Entrance for Studies in Finance

有事モードの企業財務

 有事モードの企業財務とは、資金調達環境の急激な悪化に対応して、手元資金厚めをとくに優先する事態を指す。その内容は①長期資金調達環境の悪化(起債環境の悪化)さらには②銀行借入の困難といった事態を含む。
 しかし有事モードの企業財務には、経済環境の急激な悪化という意味もしばしば含まれている。このような急激な経済環境の悪化は、消費マインドの落ち込みによる売上の急減(→生産・投資の急減)を伴う。手元金が不足するのは、過去に予定した支出(投資CF)が続くなか、売上(営業CF)が急減するからである。営業CFは在庫の増加によっても減少する。その結果、純現金収支(=営業CF-投資CF)急減や赤字化も生じる。企業は売り上げの急減に関わらず利益を上げるため、固定費・変動費などの圧縮に努める。有事モードの企業財務は、財務内容のリストラの議論につながる。

1) 手元資金の確保を中心とする議論
 運転資金の確保が最優先でともかく現預金を積み増して守りの財務に徹する。
 運転資金とは 運転資金=(在庫+売上債権)ー買掛債務

 そのためには短期借入増やすケースもある。これは(イ)短期借入がまだ可能であること、(ロ)借入金利というコストを払っても手元資金を積み増すことが優先されていることを示している。
 現預金の積み増し、守りの財務とされる特徴は、資金の流出をともかく避けようとする企業行動に現れる。生産能力増強など設備投資、研究開発投資は控えられる。経費の節減が図られる。そして配当、自社株買いなどの資金流出も抑制される。 
 手元資金対策優先
 自社株買い控える
 配当控える(配当据え置きから減配)
  配当を業績連動型にした企業が増えたことも影響
 注意したいのはこうした決定は経営者が自ら決定することで確定するということだ。交渉が必要なことでなく、確実に実行できる。
  
 CPや短期借入の増加 2007年後半から2009年前半まで
 とくに顕著なのは2008年9月リーマンショック以降年末まで
 2007年後半から2009年前半までの企業財務

 長期資金調達が行われないあるいは控えられるのは、イ)長期資金調達が困難状況がある(金利が高騰している 審査が厳格化している 投資家が安全志向に陥っているなど)、ロ)、ロ)設備投資、研究開発投資などが抑制されることで、長期資金のニーズが減少していることも示している。これは当面の資金繰りcash managementが企業の最大の関心事にということだが。

2)財務リストラを中心とする議論
 背景には、企業環境(経済環境)について、短期的に今後の見通し困難が生じていることが関係する。また売上が急減するなか過去に予定した支払いが実行され、手元資金の急減が生じていることを繁栄している。
 そのことが新規設備投資や研究開発費を抑制につながる。配当などの資金流出も抑制され、手元の現預金の積み増し現金を積み上げることが優先される(公にはM&Aへの備えなど)。
 しかし単に先行きが不透明であるだけでなく、中期的にみても売上の急減が回復しない、設備投資や雇用の過剰があらわに重なっているケースもある。
 そのときには、設備と雇用の過剰の解消が課題のためにも、不要不急の設備投資を急がないこと、場合により先送りすること。新規のものは慎重にすること。などがより強い命題になる。
 2段階にわけて考える。①設備投資抑制すると減価償却費を増やさないかあるいは減らす効果が働く(逓減法の場合など経費節減効果)。②借入返済が予定通り進行していれば、新規借り入れがないだけで有利子負債削減効果が生じる。
 ここで一般論として企業は不採算事業からの撤退で積極的に有形固定資産が減少させる(逆にいえば採算事業に企業の資産をシフトさせる)。過剰な生産設備の削減。スリム化。

資産リストラのより具体的内容
不採算事業からの撤退
 工場閉鎖 生産・販売拠点の統廃合
 工場・生産設備 売却
生産設備の減損処理
 設備投資・研究開発費の抑制で手元資金確保
 リース契約見直し
 減損処理:将来の予想収益から算出した価格または売却可能価格
 設備の価値を引き下げ償却費を減少させる 
 生産設備の減損リストラ
のれん代の償却
 M&Aにともなう「のれん代」の償却 要するに膨らんだ資産を減らすこと。

 固定費を引き下げる 他社との提携余地を増やす狙いもみえる
 (最先端設備は帳簿価格高い=減損リスクも高い 減損処理をすることで簿価を引き下げ減損リスクを解消する)

人件費の削減
 賃金抑制 役員報酬カット 従業員給与のカット
 人員リストラ 人員削減 人件費は固定費化しているとよく指摘される。常用雇用の従業員の人件費は確かに固定費である。

 棚卸資産(在庫)の圧縮(手法としては在庫管理の強化 見込で在庫を増やさず在庫回転率を引き上げる 設備投資の抑制とともに営業CFの回復に効果あり)過剰在庫は在庫評価減など収益下押し要因 かつ現金収支改善につながる
 工場レベルでも仕掛品の圧縮が重要。在庫ゼロの迅速な供給体制が目標(完全受注生産は在庫リスクが低いので目標 顧客ニーズとのバランス)。

販売管理費抑制
 日常経費も抑制
 広告宣伝費も抑制

原材料費 原材料の種類を減らす
設計生産方法の見直し 生産を絞り込む
販売促進費
物流費
拠点統廃合(都心物件割安化による本社移転含む 顧客利便性 本社機能の集約)

営業方針の見直し 例:条件の悪い案件を受けない
 建設会社の場合 代金立替案件の受注抑える
         他方で立替案件の代金回収を進めることは債務圧縮につながる

 借入を抑制。必要な資金は手元の余裕資金(グループ内資金)を振り向ける。棚卸資産の圧縮や売掛債権の早期回収など資金効率の改善によりそもそも運転資金需要を減らす。
 短期借入で済ませる。市場が混乱しているときは一時的に上乗せ金利が上昇することも。そうした混乱時の借入を避けるという面も。企業は1990年代後半に銀行の貸し渋り(与信管理の強化)に苦しんだことで銀行に頼ることのリスクを経験済み。
 日本の市場が混乱しているときはアメリカで。あるいは逆にアメリカの市場が混乱しているときは日本でというように、混乱している市場を避けることも方法。

有事の企業財務の目標は高い手元現金水準の確保にある
 リスク投資を抑制する。現預金、債券など元本保証商品への投資に徹する。資金は信用力の高い金融機関に退避させる。 
 潤沢な手元資金を確保することは、銀行の融資姿勢厳格化に備えて手元資金を厚くもつことで運転資金を確保し雇用の安定を維持することにつながるという言い方もある。厚い手元資金は、顧客企業の信頼。信用取引の基礎となる。
 需要増を当て込んだ増産も避ける。これは需要の見落としに不確実性が高いこと、あるいはそもそも中期的にみても設備は過剰で、その解消が課題だという判断などが重なっている。

2009年3月決算
 資産効率の悪化 資産の圧縮より利益の低下のスピードが早い
 自己資本比率の低下 内部留保の低下
 このほか市場要因も影響する
 商品価格の低下   棚卸資産
 株価の低下     持ち合い株の期末時価評価
 投資外国為替の下落 投資有価証券
 最終赤字
 債務超過

 まずは資産の圧縮 棚卸資産 受取手形・売掛金圧縮
    手元現預金厚く 現預金 短期有価証券 増やす
 自己資本対策 第3者割当増資 など

3)企業再生再建手法としてのDESなど財務リストラ
 この財務リストラの手法に一つにdebt equity swapやdebt debt swapなどがある。
 以下はこのブログのequity financingからの説明文引用であるが、これらはゆき詰まった企業の再建手法として別途理解した方がよいと判断している。

 たとえば、企業を再建するために、債務と株式の交換に債権者が応じるdebt equity swap:DESをご存知ですか。この場合、債務比率は一挙に小さくなる(自己資本比率が一挙に上昇する)という劇的な効果が生じます。債権者は、企業の再建再生に協力することで、貸したお金が将来、株式が上場されて、あるいはファンドに買取られて、現金として回収されることにかけるわけです(なおここではもう一つ仕掛けがあり、普通株ではなく優先株を発行させて債権者は割増配当をしっかり要求するわけです)。これは財務の構造という点では大きな変化ですよね。債務漬けだった企業が財務の数値上は優良企業に変わるわけです。
ほぼ同じものですがdebt-debt-swap:DDSがあります。これは債務を株式ではなく劣後債務(劣後債 劣後ローンなど)に切り替えることに債務者が応じるというものです。貸し手の金融機関にとっては、貸付金を債権として保有を続けたいという債権者の意向を生かしたものといえます(債務者の側だって株をもたれることには抵抗があるかもしれません)。金融監督機関の側が、この劣後債務の資本性を認めれば、DDSでも債務者の財務比率の改善効果が生じます。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.

有事モードから平時モードへの転換
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