Entrance for Studies in Finance

コンプライアンスコスト(compliance cost)

 コンプライアンスcomplianceとは法規制などを順守することを指し、この順守に要するコストがコンプライアンスコストである。ここで法規制には税制や会計の問題も入り、法規制などの範囲には、社会的道徳的規範も入る。順守するための会社の体制を作る経費、規則の整備、人員、教育、組織構造、などの経費が幅広く入る。規制に違反した結果生ずる罰金・和解金などは膨大になる傾向がある。また企業イメージを損ね、企業の存立に影響することもある。

 企業統治corporate governance元年 企業統治指針の適用が上場企業に開始された2015年のこと。企業統治指針(東証―金融庁で作成 2015年6月適用開始)・・・また2015年5月には改正会社法施行されている

 そこで改革の肝は取締役会の監督機能強化(社外取締役の事実上の義務化。東証1部企業の8割が独立社外取締役を複数置くように変化 なお全体の9割は伝統的な監査役会設置会社(監査役は議決権をもたないのでガバナンスを果たしえないという意見あり)。会社法施行後 監査等委員会設置会社が増えた。指名委員会等設置会社は少ない。中長期の経営戦略 経営トップの後継者系計画の審議策定)。経営経験などを重視した社外取締役の人選(社外取締役の資質。役割の明確化)。役員人事プロセスの客観性を向上。CEOのリーダーシップ強化。

2001年米国でエンロン事件
2002年米企業改革法SOX法
2003年商法改正 東芝 ソニーなどが委員会設置会社へ移行
2005年会社法施行 種類株の発行などが柔軟に
2006年決算情報に関する内部統制報告書の提出義務付け(金融商品取引法制定 施行は2008年)
2014年スチュワードシップコード 投資家に企業との対話促す行動指針
2015年会社法施行 社外取締役導入促す
2015年コーポレートガバナンスコード 企業統治指針適用開始(取締役会の強化 持合い株解消など企業に行動促す指針)
2018年コーポレートガバナンスコードの改定

 コンプライアンスcompliance違反が明白である場合、違反に対して厳しい罰金・和解金が求められる傾向があるほか、義務に違反したため、訴訟・司法費用さらに刑事罰などに発展することもある。法規制のほか、社会的規範に対する違反を含めることもある。このような違反行為に対して、購入拒否・取引停止など消費者や取引相手の行動が生ずることもある。企業はこうした違反を犯すことを、業務遂行上の重大なリスク(operational risk)の一つとしてとらえて、それを防止する体制を作る必要がある。法規制さらには社会的規範を積極的に遵守して、その中で競争する社内文化の構築が必要であるが、企業意思の決定は、経営トップの意思が強く反映する。したがってこうした社内文化の確立には、経営トップの意識改革がなにより重要とされる。
法規制に対する違反 罰金・和解金は拡大の傾向にある
 被害が発生した 被害者に対する賠償金 裁判費用など司法費用
 製品に問題があった 賠償金 商品回収交換費用の発生
 イメージの悪化 ブランド価値の低下 虚偽記載
 このような問題の対象となる法規制の分野は多様である。伝統的な問題としては、競争に関する不正や脱税がある。規制違反が起こす問題の大きさを認識して、防止(教育研修の実施・注意喚起文書の配布・チェック体制の整備など)に努める必要がある。

 背景には 株主代表訴訟の問題(企業は不正を行い会社に損害を与えた会社役員を訴えねばならない―逆に言えば経営者は自身の責任を追及される可能性がある)、内部告発の問題、刑事訴訟法改正の問題なども絡んでいる。これらは総合して、企業の不正がこれまでより表面化しやすくなっているし、また経営者はコンプライアンス体制を積極的に整備する必要がある。

株主代表訴訟(会社が役員を訴えない場合に株主が役員の責任を追及するもの 17年4月 オリンパスの旧経営陣16人に判決。東京地裁は6人に賠償責任を認め総額約590億円をオリンパスに支払うよう命じた。・・・裁判は継続。実際には金額は個人で支払えない。会社役員賠償責任保険に入る企業が増加。)
企業の不正行為が従業員の通報 内部告発により明らかになることが少なくない。2004年に公益通報者保護法が制定されたことも切っ掛けになっている。2015年の企業統治指針でも、通報の窓口が経営陣から独立した窓口の設置を求めている。通報したことで不利益を被らないことも重要。
2016年改正刑事訴訟法成立。他人の犯罪の捜査に協力することで 訴追の免除 求刑の減刑うけられる。金融商品取引法 独占禁止法違反 租税法違反なども対象。

 以下は法規制違反の例示である。企業活動の国際化により、問題は海外の法規制との間でも生じる。
 カルテル行為に対する課徴金・罰金(内外)
 競合他社との接触 他社の談合を聞いているだけで有罪 情報交換そのものもアウト
 リスクを避けるには、カルテル行為につながる情報交換は同業他社としてはならないことを徹底する必要がある。また心の中で必要悪と考えている限り繰り返す。
 米国では最初にカルテルを申告した企業が罰金を免除される罰金減免(リニエンシー)制度がある
 刑事訴追行政処分(罰金と刑事罰) 民事訴訟 株主代表訴訟
 古河電機工業 2011 2億ドル
 矢崎総業 2012 4億7000万ドル(矢崎総業は米国のほかヨーロッパ、中国でも摘発を受ける常連 2014年8月までで800億円を払った)
 パナソニック・三洋電機 5653万ドル
 日立オートモテイブシステムズ 2013年9月 1億9500万ドル
 三菱電機 2013年9月 1億9000万ドル
日本郵船 2014年12月 5940万ドル
 米国のFCPA 海外腐敗行為防止法 Foreign Corrupt Practices Act
外国公務員に対する企業の贈賄行為を禁止する法律 1977年に制定 2010年頃から司法省とSECの積極的解釈で摘発増加
 規制対象は米企業 しかし外国企業も米企業と共謀 不正な支払が米国内の場合は適用受ける 米企業が不利にならないように
 摘発範囲拡大
 2013年4月 パナソニックの米国子会社が外国政府関係者への贈賄の疑いで当局の調査を受けているとの報道
 2014年3月 インドネシアの公務員への贈賄容疑で丸紅が摘発受ける 罰金約90億円で和解 火力発電所の設備受注のため国会議員や国有電力会社幹部に賄賂を贈る 仏重電アルストムの米国法人が絡んでいたため摘発される
反キックバック法 虚偽請求取締法
 オリンパスによる医師への過剰接待 医療機器の使用方法のトレーニングに当たり多額の旅費食費を支払う
 医療機器の販売で贈賄を繰り返す 内部告発には多額の報奨金
 オリンパス : 社内体質は古くコンプライアンスを軽視する根深い企業体質
         2011年11月 巨額粉飾露呈時にアメリカ子会社で表面化 2014年2月になって開示
         今後数百億円の制裁金を米司法省から課せられる恐れ。 
 第一三共のアメリカ法人 同社の薬剤を処方した見返りに医師らの謝礼金 これに対し3900万ドルの和解金支払いで同意(2015年1月)
欠陥のある商品を販売 リコール(製品の回収)を怠った 発生した事故の届け出を怠った
 ホンダ 2015年1月 対米運輸省高速道路安全局 7000万ドル
 タカタのリコール問題(2014年10-12月)
適切な情報開示を怠って商品を販売した
2007年の金融危機についての原因追及(甘い審査でローン商品を組成 ローン証券化商品を十分な情報を開示せず販売した)
1989年金融機関改革救済執行法を活用 対象範囲広い 罰金の引き上げ 立証責任の軽減
  2013年にはJPモルガンチェースが130億ドル支払で和解。
 最大手JPモルガンチェース ブッシュ政権の要請でベアスターンズなどを救済合併
 しかしベアスターンズが手掛けたMBS販売で罰金(2013年11月発表 130億ドルで和解 これがこの時点で史上最高額)
 2013年 米銀最大手JPモルガンチェース(罰金を支払ってなお2013年の利益は180億ドル) 総額130億ドルの罰金支払で和解 2008年金融危機の引き金になった住宅ローン担保債券MBSの不正販売(返済の滞る可能性が高いと予測しながら利回りの良い証券化商品)として販売
 ベアスターンズやカントリーワイド 2006年頃 甘い基準でローンを拡大
 JPモルガン バンカメ 借り手の債務減免などに加えて 2013年ー2014年に司法取引に追い込まれた
   2014年にはつぎの史上最高額 バンクオブアメリカが罰金166.5億米ドル(170億ドル)で司法省と和解 2014年8月21日 裁判外の決着で合意
  96.5億ドルは罰金賠償金 70億ドルは顧客のローンの返済支援
  2008年にサブプライムローン最大手のかんとりーワイドファイナンシャルを買収するミス メリルリンチを買収 
  両社ともMBSの不正に関与 本体の関与分は限られている むしろ買収の責任者として司法省の追及受ける
  カントリワイドが実行転売した住宅ローン債権の買戻し要求
  住宅証券の不正販売に対して 2014年7月のシティG 70億米ドル支払合意和解に続くもの
2014年8月にはゴールドマンサックスと連邦住宅金融庁の間でも31億5000万ドルの支払でも和解が成立。
  不正販売したRMBSを買い戻す。上乗せ額は約12億ドル。問題は2005-2007年に2公社に販売した分。
  住宅ローンの情報開示に問題がありリスクが十分に知らされなかったとの主張。
  米国の4大銀行(ウェルズ JPモルガン バンカメ シティ)
  勝ち組はウエルズファーゴ 投資銀行業務から距離を置き堅実 
  2008年シティにせりがって資産の傷みすくなく米国東部支店網もつワコビアを救済合併
  シティ 収益の半分を国外で稼ぐが経営リスク管理がむつかしい 日本ではリテール戦略不発
  2014年6-7月 シティと和解 70億ドルの罰金支払い(司法省100億ドル シティ40億ドルで両者は交渉開始) JPモルガンに比べてMBS販売額は数分の1 住宅ローンの証券化商品で最大の販売額を上げたバンカメが今後の焦点
自ら脱税した 国内・国外
他の脱税をほう助した 米富裕層への脱税ほう助
 2014年5月 クレディスイスに対して29億ドルの罰金
紛争行為等を行う国と取引した 米制裁対象国との不正取引
 対敵通商法 国際緊急経済権限法違反

2014年6月30日 BNPパリバ(13年通期の最終損益は48億ユーロ) 89億ドルの罰金(報道では100億ドルを超えるとも当初報道される フランス政府の反発 前倒し人事で米当局の意向受け入れ示す)+ドル資金の決済業務の一部の来年1月から1年間禁止+ドレクセルCOO(ボナフェCEOに次ぐナンバー2)の引責辞任(6月に職を辞し9月に引退)他10人以上解雇 米国が金融制裁の対象としたスーダン籍とイラン籍の顧客との間で金融取引きを続けその事実を隠していた(イラン スーダン シリア キューバをテロ支援国家としこの4ケ国との金融取引きを禁止されている。)。 
 仏BNPパリバ 罰金89億米ドル+ドル決済の一部停止
 違反取引8年 決済手段の提供 総額88億ドル2014年6月30日発表
対象国との取引 米国市場での事業制限などにつながる 例 対イラン
  2010年7月1日 米で制裁強化法案
  2010年7月 米コーエン財務次官補が来日 メガ3行にイランとの取引自粛求める 
  2010年8月10日 トヨタがイラン向けの輸出を全面停止したことが判明(5月分が最後)

2017/06/19

財務管理論 後期

再生紙偽装の発覚:企業性善説の限界LE
内部統制ルールの法定義務化LE
日中の食中毒事件LE
Gulf of Mexico oil spill(2010)LE

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