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やっぱり教育が大事?

2009-08-15 | Weblog
VoxEUでHanushekとWoessmannが「やっぱり教育は経済成長にとって重要だ」という論説を書いています。「教育は人的資本を高め、したがって経済成長に寄与する」という命題は一見自明に見え、また、それを支持する研究も多数存在しますが、他方でこれに疑義を呈する学説も少なくありません。

例えば、W.イースタリーの「エコノミスト、南の貧困と闘う」(東洋経済新報社 2003)では、1960年から1990年にかけて、各国の就学率は大幅に上昇したが、その間の経済成長にはほとんど効果がなかったと結論づけています。1960年から1987年の間に、アフリカ各国では人的資本が急成長したが、経済成長は惨憺たる結果に終わり、逆に、この期間に高い経済成長率を達成したアジア諸国は、人的資本も成長したものの、アフリカ諸国ほどの成長率ではなかった(Pritchett 1999)、とされます。(つまり、クロス・カントリーでみれば、人的資本成長率と経済成長率の間に明瞭な正の相関はない、ということです。)また、因果関係は「教育から成長」ではなく「成長から教育」だという説もあります(Bils and Krenow 1998)。つまり、将来の経済成長が予測できれば、教育投資の期待収益率が高まるため、結果として教育水準が上昇することになります。

これに対し、Hanushek and Woessmannは就学率などの教育の「量」ではなく、教育の「質」を考慮すれば、依然として教育は経済成長の重要な決定因だと考えます。読み・書き・算数等の認知能力(cognitive skills)が長期的な経済成長の鍵を握るというのが彼らの主張です。

ラテンアメリカ諸国は就学年数等の教育の「量」については高い水準にありますが、マクロ経済のパフォーマンスは良いとはいえません。実際に、1964年から2003年までの国際的な数学・科学のテストの結果と、経済成長のパフォーマンスとの関係を調べてみると、テストのスコアの悪いラテンアメリカとサブサハラ・アフリカ諸国は低い成長実績しか残しておらず、逆にアジア諸国はテストも経済成長も高いパフォーマンスを達成しています。また、ラテンアメリカ諸国内でも認知能力と経済成長には正の相関が見られます。

「就学率や就学年数よりも、教育の成果そのものが重要だ」とは自明に思えますが、教育の質を明示的に取り入れた実証研究は、まだまだ蓄積が不足しているということなのでしょう。更に言えば、Hanushek and Woessmannが取り上げたのは計測が容易な認知能力であり、数字に表れないヒューマン・スキルや組織資本、文化などの影響はブラックボックスです。

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