Good Life, Good Economy

自己流経済学再入門、その他もろもろ

都市計画は住宅バブルの真犯人か?

2009-10-14 | Weblog
Cato Instituteのサイトに"How Urban Planners Caused the Housing Bubble"(by Randal O'Toole)というリサーチ・ペーパーがアップされています。サマリーを読んでみると、「要するに、規制的な成長管理は住宅バブルの必要条件である」...ありゃ、都市の成長管理政策は乱開発を抑えて、住民の厚生を高めるためにあるんじゃないの?これでは全く逆効果ですね。リバタリアン的アプローチで知られるCatoなだけに成長管理政策に批判的なのは肯けますが、ちょっと意外な感じがしたのでペーパーを眺めてみました。

読んでみると...すでにクルーグマンが2005年に指摘していたんですね。-米国内でも住宅建築に関する規制の少ない地域では地価の上昇は顕在化していないが、沿岸部の規制の強い地域では住宅供給が限られるために、ひとたび金利が低下して住宅価格の上昇期待が高まると、住宅バブルが引き起こされる。実際にニューヨーク、マイアミ、サンディエゴなどの「規制地域」では住宅バブルが発生している- (初出はNew York Timesのコラムですが、私家版の翻訳はこちらのサイトで読めます。)

O'Tooleのペーパーにもあるように、これは初歩的なミクロ経済学の問題です。つまり、住宅供給曲線が非弾力的であれば、住宅需要が増加しても、住宅価格の上昇は押さえられるが、供給曲線がより弾力的であれば、需要の増加に伴う価格上昇はより大きくなる。即ち、成長管理政策により、新たな住宅建築が抑制されている状況では、住宅需要の上昇に伴う住宅価格上昇は、規制の少ない地域より大幅になる。

標準的な理解では、参入規制(ここでは住宅建築規制)の撤廃は社会全体の厚生を高めます。規制が正当化されるのは外部不経済(混雑や景観の破壊等)がある場合ということになります。
(ただし、都市環境や景観は、外部性だけでは解消しえない価値-地域固有の歴史や文化、コミュニティ等-に関わる問題でもあります)

住宅バブルの原因として、意外にこうしたミクロ経済学的説明は流布していないように思われます(私の不勉強のせいでもありますが)。O'Tooleも指摘するように(1)FRBの低金利政策がバブルを招いた、(2)地域再投資法が低所得者層への安易な住宅ローン供給を後押しした、(3)ウォール・ストリートがサブプライム・ローンのリスク評価を誤った、といった説明のほうが、よりポピュラーではないでしょうか。

O'Tooleに言わせれば、これらの要因は全国共通であり、なぜカリフォルニアやフロリダで住宅バブルが発生し、ジョージアやテキサスでは発生しなかったのかを説明できない、ということになります。

ただし、O'Tooleのように、成長管理政策が住宅バブルの真犯人と言い切ってしまうのは、いささか乱暴過ぎるように思われます。確かに、カリフォルニアやフロリダとジョージアやテキサスとで金融緩和の影響が非対称に現れたのは事実ですが、バブルの直接的な原因は、行き過ぎた金融緩和、グローバル・インバランス、持ち家促進税制等の政策の失敗、乱脈融資と杜撰なリスク管理といったところに求めるのが妥当ではないでしょうか。

とはいえ、成長管理政策がどのように機能しているか、実態をよく観察してみる必要があるでしょう。実際には成長管理政策の結果、中低所得層が排除され都市としての多様性を喪失しつつあるといった指摘もあります。サブプライムの問題が世界的な金融危機に波及する前に、都市政策サイドで何か打つ手はなかったのか、という問題提起もありうるでしょう。