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日本の貧困と不平等について-実態はどうなっているのか?

2009-10-23 | Weblog
岩本康志東大教授のブログで2日連続して貧困不平等に関するエントリーがありました。厚生労働省の相対的貧困率の公表を契機とした投稿です。

日本の不平等については、しばらく前に「日本の不平等度は国際的にみて高い」とする説(橘木俊詔同志社大教授に代表される)と、「不平等度が高まったかに見える真の原因は、人口高齢化と単身・二人世帯の増加に求められる」とする大竹文雄阪大教授の間に格差論争が起こりましたが、その後はイメージ先行の格差論が跋扈しているような印象を受けます。

上記の2つの記事は、不平等に関する、最新のデータによる簡潔なサマリーになっており有用です。2008年のOECD調査の結果(および厚生労働省公表の相対的貧困率の解釈)を要約すると以下のようになります。
(1)日本の不平等度は拡大しているが、それは世界的な傾向とほぼ同じ程度の拡大であると考えられる。
(2)しかし、相対的貧困率については、先進24カ国平均と比べ、日本の上昇率が高く、1985年には24カ国中8番目だったのが、2005年頃には4番目に上がったと推測される。

岩本教授自身は同一年齢階層内の不平等の拡大は無視し得ないものである可能性を示唆しており、大竹教授の説に(その意義を高く評価しつつも)反論を試みていますが、同時に以下のようにものべています。

...大竹氏は,「近年観測された経済全体の所得格差拡大は,日本が格差社会に移行したことを示すものではない」とのべている。この言明は,格差はこれからも拡大しない,格差への政策的対応は必要ない,という方向へ短絡的に解釈されてしま うおそれがある。実際,大竹氏の見解をそうした方向に位置づけるようなメディアの振り付けも見られたりした。しかし,大竹氏は本書の同じ場所で,将来の格差拡大の予兆(若年者層の消費格差の拡大と国民が将来の格差拡大を予感)を読み取っていることを見落としてはいけない。
(大竹文雄著「日本の不平等」の書評より)

格差論議はともすれば感情的に流れやすいトピックだけに、まず慎重な事実の把握が重要であるという、当たり前のことを再認識させてくれるエントリーとなっています。