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自己流経済学再入門、その他もろもろ

IQ in 経済学

2009-06-27 | Weblog
再びMalcom GladwellのOutliersから。
Outliersの第3、4章は並外れた知性の持ち主であるChris Langanの数奇な半生をモチーフに、IQの高さは成功のための十分条件ではなく、生きていくうえでの世知とも言うべきpractical intelligenceや、権利意識the sense of entitlement、自分を支えてくれるコミュニティなどの重要性を訴えます。IQのみでは不十分というのは確かに誰しも実感するところでしょう。

IQの話が出ましたので、ここでは経済学の中でIQがどのように扱われてきたかを眺めてみます。

例えば「行動経済学とIQ」なるエントリー。ここでは「(数学の試験の点数等で測った)認知能力が高いほど忍耐強い」という行動経済学の知見を紹介しています。ここでいう「忍耐強い」は「将来の報酬をディスカウントする割合が低い」、逆に「忍耐強くない」とは「将来の報酬をより低く評価する」ことを指します。例えば、行動経済学者の実験で、「今すぐ100ドル貰うのと、来年140ドル貰うのと、どちらを選ぶ?」と聞かれた際、認知テストの点数の高いグループのほうが、点数の低いグループより来年の140ドルを選ぶ人の比率が高い、といった結果が確かめられています。

もっと直接的に「より高いIQは、より賢い経済的意思決定をもたらす」というエントリーもあります。ここでは、高い認知能力とは、リスク計算に長けているだけでなく、戦略的な状況のもとでより協調的に振舞うことも含んでおり、より広義の概念として扱われています。つまり、Gladwellの言うpractical intelligenceも含んでいるといえます。

Chris Langanのケースは文字通りoutlier(外れ値)なので、一般論として、認知能力が高ければ、経済的に見てより合理的な意思決定(将来に備えて貯蓄する、自己投資に励む、衝動的な消費行動をしない、等々)を行うことができる、というのは納得がいきます(Gladwell自身もノーベル賞をとるにはイリノイ大学やノートルダム大学に入る程度の学力は必要だと言っています)。もっともこれらの知見は、「並外れた成功」を勝ち取るためにはIQだけでは不十分というGladwellの命題を否定するものではないでしょう。

その他、「保守主義的傾向と認知能力は逆相関する」という論文もあるようで。中味は見れないのですが、ちょっと気になる内容です。

最後に取り上げるのは、経済的不平等とIQの関係です。この分野のサーベイ論文であるBowles and Gintis(2002)では、「米国における親の所得レベルと子の所得レベルは、従来考えられてきた以上に強く相関している」、つまり、経済的な成功は世代間を通じて伝播される傾向にあり、裕福な家庭に生まれた子は裕福になりやすく、貧困家庭に生まれた子は貧困に陥りやすい、という事実から議論を始めます。そして世代間を通じた経済的不平等の要因を探っていくのですが、その中でもIQが世代間の所得レベルの継承に与える影響は極めて小さいと結論づけています。親のIQと子のIQは一般に高い相関を示しますが、IQの遺伝は所得レベルの世代間伝播には限定的な影響しか与えないということになります。

にも関わらず、Bowles and Gintisは別の結論にも達しています。曰く「親と子の収入レベルの相関のうち1/3は遺伝的要因で説明できる(残りの2/3は環境的要因)。」

ん?先程はIQの遺伝の影響は小さいということだったので、素直に読むとIQ以外の遺伝的要因が強い影響をもたらしているということのようですが。実際、パーソナリティや人種といった要因が影響を与えているという実証研究もあるようです。遺伝以外の要因としては、教育や富の移転、家庭環境などが挙げられます。

結局のところ、世代間の所得レベルの伝播は複合的な要因によって決まるというのが無難な結論ですが、まだまだ説明しきれていない部分が多いというのが実態のようです。

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