夕べ宴会で酔っ払って人事不省のままに宴会場の手洗いで入れ歯の掃除をしたのを朦朧たる頭で思い出した。そうだあそこに置いてきたに違いないと訪ねてみると、ホテルでは今朝の掃除で入れ歯の回収報告は無いという。妻に気づかれその小言が怖いご亭主は仕方なく歯科医院にやって来て、もう一つ歯を作ってほしいという。診察台に乗せて口を開け口中を見れば立派に入れ歯が納まっていたという話。昨夜の酒の量が手に取るようによく分かったと、老先生は笑う。
 初老の婦人、美貌に殊の外執心の彼女、数年前に「左上」の八重歯に大枚の資金を費やしてこれを作った。作るにあたっては、笑った時に笑顔が可愛く見えるようにしたいといってずいぶん熱を入れてデザインに腐心したものだったという。それがある日のこと消えて無くなったといって青くなって医院に駆け込んできた。例によって診察台にのって「あーん」と口を開けさせて、みれば入れ歯は立派に可愛く輝いていた。何のことは無い、上左側につけた歯のことを、右側に付けたとばかり勘違いして右上歯に無いのでびっくりし、主人に叱られると言って青い顔して医院に駆け込んできたのだという。
 もっと悲惨なのは、親類の結婚式に招かれ、興に入るあまり大いに飲んだまではよかったが、にわかに吐き気を催して便所に行ってすべてを吐いたしまった。そのとき、大枚の財産をはたいて作った上下総入れ歯も一緒に便壺の中に飛び出していってしまった。もったいないというので便ツボをかき回して引き上げ、よく洗ってまた使ったという話。発する匂いで式典はさんざんに終わったという話などを診察台の上で聞かされ大いに歯の大切さを学んだひと時であった。ようやく春が来た

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