Entrance for Studies in Finance

新興国経済の混乱

 新興国経済の混乱。先進国が超低金利政策をとることで、新興国に資金が流入していた。 しかし米国が量的緩和Quantative Easing(量的緩和第三弾QE32012年9月開始)を縮小することで(米長期金利が上昇 2008年末の1.5%から2013年秋3%程度まで上昇した)、新興国通貨の下落(通貨安 新興国からの資金流出)が始まっている(縮小の背景には民主共和両党の財政合意と雇用情勢の改善があった。2013年11月の失業率は7.0% 10月は7.3%)。

 2013年12月19日のFOMC発表文は、量的緩和の縮小には来年後半までを要し、失業率が6.5%を下回っても十分な時間が経過するまでは、事実上のゼロ金利政策を維持するとした。2013年12月 米国債などの月間買い入れ額(850億ドル)を月100億ドルの減額した(1月から750億ドル)
 1)金利格差から新興国に流入していた資金の逆流 2)新興国経済の脆弱さ:経常収支赤字拡大、インフレ加速など 3)中国経済失速リスク  脆弱5ケ国:フラジャイル5(トルコ 南アフリカ インド インドネシア ブラジル)2013年12月の会合では失業率基準(6月にバーナンキは2014年半ばにも失業率は7%程度に低下して量的緩和は終了すると発言していた(そこで7%への低下は量的緩和の縮小を催促することになった) また2012年12月にFRBは失業率が6.5%を下回るまで利上げはしないと宣言していた)を6.5%から引き下げる案も出されたほか、物価上昇率が1.5%を下回る限り緩和を続ける案(上昇率に下限を設ける案)も出された(これらの数値は利上げの条件を示したガイダンスとみられる なおFRBのインフレ率長期目標は年2%程度に対して直近のインフレ率は1%程度)。これらは金融緩和の解除の観測が高まって金利がはね上がることを懸念した意見表明と考えられる。

forward guidanceに振り回される新興国  金融政策の先行きを明示する政策をforward guidanceと呼んでいる。今回の場合は、利上げの厳しい条件(たとえば失業率6.5%未満)を事前にしめすことで長期金利を安定させようとするもの。日本銀行が1999年にゼロ金利政策を導入したとき、ゼロ金利継続の条件を示し「時間軸政策」と呼ばれたが、これが先行例だという。低金利政策を行っているとその解除をめぐって憶測が広がる。そこで出てきたのがこの政策である。しかし政策の先々の方針を示すことで、強い緩和姿勢は示せるものの、政策の変化を自ら打ち消してしまう面がある。新興国の立場からはこのような先進国のご都合で自国経済が振り回される結果になっている。

米国の金融政策の変遷

2008年3月 ベアスターンズ実質破たん
 2008年11月 MBSなどの購入方針発表
   2008年12月 事実上のゼロ金利政策導入 1%→0-0.25%
2009年3月 QE1 2010年3月まで 長期国債の購入決定
 2009年10月 長期国債の購入終了
 2010年3月 MBSなどの購入終了(10年2月の失業率9.7% 10%は割り込む)
 2010年11月 QE3 2011年6月まで 長期国債を2011年6月までに6000億ドル購入
 2011年8月 2013年半ばまでの低金利政策継続方針発表
 2011年9月 ツイストオペ開始(短期の国債を売却 同額の長期国債を購入 総資産を増やさない方針 QE3への期待高まる)
 2012年9月 QE3
 金利上昇は債券 債券投資信託からの資金流出を招く。
 デフレを懸念する側は、バーナンキの量的緩和を支持。批判する側はバブル化を懸念。
 2013年12月 量的緩和縮小の決定
2014年1月 量的緩和縮小の継続 住宅ローン担保証券を350から300 長期国債を400から350に引き下げる) 1月29日(FOMC 20140128-0129 0131に退任するベン・バーナンキ議長の最後の仕事となった 後任はジャネット・イエレン副議長 バーナンキ在任中200602-201301に2008年のリーマンショックなどがあった) この減額措置の継続 2月からは650億ドルとする。イエレンはパートタイム労働者の増加など雇用の質を問題にしているとされるので、日本とも状況は似ている。
 イエレンは2月11日の下院での証言で「失業率が6.5%以上で物価上昇率が2.5%を下回る水準にとどまり、長期インフレ期待が引き続きよく抑えられているかぎり」現在の超低金利政策を維持するとしている。「インフレ率が2%を下回る水準を常態化させず2%に戻すとも」

FRB


 物価の安定と雇用の拡大はともにFRBの法律で定められた責務 イエレン氏はFRB在任10年以上 1977年に雇用もFRBの責務とされた。雇用重視からゼロ金利はなお長く維持(上昇は住宅金利上場を通じて国内景気の冷え込み 国際的には新興国からの資金流出)とみられる 資産バブルや金融市場のゆがみを懸念する意見あり すでに2012年に5月に1.6%だった長期金利は2014年1月上旬には3%まで上昇  対抗馬であったサマーズ元財務長官は金融緩和ハバブルを招きかねないとして財政出動を主張。共和党保守派は量的緩和の即時停止と財政再建の加速を求めた。  FRB内には 量的緩和を批判しFRBの使命を物価安定に限るべきとの議論もある(フィラデルフィア連銀のプロッサー総裁など)。量的緩和は市場機能の喪失 財政赤字への市場の規律が働かない。マネタイゼーション(中央銀行のよる財政赤字穴埋め)との批判もある。  元議長ボルカーも雇用拡大への言及に慎重。インフレ退治の観点から言及を避けた。だがバーナンキは不況回復とデフレ回避が大きな目標とした。これに対して金融政策に裁量の余地はなく 金融政策にできることは少ないという考え方もある。

米国の金融緩和政策は金利がほぼゼロに低下して政策金利の調整では金融政策の効果を上げられなくなったことから、資金供給量を増やすことで景気の下支え効果を担う政策として2008年に導入された。結果として実体経済の回復基調を導いた反面(失業率は金融危機前には5%前後 金融危機が深刻だった2009年半ばには10%台 これは26年ぶりの水準 2012年8月になお8%を超えていた失業率が13年11月には7%に低下)、FRB資産は膨張した。2008年の金融危機前が1兆ドルであった総資産は13年末には4兆ドルの水準にある。また金余りから株価が上昇(2008年の金融危機で10000ドル割れ もっとも悪化した2009年初めには7000ドル割れ 2012年8月に金融危機前の水準の13000ドル程度だったダウ平均は2013年12月上旬には16000ドル程度まで上昇)、余剰資金が新興国に流出して新興国は通貨高になり、新興国と先進国の利害対立が大きくなっている。   低い成長率(2012年実質GDP成長率2.2% 13年第三四半期 第四四半期 平均で年率3.5%超え)に比べて低い失業率(13年6月7.6% 11月7.0% 14年1月6.6%)  雇用の質が悪化している。結果として早すぎる金融緩解除観測を招いている。→ 雇用の脆弱性の強調 このような雇用への関心の深さは日本銀行との対比で注目できる(日銀は雇用について関心を払っているだろうか?)。
key words
フィリップス曲線
 オークンの法則 経済成長と失業率の負の相関
 テイラールール 
背景にある非正規雇用の増加。パートタイム雇用の増加(割安な労働者だけが増加) 企業は正社員の増加に慎重。労働者は労働参加慎重

量的緩和食傷と新興国の経済混乱
 アルゼンチンでペソの急落 タイでは政情不安 インラック政権 バーツ トルコ:エルドアン政権の汚職など政治スキャンダルなど リラは安値に 大幅な利上げ(2014年1月 2013年8月) 2001年ニリラ暴落 ハイパーインフレを経験 インドネシア:経常黒字定着せず 経常赤字でルピア安 ブラジル:連続金利引き上げ レアル安がインフレ圧力生む 南アフリカ:5年半ぶり利上げ 経常赤字 通貨安が背景 インド:貿易赤字縮小(2013年12月) ルピー買戻し 景気減速と物価高 韓国や中国:経常黒字の定着 → 通貨高進む

新興国
先進国の金融緩和縮小を受けて、新興国は金利を引き上げて通貨防衛を始めた。金利の引き上げには、通貨防衛と輸入物価上昇圧力への対抗との2面がある。もともとインフレの兆候(インド10% トルコ7%台 ブラジル6%近い)があり、それを自国通貨安が促す恐れがある。反面 利上げは新興国経済の成長率を押し下げる。もともと緩和マネーで資本輸入で赤字が拡大していた国(株式や不動産で過熱した国が危ない)。2014年1月 アルゼンチンペソの急落(20140123-24) インド トルコ 南アフリカなどが通貨防衛のため利上げ(20140128-29) 中國では影の銀行の懸念高まる。中國では公共投資拡大から信用拡大に経済政策が変化。その一翼を影の銀行が担う。中国の減速は新興国の輸出を直撃。経常収支を悪化させた。また商品価格がかつては上がり、つぎには下落。輸出の減少と同時に交易条件も悪化した。中國は影の銀行の規制に乗り出したがそのことが中国での金利上昇、さらには中国経済の押し下げにつながる懸念もある。
 新興国ではフィリッピン マレーシア メキシコ 2014年に入り資金流出止まる傾向。
 こうしたなかでアルゼンチンショック2014年1月23日 ペソの大幅下落1ドル6ペソ台後半から8ペソ前後に急落  IMFの要求インフレ率を従来より10%高く変更 それに伴う通貨調整 中国の景況の悪化でアルゼンチンの中国向け農作物輸出が伸び悩む観測 ペソ売りへ  そのほか輸出相手のブラジル 欧州諸国の景気停滞 主要輸出品の穀物価格低迷 通貨レアルの下落も背景

   タイ 経常収支の大幅な赤字中國などへの資源輸出の減速と堅調な内需の矛盾)の改善進まないインドネシア 2013年6月5回で計1.75%の利上げを実施(11月12日0.25%上げて7.5% 12月は据え置き)。2014年2月13日 政策金利据え置きを決定 2013年初めから13年末までで約2割のルピアの下落もあり8%近い物価上昇率を背景に 最低賃金が急騰 日本の進出企業にも大きな影響 ブラジル インドにくらべて インドネシアルピアはとくに弱い。

  インド 2010年10月 2会合連続の金利引き上げ決定(0.25%ずつ)で7.75% 12月も据え置き 現在の消費者物価の上昇率は10%近い(11月は11% 卸売物価の上昇率は7%台)。背景には経済成長率の低迷 2013年7-9月 4四半期連続で4%台 潜在成長率の7-8%を下回る 2014年1月28日政策金利を0.25%上げて 昨年9月以降だけで以降0.75%

  閣僚の汚職で政権が揺れているトルコ2013年12月中旬摘発 エルドアン政権のもと閣僚の息子らの汚職 検察警察の担当者は更迭 1月下旬1ドル2.39リラのリラ安 2013年10月 1ドル2リラ前後から リラ安進む。 こうした中1月28日1週間物リポ金利を4.5%から10%へ大幅利上げ リラ安に歯止めかける 2.18リラまで戻す(他の新興国の利上げもあり新興国不安後退) 輸入減少で経常赤字(2013年は650億ドルの経常赤字 輸出伸び悩み輸入依存 トルコの経常赤字は新興国のなかでも高い 8%近い 南アフリカが6%程度 ブラジル インドネシア インドは4%程度 共通した特徴は国際商品市況の影響大きい 通貨安が輸入物価を上昇させる 輸出産業少なく 通貨安の恩恵少ない)縮小か しかし景気後退 税収減 失業増加などの副作用が懸念される

 ブラジル2013年11月27日 ブラジル中央銀行は政策金利を0.5%上げて年10%にすると発表。6会合連続の引き上げ(2013年4月)以来の合計は2.75%。金利2ケタは2012年3月以来1年8ケ月ぶり。背景には物価の上昇(10月 前年同月比で5.84%) インフレけん制dが景気減速(13年)7-9月は前期比0.5%減 前年同期比2.2%増 の副作用も 消費の低迷(消費では輸入品の比率上昇) 税収の落ち込み 公共投資 社会保障費 公務員賃金を抑制 財政規律を維持 ワールドカップ開催を控えて 電力 水道などインフラに不安

欧州情勢
 欧州では2009年10月のギリシアの政権交代で巨額の債務隠しが発覚。高債務国に経済危機が広がった。2010年5月以降 欧州連合 国際通貨基金がギリシャに総額2400億ユーロの金融支援を行った。アイルランドヤポルトガルも支援を受けた。同時に金融システム不安がひろがり欧州中央銀行が2回の長期資金供給で約1億ユーロを供給。2012年9月には南欧国債の買い取り策などを導入した。
 2012年9月 スペインヤイタリアが債務不履行になるとの観測もあるなか、欧州中央銀行は国債を買い取って金融市場を安定させる政策(無制限買い取り宣言)に踏み切った。アウトライトマネタリートランザクションズOMTという。劇的に10年物国債金利が低下 株価 ユーロ相場も回復 ユーロ圏規模で 銀行監督 銀行破たん処理 預金保険機構 を一元化する 11月前にECBは主要128行の財務を総点検する計画。一部の金融機関が資本不足が判明する展開。金融機関は貸し出しに慎重になるとされる>  銀行同盟のうち預金保険や欧州共同債はドイツの反対で手つかず しかし銀行監督はユーロ圏での一元化を2014年秋に始動 銀行破たん処理についても2013年12月 加盟国間で一元化案で合意 破たん処理委員会と基金(550億ユーロ規模)を新設 2015年の導入開始を目指すことになった。ユーロ圏で破たん処理することで 問題銀行を適切ナタイミングで退場させる

 預金保険については域内で預金保険の適用範囲を10万ユーロ(約1400万)にする基準は統一 速やかな払い戻しでも合意。  2013年8月 ユーロ圏失業率は12% 依然として歴史的高水準(7月と同じという意味で下げ止まり) 景気は改善しつつあるが 景気回復傾向 金利も落ち着いているが雇用情勢は悪い。金融危機を経て南欧諸国 ギリシャ スペイン イタリアなどではととくに若年失業率がはね上がっている。

 平均の失業率が2008年の7%台が2013年には12%を超えるまで悪化。これに対して若年失業率は15%前後から2013年には24%水準に上昇。スペイン、ギリシャでは55-60%の水準に達している。  2013年11月欧州中央銀行は利下げ(過去最低の0.25%)(10月ユーロ圏の消費者物価上昇率は0.7%に低下 ・・・デフレ懸念) 低利・長期の資金供給オペ(LTRO)を少なくとも2015年7月まで継続し、資金を潤沢に供給するとした(資金供給を受けた銀行は早期に返済するスタンスがあり、ECBの資産規模の増加は大きくない。2011-12年の資金供給では早期に返済してきた)。

  その後欧州中銀ECBは追加利下げに否定的。2013年12月5日 ECBは政策金利の据え置きを決めた。2014年ノユーロ圏の成長率見通しは年1.1%。消費者物価上昇率も同じ(2013年実績見通しはマイナス0.4%と1.4%)

ユーロ高の背景はドイツ(13年12月大連立のメルキル政権)に主動されたユーロ圏の経常黒字の拡大にある。黒字幅は2013年上期でGDP比2.3%(反面 スペイン イタリアなど域内中小企業向け貸付の多い地方金融機関には不良債権 ユーロ高はドイツ以外には打撃 ドイツは輸出の半分がEU向け その輸出が回復2013年9月の貿易黒字は204億ユーロで過去最高 ドイツの経常収支の黒字はGDP比6%超える ただしドイツの輸出拡大はオランダなど周辺国を潤す側面がある)

  欧州正常化を試すかのように2013年7月クロアチアが欧州連合に加盟(加盟28ケ国目 域内5億人)2014年1月ラトビアガユーロを導入した(ユーロ導入は18ケ国目)。債務危機以降初めて実施される2014年5月の欧州議会選挙の結果が注目されている。

中国リスクについて
  円安への転回
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