本朝徒然噺

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国立劇場文楽公演(第1部)へ(2/10)

2008年02月10日 | キモノでお出かけ
<お出かけ先>国立劇場小劇場・二月文楽公演(第1部)
<着物>グレーの無地結城
<帯>臙脂色にお茶屋柄のちりめん帯
<帯揚げ>白地にピンクの飛び絞り
<帯締め>ピンクの三分紐
<帯留め>三味線
<根付>撥

2月10日(日)、国立劇場(小劇場)の文楽公演(第1部)へ行ってきました。
前夜に雪が降り、雪解けで寒い一日だったので、結城の無地を着てお出かけ。
演目の「冥土の飛脚」にちなんで、お茶屋の柄の帯を締めました。
小物は、義太夫にちなんで、三味線の帯留めと撥の根付にしました

三味線の帯留めと撥の根付

出かける時、日陰には雪が残っていたので(しかも凍結……)、雨草履(雪兼用)を履いて行きました。劇場周辺では雪も残ってないだろうと思ったので、普通の草履も持参して、着いたら履き替えました。
いつも、出かける時は必ず白足袋にしている私ですが、あまりにも足元が寒いので、めずらしく別珍の足袋なんぞを履いて行きました。

別珍の足袋

さすがに暖かかったのですが、出かけてからも「やっぱり白足袋にすればよかった……」と、どこか落ち着きませんでした
慣れないことはするもんじゃないです(笑)。

◆◇◆◇◆

ここ何年か、東京での文楽公演は発売後すぐにチケットが売り切れてしまう状態が続いていたので、面倒くさくて足が遠のいてしまっていたワタクシ。

ところが今回は、チケット発売後数日経っても、土日のチケットがまだ残っていたのです!
第2部は、土日のぶんはすぐに売り切れてしまっていたようですが、私が“聴きたい”のは第1部の「冥土の飛脚」のみだったので、ちょうどよいわとチケットをとったのでした。

私は、初めて人形浄瑠璃を見たのが「冥土の飛脚」で(というか、その時もこの演目を狙って行ったのですが……)、その時の感動がひとしおだったので、以来、それまであまり好きでなかった近松作品が好きになりました。

今から10年くらい前のことです(ひょっとしたら、もっと前かもしれませんが……)。
なにぶん「ひと昔」前のことなので細かなことまでは覚えていませんが、豊竹嶋太夫さんが語っておられた「淡路町の段」の「奥」(後半部分)がすごく印象に残ったのは、今でも鮮明に覚えています。

武家屋敷に為替の金を届けようとして出かけた忠兵衛は、ついつい梅川のいる色里の近くに足が向いてしまい、「大切なお金を預かっている身だから、梅川のところへは行かず、まっすぐお屋敷へ行こう」「いやしかし、自然と足が向いてしまったのは、ひょっとすると梅川に何かあったからなのかもしれない」とさんざん逡巡したあげく、梅川のところへ行ってしまいます。
この、忠兵衛が逡巡する場面がすごくきめ細やかに語られるのを聴いて、鮮烈な印象を受けたものでした。

なにげない場面のように見えて、忠兵衛が「冥土の飛脚」になってしまうきっかけとなる重要な場面ですから、太夫が調子や間合いに細心の注意を払いながら丁寧に語っておられるのが客席にもひしひしと伝わってきました。
普段からきめ細かな語り口で世話物に定評のある嶋太夫さんが語っておられたので、なおさらだったのかもしれません。

とにかく、その時の鮮烈な印象と新鮮な感動がきっかけで、義太夫と近松作品に魅せられてしまったのでした(いちばんハマっていたころは、義太夫協会がやっている「一日義太夫教室」にまで行きました……笑)。

と、まあ、昔話はこのくらいにして……。

これまでに歌舞伎の観劇日記でたびたび書いているとおり、歌舞伎の「恋飛脚大和往来」はこの「冥土の飛脚」を改作したものです。
繰り返しになりますが、歌舞伎では丹波屋八右衛門が忠兵衛の敵役として描かれているのに対して、原作となる「冥土の飛脚」では、友達思いの男気のある人物として描かれています。
歌舞伎の場合は「役者本位」の部分もありますから、忠兵衛に感情移入させる(すなわち、立役者を引き立たせる)ために八右衛門を悪役として描いたのかもしれません。

原作での八右衛門は、忠兵衛の気持ちを察して黙ってお金を貸してあげる人物。遊女や女将の前で忠兵衛の悪口を言うのも、忠兵衛が道を外す前に茶屋遊びをやめさせたいという気持ちからです。
そんな八右衛門の気持ちを汲み取れず道を踏み外してしまうのが忠兵衛。

ただし忠兵衛がもともと「駄目なやつ」だったわけではなく、もとは真面目でよく働く人物なのです。
飛脚問屋の跡継ぎに見込まれて養子に迎えられるくらいですから、決して素行の悪い人物ではないわけです。
「淡路町の段」の前半で、養母妙閑が「真面目に働いていた忠兵衛が、最近どうも様子がおかしい」と嘆くことからも、それがうかがわれます。

要するに、まだ若い忠兵衛が、遊女梅川に惚れ込んで前後の見境がつかなくなってしまったわけです。
まあ、遊女に本気で惚れてしまうくらいですから、ある意味真面目(上にバカがつくような……)なんでしょうね……。
「若気の至り」とはいえその代償はあまりにも大きいですが、忠兵衛のように思い詰めて突っ走って事件を起こしてしまう例は、現代でもよく見られることだと思います。

そう考えて観ると、「忠兵衛なんてただのダメ男じゃん」では終われないと思うんですよね。
人間なら誰しも持っているような弱さが垣間見えると思いますし、それを見事に描き出したのが近松作品なのだと思います。

と、まあ、講釈はこのくらいにして……。

今回、メインの「封印切の段」を語ったのは竹本綱太夫さん。
久々に綱太夫さんの浄瑠璃を聴いたら、以前と比べて声が出なくなってしまっていて、驚きました……。
以前はすごくいいお声だったんですけどね……。「曽根崎心中」なんて絶品でしたもん。
年とともに高音が出にくくなってしまうのは、仕方がないことですが、以前のあのお声はもう聴けないのかなと思うと、ちょっと寂しいです。

でもそのぶん、以前よりも味わいとか重厚感が増した感じがしました。
やっぱり、年齢に応じてそれぞれの良さがあるんでしょうね。

余談ですが……。
先月サントリー美術館の「和モード展」で見てきた「鬢水入れ」は漆器でしたが、「冥土の飛脚」に出てくるのは「やきものの鬢水入れ」でした。
やきものの鬢水入れだと、たしかに重さも小判と大差ないのかも……。
でも八右衛門は、鬢水入れとわかっていながら黙って受け取ってあげる、イイヤツです(どういう経緯で鬢水入れを受け取るのかは、「和モード展」の記事の中に書いてありますので、そちらをごらんください)。

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6 コメント

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・・・粋・・・ (spica)
2008-02-17 17:40:21
 
三味線の帯留めと撥の根付、いいないいなぁ・・・粋・・・ですね。こういうの、大好きです
 私はぐぐっとくる小物ちゃんになかなか出会えなくて・・ どのようにして探されていらしゃるのでしょうか・・  機会がございましたら是非お話を伺いたいです
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Unknown (やっぴー)
2008-02-17 22:42:57
いいな×いいなあ~「冥途の飛脚」
土日残ってました?
もう発売と同時に土日は完売と聞いてたんですよ。
なので申し込みもしませんでした。
そうと判れば行きたかったあ~
あぁ、でも今月の土日は大人しくしていなければっ
今日も籠って領収書と格闘しておりました 
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文楽! (agma)
2008-02-18 00:31:18
「恋飛脚大和往来」は歌舞伎でもとても印象的な演目でしたので、こうして記事を読んでいますと 文楽で観てみたくなりました!

それにしても本当に、文楽の切符は取れないらしいですね。
(それを聞いて先に諦める私もいけません。)
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spicaさま (藤娘)
2008-02-18 07:18:34
ありがとうございます

撥の根付はたしか、今から5年前の「江戸開府四百年」の時、浅草寺の裏手に特設された「奥山」に出店されていた浅草の鼈甲屋さんで見つけたのだったと思います
撥形の鼈甲製の根付は、浅草に限らず鼈甲屋さんでわりとよく見かけますので、機会がありましたらぜひごらんになってみてください~。

三味線の帯留めは、京都へ旅行した際に和装小物店「きねや」さんで見つけました
きねやさんでは、水牛の角で作った帯留めをたくさん作っておられるのですが、可愛いデザインのものがたくさんあって楽しいですよ
きねやさんは、日本橋三越にも時々いらしてますし、最近はネット販売もされてるみたいです

あと、よくつけている銀の根付は、浅草の文扇堂さんで見つけることが多いです。
文扇堂さんは扇子屋さんですが、根付も気の利いたものを取り扱っておられますよ
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やっぴーさま (藤娘)
2008-02-18 07:25:44
一般発売日から少し経ってから、「あ、そういえば文楽のチケット発売になってるけど、土日はもう無理だよなあ……」と思って見てみたら、珍しくまだ空きがありました
(でも、記事に書いてあるとおり第2部は、その時点ですでに土日のは売り切れてましたね……

ただ、私が買った時点ですでに残席わずかとなっていて、当日は「満員御礼」になっていましたので、ほかの日のチケットもたぶん同じような感じだったんじゃないでしょうか。
東京での文楽人気は、まだまだ続きそうですね。
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agmaさま (藤娘)
2008-02-18 07:37:17
歌舞伎の封印切もよくできた作品だと思いますが、「本行」の文楽のほうもぜひ一度ごらんになると良いと思いますよ~

東京での文楽公演のチケットがあまりにも取りにくくなったので、何年か前から、「あぜくら会」での先行発売も席数が限られてしまったようです。
でもそのぶん、「あぜくら会」ので取れなくても一般発売で取れるということもあるのかもしれませんね。

本当に、東京でのこの文楽人気は、いつごろから過熱してきたんでしょうかね……。
初めて観たころは、これほどじゃなかったと思うのですが……
ハマっていたころは大阪の文楽劇場にも観に行ったことがありますが、「義太夫の本場」大阪は当日券も出てるくらいなんですけどね……。
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