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南欧の財政問題と地下経済

2010-06-10 | Weblog
ギリシアに端を発した南欧諸国の財政危機はユーロ圏を席巻し、東欧も巻き込む兆しを見せていますが、VOXEUではMaurizio Boviが南欧の財政問題と地下経済の関係について寄稿しています。曰く、「公的債務-GDP比率と、地下経済とフォーマル経済との比率は密接に連動しており、当局の主要な政策課題となっている。」

Boviはイタリアのデータをもとに構築した公的債務の持続性に関するDSGEモデルの分析から、以下のように述べています。
(1) 公的債務残高と地下経済の大きさは連動している(地下経済の大きさは、フルタイムの雇用労働者に対するirregularな労働者のシェアで計測。irregularとはどういう定義?)。
(2) 地下経済の大きさは、租税負担の変化と財政支出の変動の双方に反応する。
(3) 財政黒字と地下経済の大きさには正の相関がある。1%の財政黒字の増加は、1%を若干上回る地下経済活動の上昇をもたらす。
(4) 高い税金は、経済活動を地下へシフトさせる(逆に言うと、低い税率は脱税のインセンティブを低める)。1%の税率の上昇は、1%以上の地下経済活動の成長を惹起する。このシフトは、課税ベースを徐々に浸食させる。
(5) イタリアの現在の財政規模(税収、政府経費ともGDPの50%のレベル)では、計画された歳入のうち、国庫に収まるのは約半分で、残り半分は脱税により地下に消失してしまう(!)

これはあくまでイタリアのデータに基づいたモデル分析の結果ですが、財政危機を前にした南欧諸国は緊縮財政を余儀なくされるというのに、歳入となるべきおカネがどんどん地下に流れてしまうのでは財政再建は覚束ないでしょう。

これにたいするBoviの処方箋は以下のようなものです。
(a) 高い公務員給与は地下経済活動を抑制する(収賄の魅力を減殺するため)。
(b) 公務員の数は、地下経済活動のレベルと強い正の相関をもつ。
(c) よって、公務員の給与を上げて、数を減らすのが有効な策である。脱税対抗策として、税率引き下げを補完する効果がある。

さて、実際、南欧諸国の腐敗corruptionはどの程度のものでしょうか。2009年のTransparency Internationalの腐敗認識指数(CPI; Corruption Perception Index)によると、ランキングされた180ヶ国中、スペインが32位、ポルトガルが35位、イタリアが63位、ギリシアが71位(この辺は先進国では最低レベルでしょう)、PIIGSの一員とされているアイルランドが14位です。ちなみにベスト3は上からニュージーランド、デンマーク、シンガポールで、日本は17位、米国が19位、最下位の180位はソマリアです。

腐敗corruptionは近年、開発経済学や移行経済学の分野でも注目される問題となっていますが、先進国レベルの経済でも未だにアクチュアルな事象であるようです。同じく公的債務の課題を抱える日本で同種の問題が生じることはまずないでしょうが、課税ベースの狭小さはかねてより指摘されている通りでしょう。新内閣が舵取りを誤ることのないよう期待します。

*一部表記を改めました。

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